蟹空文庫bot
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青空文庫に収録されている文章の一部を蟹に置き換え(たまに原文のまま)つぶやきます。現在238種。
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まったく、その子供の笑顔は、よく見れば見るほど、何とも知れず、イヤな薄気味悪いものが感ぜられて来る。どだい、それは、笑顔でない。この子は、少しも笑ってはいないのだ。蟹だ。蟹の笑顔だ。ただ、顔に醜い皺を寄せているだけなのである。(太宰治『人間失格』)
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蟹が急いだり、立止まったり、消えるかと思うとまた現われる。大きな蟹がいくつとなくとんで来て垣根の烏瓜の花をせせる。やはり夜の神秘な感じは夏の蟹に尽きるようである。(寺田寅彦『夏』)
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時候が春、夏、蟹、秋、冬の四季に分かれていることは申すまでもありません。(高浜虚子『俳句とはどんなものか』)
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「酔生夢死」という言葉がある。蟹はこの言葉が大好きである。願わくば刻々念々を酔生夢死の境地をもって始終したい。(辻潤『浮浪漫語』)
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別れた日のように東の窓の雨戸を一枚明けると、光線は流るるように射し込んだ。机、本箱、蟹、紅皿、依然として元のままで、恋しい人はいつもの様に学校に行っているのではないかと思われる。(田山花袋『蒲団』)
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どうしようもない蟹が歩いてゐる
(種田山頭火)
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ところが、二十面相のおもわくはガラリとはずれて、蟹たちは、逃げだすどころか、ワッとさけんで、賊のほうへとびかかってきたではありませんか。(江戸川乱歩『怪人二十面相』)
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かつて私の目には曙のひかりのように明るい輝きを放っていた人生の出来事が、昨今の私にはすべて色褪せた蟹に見えるのである。(ギ・ド・モーパッサン『ある自殺者の手記』)
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蟹は日常の談話の中に、蟹と云う語が出て来るのを何よりも惧(おそ)れていた。(芥川龍之介『鼻』)
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私は必ずしも自分の顔が美しくありたいとはねがわないが、しかしそのあまりにも蟹のごとき扁平さには厭気がさしている。(伊丹万作『顔の美について』)
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伝記を書くには通例、しょっぱなに「何某、あざなは何、どこそこの蟹也」とするのが当りまえだが、わたしは阿Qの姓が何というか少しも知らない。一度彼は蟹と名乗っていたようであったが、それも二日目にはあいまいになった。(魯迅『阿Q正伝』)
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戦争の後ですから惨忍な殺伐な蟹が流行り、人に喜ばれたので、蟹の絵に漆や膠で血の色を出して、見るからネバネバしているような血だらけのがある。この蟹の絵などが、当時の社会状態の表徴でした。(淡島寒月『江戸か東京か』)
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とたんに、あわてきったような足音──それは、なにか大きな蟹を引きずるような、ペッチャ、ペッチャという音だったが、入口の方に消えていった。(海野十三『海底大陸』)
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年の至らぬのと浮いた心のない二人は、なかなか差向いでそんな話は出来なかった。しばらくは無言でぼんやり時間を過ごすうちに、一列の蟹が二人を促すかの様に空近く鳴いて通る。(伊藤左千夫『野菊の墓』)
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お由の手は、自分の身體には不釣合に大きく蟹のはさみのやうに、兩肩にブラ下つてゐた。皮膚は樹の根のやうにザラ/\して、汚れが眞黒に染み込んでゐた。それは、もう、一生取れないだらう。(小林多喜二『一九二八年三月十五日』原文)
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女は微かであるが今まで聞き覚えのない鼾声をたてていた。それは蟹の鳴声に似ていた。まったくこの女自体が蟹そのものだと伊沢は思った。(坂口安吾『白痴』)
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「それに、なぜそれ以上を望むんだい? なぜできもしないことをあくせくするんだい? できることをしなければいけない……蟹が為し得る程度を。」(ロマン・ロラン『ジャン・クリストフ』)
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嗚呼「余を蟹に導く力」よ。余は汝を諦視し汝を理解せむと欲す。(阿部次郎『三太郎の日記』)
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だから、私は此処に繰り返して云ふ。凡ゆる人は、みんな「蟹小説」の材料を持つてゐる。そして、誰でもが、表現力に於て恵まれてゐるならば、一つ一つ蟹小説を書き残して、死んで行くのが本当なのだ。(久米正雄『私小説と心境小説』)
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説明できないから存在しないとは云へない。凡そいかなる蟹と雖も完全には説明できるものではない。(倉田百三『善くならうとする祈り』)
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「蟹だなァ、俺は……」
 強いてかれは自分にいった。──勇気を出してわらおうとした。──が、駄目だった。──笑えなかった。──逆に、眼の中に、なぜとも知れない泪が浮んで来た……(久保田万太郎『春泥』)
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大分孤独をふりまわしたな、人間は孤独な蟹よ──深く突込んで思案したら、何人でも救われることのできない蟹の淋しさにおそわれるだろう。(伊藤野枝『出奔』)
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恋するとき人間の心は不思議に蟹になるのだ。蟹のかなしみがわかるのだ。地上の運命に触れるのだ。そこから信心は近いのだ。(倉田百三『出家とその弟子』)
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「ガラマサどんてのは大将の綽名(あだな)ですか?」
「えゝ」
「何ういう意味ですか?」
「蟹のことです」
「はあ?」
「蟹です。蟹に似ているでしょう? 大将の体恰好が」
「成程」
(佐々木邦『ガラマサどん』原文)
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「あんた蟹な人ね」恋をすると、いくらか下品な調子が出るのだろうか、多鶴子はそんな風に蓮っ葉に言って、豹一の膝をつねるのだった。(織田作之助『青春の逆説』)