藍沢柚香
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火星植物園
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(体感)三十日間パレス一周(シャロジョン S4後)
#marsgarden
押し当てられたものをとりあえず食むと、だんだん自分と世界の境界線がはっきりしてくる。くちびるがあり、歯があり、舌があり、味覚がある。前回の反省を生かしたのか、薄く伸ばした生地は端が焦げかけていないこともなかったが、悪くはなかった。今のうちに栄養補給をと騒ぎ出す身体がお茶の香りと、親しんだ気配を探り当てる。
ロージィのお手製ビスケットをすっかり口内に収めたところで、丸い指先の主はマグカップをよこした。どうやらまだ飲み頃のようだ。待たせた時間はどのくらい? とりあえず、今日だけならまだ十分ほど。まだ冬になりきらない風で赤く染まった耳を根拠として挙げる。
「だいぶ長くお留守にしていたようだけど、」
「僕の顔は忘れてない?」
いつかの会話を引っ張り出せば、ジョンは眉をぎゅっと寄せて、それを食べ終わったらシャワーも浴びて少し寝ておけよと言い渡し、椅子の肘掛けから降りた。
あの日と同じようにその腕をつかまえて忘れていない証拠を提示しようとも思ったが、もう少し別のやり方を今はもう知っている。 ただ、それをするためには指示通りシャワーを浴びたほうがいいような気もしたのだが、立ち上がってその背中に覆いかぶさった。怒られても口だけであることをもう知っている。
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返信しました。ポチッとしてくださった方、ありがとうございます!
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映画『見える子ちゃん』やられたー!やったー!ってなったので楽しかったです!
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なんでもいきものくじ!(ファミマ一部店舗でやってます)
🐣はD賞のポーチを当ててお部屋に持っていきましたので写真は大人 の分です。
ダイカットメモ帳、選ばせてもらったのでおにぎりとちょびみみコンビを。コンビニモチーフかわいいので満足。
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一番くじを引きに行く!
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グロではないんですけど、人を殴っている描写が入っているので、とりあえず。
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ないしょ話にはふたり要る(シャロジョン S4後)
✿暴力描写があります。
#marsgarden
人は見かけによらない、なんてことはこの仕事をしていればしょっちゅう思うことだ。もっとも、あの兄弟にとっちゃそんなのはただ俺が見ていないだけなんだろうが。
今回の連続暴行事件はあの例外たちが歯牙にもかけないような、そういう事件だった。人死はなし、金銭の強奪はなし。神出鬼没ではあるが活動範囲は絞られてきていたーー被害者の数の多さのために。そもそも被害に遭った人間にとって事件に大きいも小さいもない。ステッキで立ち向かったご婦人は転倒したせいもあって脚の骨を折り、他の被害者とは違い後ろから頭を殴打された学生さんは今も入院するほどの深手を負っていた。
ロンドン市民をうんざりさせていた暴行事件の犯人、その実態はといえばその辺にいそうな若い男だった。ひょろりと縦にばかり長い以外には特徴もなく、暴行を加えられた被害者さえその姿形を覚えていなかったほどだ。
どうして捕まったか、学生さんの次にターゲットとして選んだ相手が俺の友人だったからだ。
本人からの通報を受けて急いで駆けつけたときにはすっかり医者の顔をしていたが、どうやら元軍人としての経験を遺憾なく発揮したらしい。暴行犯のほうは肩の関節を戻された痛みで気絶しかかっていたが、ジョンのほうは前髪がほんの少しほつれて額にかかっていたほかはなんともなかった。本当になんともなかったのかもきちんと確かめた。 ジョンのことだ、テキパキと処理したのだろう。
「なんなんだはあんたに殴られたり蹴られたりした人たち全員が思っていることだよ」
