不規則に揺らぐ灯りのようだ。いまならまだ、指先でかんたんに潰してしまえる。しかし、安易にふれれば傷を負う。ほかを遠ざける静謐がぴんと糸をはっている。 　完璧な輪郭としてふちどられた横顔、影を落とすまつげ。洟をすする、一瞬のまぶた。いくらかの毒によって濡れたくちびる、溺れた瞳。物憂げによってもたらされる、ひそやかなことのは。光は色とりどりの多面体を形成しては、溶けるをくり返した。 　たったいま、編まれた夢がほどけていく。　体温がこもった毛布のなか、ぱちぱちと散っていく火花を追いかけた。おもわず、のどの奥から吐息が漏れる。湿り気によって呼び戻される夜明け。 　内緒話のつづきを、もっと。　ああ、わたしはまた忘れてしまうのか。 　寝返りを打つ、からだの重さが煩わしい。雨が降っているのかもしれない。涙のあとが、目尻に残っていた。これで幾度目かわからない。ただ、もう一度会いたい。だれに、わからない。よせては返す波のように、夢はたびたび戸口をおとずれた。　熱っぽい感情が繭の内側で疼く。まるで、かなわぬ恋でもしてきたみたい。もやの向こう側へ手放してきた記憶。雨音が鳴っている。薄明が頬をなでた。あくびをひとつ、わたしはつまさきから大きく伸びた。 楢﨑古都 星屑と人魚舎