AI導入で進む人員選別、そして後悔する過半数の企業
世界最大級の総合コンサルティング企業「アクセンチュア(Accenture)」が2025年度の決算で、「AIを活用できない従業員、あるいはAI活用の新しい技能を習得する見込みがない従業員に対して、退職を促す可能性がある」ことを明言した。 今回のアクセンチュアの発表に対しては、今後の収益や競争力を現実的に見据えた再編だと評価する声がある一方で、「これまで企業に貢献してきた従業員には厳しすぎる対応」「成熟した従業員を追い出すための口実なのでは」などといった批判の意見も挙がっている。 アクセンチュアとAI アクセンチュアはアイルランドのダブリンを本拠地とする世界最大級の総合コンサルティング企業で、世界の120か国以上に拠点を持ち、約70万人の従業員が在籍している。多くの大手グローバル企業を顧客とし、経営戦略や業務改革の立案から、具体的なIT導入やクラウドの活用支援まで多岐にわたったサービスを提供しており、特にテクノロジーを活用したコンサルティングに定評がある。 2025年度のアクセンチュアが、AI関連ビジネス(特に生成AIやエージェント型AI関連が目立っている)で得られた収益は約27億ドルとなった。これは前年度比の約3倍に該当している。そんな同社は現在、「再構築戦略(business reoptimization strategy)」を進めており、組織や人員に関する大規模な見直しを実施している。そして今回の発表は、平たく言うなら「AIを活用できない従業員や、いまからAI活用のための技術を習得できそうにない従業員は、もう辞めてもらいたい」と宣告するような内容だった。 現在のアクセンチュアには、すでに「AIに特化した専門家」が77,000人在籍している。2023年の時点では約40,000人と発表されていたので、この2年間で倍近くまで増やしたということになる。さらに同社は、550,000人の従業員に対しても「生成AIの基礎知識に関する研修を実施した」と報告している。 アクセンチュアの戦略に対する賛否の声 複数のビジネス系メディアは、今回のアクセンチュアの方針を「再教育と人員選別を組み合わせた戦略(二つの軸を取った戦略)」と表現しており、AI関連サービスが急激に発展している現代においては、今後の収益性・競争力維持を見据えてリスクヘッジした再編だと分析する意見も多い。 一方、IT系メディアのコメント欄や英語圏の掲示板では、「これは典型的なAIハイプであり、見せかけの変革でしかない」「年齢差別の幕開け」「体のいいリストラ」といった批判的な声が目立っている。たとえば次のような意見だ。 ・ただ「AIに対応して変革している先進的な企業」というイメージを狙った戦略だ。とにかくAIを重視したポーズを見せたがっているだけ・「AIを活用できる従業員」や「リスキリングの見込みがない従業員」などの区別が曖昧すぎる。どのように判断するつもりなのか・従業員の再教育に注力したいというよりも、「AIを使えない者は去れ」と非人道的な圧力をかけているように感じる・AIを導入して高コストの従業員を減らしたい企業が、「当社の経験上、45歳以上の人はAIを効果的に使えない」などの理由をつけて従業員を追い出す、あるいは年齢差別に基づいて雇用をするプランだろう・これは、長年にわたって貢献してきた高給取りの人材を「経験は豊富だがAI関係のスキルは浅い」といって解雇するための口実ではないのか・アクセンチュアが「ITに対応できない者に退職を求める」という方針を打ち出したことで、他業種の企業にも「AI主導型/人員削減」の波が広がるのではないか より急進的な「AIファーストと人員削減」 今回のアクセンチュアが多くのメディアの注目を集めたのは、「業界最大手レベルのグローバル企業で、これほど明白にAIを優先した人員選別の意向が語られることは珍しかったため」だろう。しかしベンチャー企業やスタートアップ企業では、アクセンチュアよりも急進的な(あるいは過激な)AI優先型の人員削減が報告されている。 たとえばフリーランス向けグローバルプラットフォーム「Fiverr」を提供しているイスラエルのテクノロジー企業Fiverrも、つい先日に従業員約250人(全従業員の約30%)のレイオフを発表したばかりだ。 「AIファースト」を掲げる同社CEOのMicha Kaufmanは2025年4月、従業員に対して「AIツールのスキルアップができない者は、数か月のうちにキャリアの変更を迫られるリスクがある」という通達を出し、AIスキル重視の方針を伝えていた。そして9月15日には「よりスリムでシンプルな組織を目指す」という意図のもと、横断的で大規模な解雇と再配置に踏み切ることを発表した。 アクセンチュアよりも明確に、容赦なく「AIを学んだ者だけ残した」方針と言ってよいだろう。 企業向けのソフトウェアソリューションを提供している米国のIT企業「IgniteTech」の場合は、それよりも過激だった。同社はAIファーストの企業に転換するための措置として、2023年から2024年にかけて全従業員の約80%をレイオフしてきた。