一連の暴行事件は八つ当たりだ。自身の不満と鬱憤をまったく無関係な、まずは自分よりも身体的に弱い相手になすりつけるような。ターゲットを変えてきていたのはだんだんと悪い自信をつけてきていたからだろう。とはいえ自分よりも小柄な相手ばかりを選んでいたわけだが。
こっちの言うことなんてまるで聞く気がないらしい男は、あのオッサン、次会ったらただじゃおかないと口の中でくちゃくちゃと恨みを噛んでいる。
あいつはあいつで人は見かけによらないを地で行っている、ほたほた歩いている小柄でどことなく人当たりの良さそうなオッサンが、元軍人で今でも荒事に通じている医者だなんてわかるやつのほうが少ない。大人しそうな若者が暴行犯であることを看破するよりも難しいかもしれないが、歩いているだけで事件に巻き込まれる運のなさはどうにかならないもんだろうか。お嬢ちゃんがいっしょのときじゃなかったのは不幸中の幸いだろう。
肩をかきむしっている被疑者はこっちの言葉を聞いちゃいないが、精魂入れ直さなければ刑を全うしてからもこいつに明日はない。この取調室を出るタイミングを誤るだけでもう危ない、かもしれない。 とりあえず一人で部屋を出ると、どうにもうちの課が騒がしく、血相変えてバタバタしている同僚とすれ違った。こちらも少し早足で向かうと、本日の功労者が片手を上げて俺に合図した。
「よぉ。なんかあったのか?」
「ちょっと密告されて」
「ん? ああ」
うちの課にいるシャーロックのファンが、相棒の一大事を教えてしまったらしい。ややこしくなるからよせと二人で言ってあったのに。
少し身を屈めてまくし立てる早口を、部下が必死に書き取っている。こんな光景をどこかで見たな、と思ったら二二一Bだった。学校の宿題を教えてもらっているロージィのそれと似ている。
「さっき、ディモック警部も走っていったよ」
「……おかげさまでロンドンの治安がよくなるよ」
あの中のいくつかは、シャーロックにとって算数の宿題みたいなものだが、ロージィの個人教授のときとは違って書き取るまで待つような優しさはない。そうしてあちこちのデスク、事件ファイルを突き回していた探偵はようやくこちらを振り返ると、相棒を呼んだ。
「そろそろ行かないと。ロージィのお迎えがあるだろう?」
「ああ、そうだけど」、
「買い物なら君がここで時間を無駄にしているあいだに済ませてある」
「え、ありがとう」
会ったころに比べればずいぶんと丸くなった。あのころなら捜査資料を盗み見て勝手に行って、勝手に捕まえていたなんてこともあった。もっとも、手続きの軽視は相変わらずのようだ。 すれ違いざまに、探偵は小さな声で囁いてきた。
「余計な気を回さなくてもいい」
「いやいやいや」
年食ってもボーイズはお片付けが苦手なままだ。真相を看破したところで、そこでめでたしめでたしじゃあないのだから。
前を行くジョンがそのコートの袖を引いた。ぐんと体勢を崩す探偵になにやら耳打ちしたらしく、二人はじんわりとおそろいの笑みを滲ませた。
やらかす前に連絡してくれよと言うか、例外の兄のほうに電話をするか、悩むあいだにも二人の背中は遠ざかっていく。
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クリエイター側が「AI無断学習不可」ってウォーターマークを入れるんじゃなくて、AI生成物側が「これAIでっせ!」ってウォーターマーク入れるべき。義務化するべき。
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ジャックさんのなぞなぞみたいな文章を見かけて、やったーやったーってしてる。
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お店じゃないよね??ってところにゾンビがいて心底驚く。(多分ハロウィンが好きなお家)
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ひみつの味(シャロジョン S4後)
#marsgarden
お休みの日にお泊りをすると、朝がのんびりだ。ダディのベッドルームにこっそり忍び込んでダイブしてこちょこちょされるとか、あと五分あと五分のお願いを聞いてあげるとか、そういうことがない。身支度を済ませて二階に降りるだけでいい。
階段のステップをぴょんと跳んで、そのままあちこちにあるものをぴょんとぴょんで跳び越える。今日はあんまり散らかってないから、シャーロックはお仕事が順調なんだろう。そうしてそのままの勢いでキッチンへ行くと、ダディにこらって言われるからちょっと止まってお行儀をよくする。
