ノンマルトの末裔@読書
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ノンマルトの末裔@読書
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読んだ本の印象に残った一節でも記してみようかと。
感想を書くのがとても下手なのです。
世界で出版された本のタイトルは、歴史上一億三千万以上あると言われている。
そのすべての分の一の確率で、人は本と巡り合うのだ。ちなみにどういう計算かよくわからないけれど、人間が隕石とぶつかる確率は一六〇万分の一と言われていると何かで読んだ。それを奇跡と言わずしてなんと言う。

「さらば! 店長がバカすぎて」早見和真

#読了
November 10, 2025 at 12:06 PM
今日も大したニュースはない。どこかで見たことのあるような記事ばかりだ。
「つくづく平和だよなぁ」
マスクの下で発した呟きは、電車の走行音や学生たちの話し声に紛れる。
電車が徐々に減速する。一日の疲労を引きずった私の身体が、朱い光の差し込む駅のホームへと吐き出されていく。

「今日未明」辻堂ゆめ

#読了
November 9, 2025 at 12:18 PM
「なにがひたむきか、わからなかった。三日経ってもな。しかし、ひとりになって、なんとなくわかってきた。ただ、ひたむきに思っている。この国についてだ 」
「国か」
「国と民、と言ってもいいかもしれない。時頼様にとっては、二つは同じものだ、神田灯」

「森羅記1 狼煙の塵」北方謙三

#読了
November 8, 2025 at 12:08 PM
すべてが熱く、痛々しく、その熱さと痛みの中で、すべてが鮮明だった。その時、お爺さんの皺だらけのまぶたが痙攣を起こしたようにまばたいた。そして、とても小さな一粒の涙が、ビーズ玉のように頬を転がり落ちた。壁に映し出された影の涙腺からは、それよりも大きな涙がとめどなく流れていた。

「涙の箱」ハン・ガン きむ ふな=訳

#読了
November 7, 2025 at 12:22 PM
なんかもう、私、大丈夫な気がします。
なんていうか、自分を一回全部使い切ったみたいな感覚なんです、今。
お金も感情も時間も全部、もうこれっぽっちも残ってないんです。
そうしたら急に、旗の一本も見当たらないこの景色が、あんまり怖くなくなってきました。
だから、いづみさんが全部使い切るまで、ここで待ってますね。
ここで見てますから。いづみさんがいづみさんを全部使い切るところ。
もう一度最初からやり直すしかなくなるところ。

「イン・ザ・メガチャーチ」朝井リョウ

#読了
November 6, 2025 at 12:13 PM
アメリカ人捕虜と警備兵がようやく地上に立ったとき、空はまっ黒い煙でおおわれていた。太陽は、針の先ほどの怒れる光点であった。そこに見るドレスデンは、鉱物以外に何もない月の表面を思わせた。岩石は熱かった。近隣の人びとはひとり残らず死んでいた。
そういうものだ。

「スローターハウス5」カート・ヴォネガット・ジュニア

#読了
November 5, 2025 at 12:03 PM
……僕は日本語を勉強して初めて、人間関係の本来のややこしさに気づいただけなのではないか。あるいは僕はただ、最初から人との距離を詰めるのに苦労していただけで、第二言語に入ってから母語の機微でごまかせなくなったのかもしれない。

「言葉のトランジット」グレゴリー・ケズナジャット

#読了
November 4, 2025 at 12:17 PM
途轍もなく広い海が宇内を巡っている。宇内を「世界」と名づけたのは誰だったろう。北前船の熟練の船頭である美濃屋の仙六さんは、すでに何年も前から宇内という言葉は使わなくなった。
彼の口からは自然に世界という言葉が出る。
俺も世界という言葉を使おう。

「潮音 第一巻」宮本輝

#読了
November 3, 2025 at 12:17 PM
「その人がほんとに大事な人なら、大事にしろよ」
「何それ」
「大事な人は、ほんとに大事だからな」
「だから何それ」
そして父はさらに意外なことを言う。
「おれみたいに、いい加減なことはするなよ。大事な人を適当に扱うようなことは、するなよ」