これは「社内でAI導入に強く反発した従業員(特に技術部門)への対応」が目的だったと考えられている。 同社CEOのEric Vaughanは、「AIがもたらす変革の可能性を信じる心」が従業員に不可欠だと説明しており、「それを理解できない者は解雇するしかない」「信じていない人間を強制的に変えることはできないからだ」とまで言い切っている。 これらの急進的なトップダウン型の決断は、企業としてのリスクも高くなる。「AI優先で革新的な企業」のイメージを強くアピールできる反面、労働者の人権を軽視した行動だと非難する声も挙がるだろう。もしもアクセンチュアのような大企業が、このような過激な判断に踏み切った場合には、企業イメージに影響が出るだけでなく、従業員に不信感を持たれた結果として優秀な人材の大量流出(それに伴う顧客や知見の流出)を招く可能性もある。 一方で、FiverrやIgniteTechのような企業の場合は、このような大量解雇に踏み切ることも「リスクを承知で組織の大変革を目指した現実的な判断」だという見方もできるのかもしれない(Vaughanに関しては、さすがに言動が極端すぎるようにも思われるが)。 過半数が「あの人員削減は誤りだった」と回答 2023年から2024年にかけて約80%の従業員を解雇したVaughanは、2025年9月現在も「非常に難しい決断だったが、それは正しい判断だった」と語っている。さらに彼は、もしも再び同じような状況になった場合には、同様のレイオフを行うだろうともコメントしている。 その一方で、AIの導入に伴い人員削減を行った企業では「早すぎた決断」を後悔しているケースも多いようだ。英国を拠点とするSaaS企業のOrgvueが2025年4月29日に発表した調査報告によると、AIの推進を理由にスタッフを削減した企業の過半数は、その判断を「誤りだった」と認めている。 このOrgvueの調査は、米国、カナダ、英国、アイルランド、オーストラリア、香港、マレーシア、シンガポールなどの中〜大規模の組織に所属している上級幹部を対象として2024年に実施されたものだ。有効回答者1,163人のうち「AIを導入した結果、従業員を冗員と判断した(削減した)」と回答したのは39%。そして削減を実行したうちの55%が「その判断は誤りだった」と回答した。 しかし彼らは決してAIの影響を軽視しているわけではない。回答者の72%が「AIは今後3年間の人材活用変革の主要推進力である」と考えており、またAIに投資した企業の80%は「2025年に投資額を増やす」という意向を示し、そして76%が「我々は2025年末までにAIを充分に活用できるという自信がある」と回答している。その一方で、27%が「明確なAIのロードマップを持っていない」、38%は「組織へのAIの影響を充分理解していない」、25%は「どの役割がAIに恩恵を得るか把握していない」、30%は「どの役割が自動化のリスクにさらされているか把握していない」とも回答している。 この調査結果を見ていると「AI導入による人材改革には非常に積極的で、自分たちは乗り遅れないという自信もある反面、実際には何が必要なのか、何が起きているのかもよく分からないまま、とにかくAIを導入してスタッフを削減してみた結果、いまは後悔している企業のリーダーたち」が決して少なくないように感じられてくる。 もちろん「AIの急成長に浮かれているアクセンチュアも、そのような企業と同じ轍を踏むに違いない」と言いたいのではない。少なくとも彼らは自社の置かれた状況やリスクを理解したうえで、できるだけ現実的な判断へと踏み切ったようにも見える。しかしAIのロードマップを持たず、従業員の育成についても真剣に考えていないような組織が「とにかく我々もAIを導入すればいいのだ、そして人員のコストを削減するのだ」と安直に倣うのは、あまりにも無謀すぎる判断だろう。 先の調査を行ったOrgvueのCEO、オリバー・ショーは以下のようにまとめている。「2024年は(AIへの)投資と楽観主義が大いに目立った年だった。しかし一方で、企業は『従業員への影響を充分に理解しないままAIで人材を代替しようとすれば、大きな失敗につながる』ということも痛感しているようだ」「我々はいま、過去数十年間で最も深刻な人材不足に直面している。人材育成の戦略を明確に持たずに従業員を解雇するのは無鉄砲だ。一部の経営者は『AIに期待できる生産性の向上を実現するには、人々と機械が協働する意識的なスキルアッププログラムが必要だ』ということをようやく認識しはじめている」 引用、参考資料 If you can't use AI then it's bye bye, Accenture tells staff・The Register to ‘exit’ staff who cannot be retrained for age of AI $865 million reinvention includes saying goodbye to people without the right AI skills _ Fortune…