朝ごはんの匂いがふんわりしてきて、お腹が返事をしたから、ちょっと大きな声を出す。
「ふたりとも、おはよう」
それぞれ新聞から顔を上げて、おはようを返してくれる。今日はせーのってしたみたいに揃っていたのがおかしかった。お腹の返事は聞かれずに済んだのかも。
新聞を置いてシャーロックが立ち上がる。朝ごはんはダディの担当、コーヒーもそうだけど、私に朝のお茶を淹れてくれるのはシャーロックって決まっている。おうちで飲むお茶もそこそこだけど、たまにイマイチおいしくない日がある。だってダディが淹れるから。
最高のお茶が飲みたかったら、ハドソンさんのお手伝いのご褒美をいただくのが一番だろうけれ、シャーロックのお茶も好き。私専用の青いティーポットとセットのカップ(これはマイキーおじさんのプレゼント。おじさんの淹れるお茶は結構おいしい)もかわいくて大好きだし、ダディといっしょになってその背中を眺めている時間もなんとなく好き。この好きはなんだかふわふわしてる。 お先にトマトを食べて、豆をすくってもぐもぐやりながら、好きを数える。緊急のない日曜日、ダディの朝ごはん、コーヒーの匂い、シャーロックのお茶(これは待っているところ)、お出かけの予定。ここにあるものの中で正体不明の好きはコーヒーの正体ぐらい。もっと大きくなるまでお預け。インスタントでも豆でもお預けって決まっている。
お砂糖が二つ入ったあの黒いものは多分とっても素敵なんだろう。ダディも毎日飲むし、シャーロックなんてしょっちゅう淹れてってお願いしている。ジョンはコーヒーを淹れるのは上手い。紅茶はまったくうまくならないけど、ってないしょばなしで教えてくれた。
私のためのお茶が、青いリボンを巻いたみたいなカップに注がれる。三分よりちょっと短いのが今の君の好みっていうのはやっぱりシャーロックの言葉で、だからあいつには君好みのお茶を淹れられないってこのまえふふんってしていたから、またマイキーおじさんと喧嘩をしたんだろう。
ふんわり香るいい匂いにお砂糖とミルクを入れて、ゆっくり混ぜて一口。おいしい。
向かいに戻っていたシャーロックも自分のマグに口をつけて、私の知らない秘密の味を飲む。そうしてこっちを見ると、んって笑った。
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そういえば見てくださいよ。
最愛のかぼちゃプリンと柿と紅茶のパフェ!
かぼちゃプリン(今年初)を見守るぴくちくちゃんとこれもちゃん。 柿と紅茶のパフェ。
栗、アプリコット、バナナ、マスカルポーネ、みかんが脇を固める豪華な一品。ブッセ生地も入ってふわふわ食感まで加わったいっぱいの美味しいで彩られていました。 これもちゃんはパフェが好き。 ぴくちくちゃんは去年から来ているので、お店に馴染んでいるように思えます。
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乳がん検診も受けてきたんですけども、なんかある、なんかあるけど多分悪いものじゃない、とりあえず来年は忘れずに来てね、って言われて、そうかー、去年はサボったもんなぁーと反省しました。
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子宮頸がんの検診を受けてきましたよ……今日の先生、親切で良い方でしたが痛いもんは痛い!(去年よりはマシ……)
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君はもっとこっちに(シャロジョン S4後)
#marsgarden
例によって寝返りをくり返していたジョンが、こちら側を向く。決心をつけるまでの時間は五分、ここ最近の記録だと長いほうだ。ロージィに三階の部屋を譲ってからもうずいぶん経つというのに。
なにか? と視線で問えば、今日のさ、と予想とは少し違う質問が差し出された。
「不倫カップルってどの辺でわかったんだ? 結構上手に偽装できていたと思うんだけど。膝を汚したり、くちびるのはしにリップをつけたり、移り香が残っているわけでもなかったろう?」
ああ、と相槌を打ちつつ、もう少しこちら側に来るように促す。並んで眠るのに間が空いていると寒い。おまけに君はこの時期、寒さで眠りが浅くなるのだから。
かの不倫カップル、特に依頼人の夫はほんの少し手強かった。ジョンの指摘通りのことはなく、秘密の恋人との立ち位置も近すぎず、ボディタッチをするでもなく、他人として常識的な親しさを保つ。諜報員向きの資質を備えていたと言える。
