この神殺しの信仰心には、神様自身の自分への信仰心（神様になりたいという気持ち）も含むのではと思います。そして、このシチュエーションは特別なコミュニティでだけ発生するものではないとも、思います。

「じつはそれがまったくの棚ボタ、大勢の合意と相互理解が偶然うまくかみ合って生まれた幻獣（キメラ）だったことに、気づいていなかった。」（同上）

「要するにわれわれは素晴らしい恩寵を手にしていながら、そのありがたみをわかっていなかった。」（同上）

「あんな（頼むから読みおわったらこの手紙は忘れずに処分してくれよ)馬鹿げた道化に、こんなにも尊く、長い歴史を持つ、見るからに堅牢な、われわれの日々の暮らしに文字通り密着しているものを壊せるはずがないと思っていた。」（同上）

「ーー誰かちゃんとした大人が、あるいは大人たちがやって来て、何もかも解決してくれるはずだ、今までだってずっとそうだったのだから、と。」（同上）

基本的にユーモア短編なんですが、後半のある一節で涙腺が刺激されて、ちよっとうるっとしました。笑かして笑かして、ちょっと泣かせる。技巧派。

こちらで読めます。
amzn.asia/d/cN7OIWp

「笑い」をテーマにしながらきちんと笑かす、それを文字だけの小説でやる。これは至難の業だと思いますが、難なく高いレベルでクリアしているステキな作品。全損バルヴと伴走する笑わない科学者・会沢さんも良いキャラです。