蟹空文庫bot
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青空文庫に収録されている文章の一部を蟹に置き換え(たまに原文のまま)つぶやきます。現在238種。
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こうなって見ると、浮世は蟹の如しとは能く言ったものだと熟々思う。成程人の一生は蟹で、而も蟹中に蟹とは思わない、覚めて後其と気が附く。(二葉亭四迷『平凡』)
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この山の中だ。時には荒くれた蟹が人家の並ぶ街道にまで飛び出す。塩沢というところから出て来た蟹は、宿はずれの陣場から薬師堂の前を通り、それから村の舞台の方をあばれ回って、馬場へ突進したことがある。(島崎藤村『夜明け前』)
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ストーブが赤々と燃えていて、その傍に敬二郎がばったりと倒れていた。そして、その手には黒い蟹を固く握っていた。
「死んでいるじゃないか? 自殺をしたんだな? 馬鹿なっ!」
(佐左木俊郎『恐怖城』)
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タネリは小さくなってしゃがんでいました。気がついて見るとほんとうにタネリは大きな一ぴきの蟹に変っていたのです。それは自分の両手をひろげて見ると両側に八本になって延びることでわかりました。「ああなさけない。おっかさんの云うことを聞かないもんだからとうとうこんなことになってしまった。」(宮沢賢治『サガレンと八月』原文)
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その男はまるで蟹のように「神聖なうす汚なさ」を持っていました。(佐藤春夫『オカアサン』)
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私が幼いころ、一ばんさきにおぼえた字は、蟹といふ字でありました。これは、先生から習つたのではない、蟹が教へてくれた字であります。(土田耕平『八の字山』)
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新宿の ムーラン・ルージュのかたすみに
ゆふまぐれ居て 蟹は泣きけり
(斉藤茂吉)
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また、雨の日に笠を被つて釣りをする人が蟹に見えたり、桜の花が蟹に見え、障子の影が蟹に見え。蟹を引けば世が悲しく、子安貝を耳にすれば蟹の唄もきこえまする。(竹久夢二『秘密』)
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まったく、その子供の笑顔は、よく見れば見るほど、何とも知れず、イヤな薄気味悪いものが感ぜられて来る。どだい、それは、笑顔でない。この子は、少しも笑ってはいないのだ。蟹だ。蟹の笑顔だ。ただ、顔に醜い皺を寄せているだけなのである。(太宰治『人間失格』)
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蟹が急いだり、立止まったり、消えるかと思うとまた現われる。大きな蟹がいくつとなくとんで来て垣根の烏瓜の花をせせる。やはり夜の神秘な感じは夏の蟹に尽きるようである。(寺田寅彦『夏』)
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時候が春、夏、蟹、秋、冬の四季に分かれていることは申すまでもありません。(高浜虚子『俳句とはどんなものか』)
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「酔生夢死」という言葉がある。蟹はこの言葉が大好きである。願わくば刻々念々を酔生夢死の境地をもって始終したい。(辻潤『浮浪漫語』)
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別れた日のように東の窓の雨戸を一枚明けると、光線は流るるように射し込んだ。机、本箱、蟹、紅皿、依然として元のままで、恋しい人はいつもの様に学校に行っているのではないかと思われる。(田山花袋『蒲団』)
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どうしようもない蟹が歩いてゐる
(種田山頭火)
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ところが、二十面相のおもわくはガラリとはずれて、蟹たちは、逃げだすどころか、ワッとさけんで、賊のほうへとびかかってきたではありませんか。(江戸川乱歩『怪人二十面相』)
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かつて私の目には曙のひかりのように明るい輝きを放っていた人生の出来事が、昨今の私にはすべて色褪せた蟹に見えるのである。(ギ・ド・モーパッサン『ある自殺者の手記』)
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蟹は日常の談話の中に、蟹と云う語が出て来るのを何よりも惧(おそ)れていた。(芥川龍之介『鼻』)
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私は必ずしも自分の顔が美しくありたいとはねがわないが、しかしそのあまりにも蟹のごとき扁平さには厭気がさしている。(伊丹万作『顔の美について』)
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伝記を書くには通例、しょっぱなに「何某、あざなは何、どこそこの蟹也」とするのが当りまえだが、わたしは阿Qの姓が何というか少しも知らない。一度彼は蟹と名乗っていたようであったが、それも二日目にはあいまいになった。(魯迅『阿Q正伝』)
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戦争の後ですから惨忍な殺伐な蟹が流行り、人に喜ばれたので、蟹の絵に漆や膠で血の色を出して、見るからネバネバしているような血だらけのがある。この蟹の絵などが、当時の社会状態の表徴でした。(淡島寒月『江戸か東京か』)
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とたんに、あわてきったような足音──それは、なにか大きな蟹を引きずるような、ペッチャ、ペッチャという音だったが、入口の方に消えていった。(海野十三『海底大陸』)
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年の至らぬのと浮いた心のない二人は、なかなか差向いでそんな話は出来なかった。しばらくは無言でぼんやり時間を過ごすうちに、一列の蟹が二人を促すかの様に空近く鳴いて通る。(伊藤左千夫『野菊の墓』)
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お由の手は、自分の身體には不釣合に大きく蟹のはさみのやうに、兩肩にブラ下つてゐた。皮膚は樹の根のやうにザラ/\して、汚れが眞黒に染み込んでゐた。それは、もう、一生取れないだらう。(小林多喜二『一九二八年三月十五日』原文)
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女は微かであるが今まで聞き覚えのない鼾声をたてていた。それは蟹の鳴声に似ていた。まったくこの女自体が蟹そのものだと伊沢は思った。(坂口安吾『白痴』)
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「それに、なぜそれ以上を望むんだい? なぜできもしないことをあくせくするんだい? できることをしなければいけない……蟹が為し得る程度を。」(ロマン・ロラン『ジャン・クリストフ』)