彼らの秘密を暴いたのは爆発音だった。人間は咄嗟に大事なものへ視線をやる。ジョンならロージィに目をやり、僕はその状況を確認することになるだろう。依頼人の夫は殺害予告を受けたパートナーではなく、秘密の恋人を見やった。
とはいえ、彼だけのミスではない。結局のところその恋人が、自分の立ち位置に満足できず、脅迫メッセージを送り、爆発音を鳴らしたのだから。ああも短慮であれば、僕たちが赴くまでもなく遠からず秘密は秘密ではなくなったはずだ。ただし、依頼人があの兄に貸しがあり、僕のほうではちょっぴり借りがあった、それだけの話だ。
目論見通り互いの体温でうとうとし始めたジョンは、ならさ、と半ば夢の中から問いかけてきた。 「たとえばだよ、たとえば、昔のさ、会ったばかりぐらいの君を連れてきて、今の僕らを見せたら、どのくらいで秘密に気づく?」
「五秒でわかる」
「はやいな」
薄いくちびるに良くない種類の笑みを浮かべながら、ジョンは僕を見た。互いのあいだにあるちいさな拳一つ分の距離で視線が交わる。暗闇に慣れてきた目がその輪郭を、しわの一つ一つを時間をかけてなぞる。
このザマだ。恋を知らなかったころの僕にも簡単すぎる、いいや、情報の量に圧倒されるかもしれないほどの感情。緩慢に伸ばされたジョンの指先も同じことが言える。丸いそれらは僕の髪をゆっくりと自分の好みに撫でつけ終え、この距離での定位置より離れたところに落ち着こうとしたから、きちんと誘導してやることにした。
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こちらでもおめでとうを!
健やかで楽しい一年になりますようにー!!
Reposted by 藍沢柚香
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『AはアセクシュアルのA 「恋愛」から遠く離れて』(リトルモア)、10月下旬刊行予定です。
よかったら一緒に盛り上がってください!

Web連載版は10/15までお読みになれますので覗いてみてね。
littlemore.co.jp/a-is-for-ase...
#AisforAsexual
帯付き書影。
タイトル:AはアセクシュアルのA 「恋愛」から遠く離れて
著者名:川野芽生
帯文:「恋をしない人はいない」なんて、嘘。
この世はあまりに「恋愛中心」に回りすぎでは?
アロマンティック(無恋愛)/アセクシュアル(無性愛)の経験から考え抜き、怒りと祈りを込めて綴った。
わたしたちはもっと自由になれる。
人気の小説家・歌人によるエッセイ 帯なし書影 「アセクシュアル/アロマンティックで苦労することは何?」と聞かれることがある。
アセクシュアル/アロマンティックであるが故に苦労したことなど、
ひとつもない。
心ない言葉を投げかけられることも、恋愛をするように圧力をかけられることも、恋愛の話を誰もが共有できる話題であるかのように振られることも、他者の性的な侵襲に傷付いてもそれを「潔癖さ」のせいにされてしまうことも、自分は本当はアセクシュアル/アロマンティックではなく、未熟なだけなのだろうかと悩んでしまうことも一アセクシュアル/アロマンティックだから経験したことではない。

アセクシュアル/アロマンティックに無理解な社会たから経験したことだ。

それが、私が今この文章を書いている理由だ。
川野芽生『AはアセクシュアルのA「恋愛」から遠く離れて』(リトルモア)
10月下旬刊行 誰かを好きになったことはないのか。誰かを愛したことはないのか。
それは、現実においてもフィクションにおいてる様り返される問いた。
好き、愛する、という言葉の意味はこの場合、恋愛感情に限定される。
他者に恋愛感情を持ったことのない者は、欠落を抱えている、冷たい、利己的と見なされ、いつの日か人を愛することができるようになるだろうという言葉を投げかけられる。

フィクションの場合、そうした人物はその後必ず他者と恋に落ちることになる。そして優しく善良な人物となる(恋に落ちるまでは、そうではない)。
そうでなければ徹底して悪役となる。
現実の人間に対しても、同じことが期待される。
今は何かが欠落した状態であること、いつかは「ちゃんと」人を好きになることを。
川野芽生『AはアセクシュアルのA「恋愛」から遠く離れて』(リトルモア)
10月下旬刊行
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詰めが甘かったなぁ、どのみち水族館なのに!
