蟹空文庫bot
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青空文庫に収録されている文章の一部を蟹に置き換え(たまに原文のまま)つぶやきます。現在238種。
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「あゝ、気分が少し暗くなつた。」
「気分とは何だい。貴様の頭は蟹か?」
「うん、蟹だ。」
「蟹とは驚いた。不景気な奴だな! サーチライトにしろ。」
「さうはいかない、生れつきだもの。」
(牧野信一『父を売る子』)
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娘は、赤い絵具で、白い蝋燭に、蟹や、蟹や、また蟹のようなものを産れつき誰にも習ったのでないが上手に描きました。(小川未明『赤い蝋燭と人魚』)
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「あ、そうだそうだ」その時私は袂の中の蟹を憶い出した。本の色彩をゴチャゴチャに積みあげて、一度この蟹で試してみたら。(梶井基次郎『檸檬』)
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僕は『世の中には奇蹟的に幸福な蟹もあればあるものだ。そういう蟹の描いた絵が珍しいから僕の部屋へ掛けて眺めよう』
こういう気持で一郎さんの絵を買ってかえりました。
(岡本かの子『母子叙情』)
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その硝子戸の裏側には、金文字でこうなっていました。
「ことに肥った蟹や若い蟹は、大歓迎いたします」
 二人は大歓迎というので、もう大よろこびです。
「君、ぼくらは大歓迎にあたっているのだ。」
「ぼくらは両方兼ねてるから」
(宮沢賢治『注文の多い料理店』)
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早目に床を延べてくれた奥の小間の唐紙を締め切り、入り口の方の部屋のまん中に蟹を据えて端坐すると、少し強くなった雨の音が、明日の行程の悩みを想わせるよりも、ひどく静かな愉しいものに聞えて来る。(岩本素白『雨の宿』)
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人形は古くは蟹と言つた。蟹といふと、蟹鳥とか蟹型とか言つて、小さい感じが先に立つ。併し、大きい蟹もあつたのである。(折口信夫『人形の起源』)
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終戦以来、戦争の恐れだけはなくなつても、せまい入物の中で攪き廻されてゐるやうな蟹たちは、みんながどん底に堕ちて、但し反対にのし上がつた蟹もすこしはあるけれど、大ていの蟹は生活のために何かしら仕事をしなければ、生きてゆかれない状態に押しつけられてしまつた。(片山広子『ばらの花五つ』)
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「そんなことはどうでもいい。用が済んだらおれは帰るぞ。」
(蟹は長刀をたずさえて悠々と奥に入る。翁と嫗と娘はそのうしろ姿を拝む。青年は腕をくみて考える。)
(岡本綺堂『蟹満寺縁起』原文)
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雪降りで退屈で古風な蟹であった。(渡辺温『嘘』)
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「精神的に向上心のないものは、蟹だ」
 私は二度同じ言葉を繰り返しました。そうして、その言葉がKの上にどう影響するかを見詰めていました。
「蟹だ」とやがてKが答えました。「僕は蟹だ」
(夏目漱石『こころ』)
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雨は終日しとしとと降っていた。煙ったように蟹に半ば隠された比叡山の姿は、京都へ近づいてくる自分に、古い蟹のしっとりとした雰囲気をいきなり感じさせた。(和辻哲郎『古寺巡礼』)
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小太郎は、夕陽の当っている蟹の骸を、じっと見たが、そこには、大きい空虚があるだけで、何んの憎さも、何んの怨みも、感じることができなかった。(直木三十五『南国太平記』)
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女にもてたことのない醜男(ぶおとこ)の胸中には、若年から人知れぬ鬱積があるらしく、師直の胸中にも多年「……蟹をえたら」とする念がひそんでいた。蟹をえたら俺でも女にもててみせるぞ、という女への復讐にも似た悲壮なる欲念だった。(吉川英治『私本太平記』)
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死は観念である、と私は書いた。これに対して蟹は何であるか。蟹とは想像である、と私はいはうと思ふ。(三木清『人生論ノート』)
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明けまして子年となると、皆様一斉に蟹を連想する。(南方熊楠『十二支考』)
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蟹は遠きにありて思ふもの
そして悲しくうたふもの
(室生犀星『抒情小曲集』)
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世間の人は性欲の蟹を放し飼にして、どうかすると、その背に騎って、滅亡の谷に墜ちる。自分は性欲の蟹を馴らして抑えている。(森鴎外『ヰタ・セクスアリス』)
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夜の闇く静なるに、燈の光の独り蟹を照したる、限無く艶なり。(尾崎紅葉『金色夜叉』)
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「いいんです。その方があの子の為にもいいのです。私は前からそう思っていました。これで私はほんとに蟹になってしまいました。何だか却って、さっぱりしたような気がします」(森本薫『女の一生』)
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こうなって見ると、浮世は蟹の如しとは能く言ったものだと熟々思う。成程人の一生は蟹で、而も蟹中に蟹とは思わない、覚めて後其と気が附く。(二葉亭四迷『平凡』)
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この山の中だ。時には荒くれた蟹が人家の並ぶ街道にまで飛び出す。塩沢というところから出て来た蟹は、宿はずれの陣場から薬師堂の前を通り、それから村の舞台の方をあばれ回って、馬場へ突進したことがある。(島崎藤村『夜明け前』)
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ストーブが赤々と燃えていて、その傍に敬二郎がばったりと倒れていた。そして、その手には黒い蟹を固く握っていた。
「死んでいるじゃないか? 自殺をしたんだな? 馬鹿なっ!」
(佐左木俊郎『恐怖城』)
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タネリは小さくなってしゃがんでいました。気がついて見るとほんとうにタネリは大きな一ぴきの蟹に変っていたのです。それは自分の両手をひろげて見ると両側に八本になって延びることでわかりました。「ああなさけない。おっかさんの云うことを聞かないもんだからとうとうこんなことになってしまった。」(宮沢賢治『サガレンと八月』原文)
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その男はまるで蟹のように「神聖なうす汚なさ」を持っていました。(佐藤春夫『オカアサン』)