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昼下がりの出来事(シャロジョン、S4後)
不意に子どものころのことを思い出した。あと一時間もしたのなら、ハドソンさんと帰ってくる娘が同じことをするからだろうか。
あの子よりももう少し背が低かった時分の僕は、こうしてノブを掴んだときによくこんなことを祈っていた。どうか良くなっていますように。
楽しみな日の雨を遠ざけるように、怪我をしなくて済むように、大ピンチのページの向こうにハッピーエンドがあることを願うように、もしかしたらそれよりもちょっとだけ必死に祈っていた。どうか良くなっていますように。
その祈りの届け先は神さまではなくもっと近くにいた。結果は半々ともいかない。
なにをしているのか問われた覚えもないのに、ハリーは一度だけこう言った。「意味ないよ、そんなの」
あの子も、思うことがあるだろうか。家のドアノブを、このフラットのドアノブを握りながら、どうか良くなっていますようにと。
大人になってだいぶ経つ手と足は持ち主の考えを知らないみたいに一連の動作を終える。ドアを開く、中に入る、振り返る、鍵をしめる、前を向く。
そうしてようやく家事を取り戻して、一呼吸。
二人までならベッドにもなる十七段を前に躊躇ったのは僕だけで、足のほうは前に進みたがっている。バイオリンの音色がはっきりと聞こえるからだろうか。
さっさと行って、会ってしまえ。自分の手足だけでなく、娘も友人たちもその他の人でも同じ事を言うだろう。 相手の態度のせいで飛び出たわけでも、仲間はずれのサプライズを食らったわけでも、はっきりとなにかがあったわけでもなく、ただこちらから距離をとった。
あいつときたら、理由を問うでもなく、探るでもなく、ああしてただいつもの場所にいる。なめらかに繋がっていた音符たちはばらばらになり、ぽんぽんと弾くようなそれに変わったからには来訪者がいることには気づいているのだろう。もしかするとその正体さえも。
それでも動かないでいるのはなぜか。蝋人形よりも作り物らしかったころのあいつが脳裏で囁く。「明白だ」
痛みの記憶も遠い足が一歩を踏み出してしまったから、おとなしくついていく。最近下から七段目はひどく軋むから、あいつとロージィはここを飛ばすけれど、ぎゅっと踏みしめて、上へ上へ。
そうして二つ目のドアノブを掴むはずだった手に別のものがやってきていた。掴みきるには大きくて、冷たくないもの。その足元、床に転がるバイオリンがささやかな偽装工作の証拠だった。ドアにはりついて待ち構えている、そんな場面の滑稽さは本人を前にすると霧散してしまう。
無抵抗に僕の手の中にある体温、あのころよりも日焼けした太い首、短く整えられ少しだけおとなしくなった髪、物言いたげな形のまま結ばれているくちびると眺めて、ようやく目にたどり着く。交わった視線の真ん中でここ数日の時間が溶けたようにさえ思ったけれど、なくならない。僕はもう子どもではなく、ふたりともあのころとは違っている。
だから、その手を握り直して、良くなっていますようにと祈る代わりに一言呟いた。「ごめん」
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コーヒーの最初の一口が最高って話とかぼちゃプリンの話なら書けそう。
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すっごくすっごく面白い小説を書かれる方は、分析力がすごい! 納得!!
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読んだ三人がみんな、「面白くなかった」という小説の、「面白くなかった」についての解説をしていただいたので、膝を打って打って打っているところですよ。