「あなたが僕の父」小野寺史宜

#読了
November 2, 2025 at 12:40 PM
郡原が甘槽に尋ねた。
「どんな具合だ?」
「あまり頼りになりそうにないですね」
「キャバクラがどうのって言ってたな?」
「はあ……」
「行くときゃ、俺も連れてけよ」
なんでだよ……。心の中でそう思ったが、そんなことはもちろん言えない。
「はい……」
力なくそうこたえた。

「マル暴総監」今野敏

#読了
November 1, 2025 at 12:15 PM
「お父さんの言語が、徹底的に選挙用になってることはわかった。でも、わたしが求めてるのはそういう言葉じゃないんだよ。社会に向けた言葉じゃなくて、自分とか家族とか、仲間のための言葉っていうか……。お父さんの「ほんとう」の言葉で話してほしいんだよ」
「ほんとう?」
「えーと、……わたしは、お父さんと、きちんと会話がしたい」

「ほくほくおいも党」上村裕香

#読了
October 31, 2025 at 12:17 PM
言葉は時として、心を突き刺す刃と化します。人の身体ではなく、精神を傷つける唯一の凶器。
内側から崩れ落ちた人間の絶望は、何人も入り込めない闇深い世界です。そしてその闇は、決して遠くにあるものではなく、手軽な通信機器とつながった薄氷の日常に潜んでいるのです。

「踊りつかれて」塩田武士

#読了
October 30, 2025 at 12:22 PM
この人たちは知っていたのだ、自分の死が天災による、嘆くしかない死ではなく、人災による(だから必ずしも死ななくてもいい)死であることを。自分はいま人間の仕掛けた罠にかかって死のうとしている! 犯人がいるのだ! そやつを許すことはできない!

「この世界の片隅で」山代巴 編

#読了
October 29, 2025 at 12:08 PM
暖色光に照らされた友人の横顔は少し弱っていて、初めて彼が棲む世界の孤独を覗き見たような気がした。――この事件の根底にある感情のうねりを、僕は知りたい。
彼を謎に向かわせる欲求は、人ならざる感情を持つ彼が、人間に近づこうとする行為そのものなんじゃないか?

「禁忌の子」山口未桜

#読了
October 28, 2025 at 12:07 PM
ヒグマに押さえつけられた。鼻息が顔を撫でた。獣の臭いが涎となって顔にかかる。肩を咬まれた。
「離せ!」
また振り回されて、空中を飛んだ。落ちた瞬間、体を押さえられた。頭を咬まれた。頭の皮全体がめくれて顔にべっとりとかかった。

「シャトゥーン ヒグマの森」増田俊也

#読了
October 27, 2025 at 12:20 PM
そこには、「好き」「好き」「好き」「好き」――何度もそう書かれた、見覚えのない手紙の一部を撮影した写真と、「何人も好きとかこいつクソすぎ」という短いフレーズが記されていた。手紙の上部には、ホテルのロゴが印刷されている。

「7人の7年の恋とガチャ」大前粟生

#読了
October 26, 2025 at 12:13 PM
「さびしいのね、人も団地も」
その言葉にはっと顔を上げた。
桐子がつぶやいていた。
「さびしい、か。なるほどそうかもしれない」
「さびしさというのはなかなかやっかいよ。さびしさのせいで人はつぶれるし、お金もなくすし、犯罪も犯す」
桐子は悲しそうに微笑んだ。

「一橋桐子(79)の相談日記」原田ひ香

#読了
October 25, 2025 at 12:17 PM
空飛び器という名称がうかんだ。が、なんとなく軽い感じがし、もう少し重みのある名称にしたかった。紙に文字を書いては検討し、種々思案した末、最もふさわしい名称を思いついた。……それは、飛行器という名であった。

「虹の翼」吉村昭

#読了
October 24, 2025 at 12:04 PM
「おい」
甘槽は立ち止まり、振り返った。
「何だ?」
「もし、俺がグレてなくて、あんたが警察官じゃなかったら、いっしょに飲みに行ったりできたかな」
甘槽は、その言葉に驚いた。何も言えなかった。
すると、アキラは苦笑を浮かべて言った。
「いいんだ。今の一言は忘れてくれ」

「マル暴甘糟」今野敏

#読了
October 23, 2025 at 12:18 PM
「どうやって?」と沙彩が問う。
「それはわからない」
自信満々に答えた。思わず、という感じで沙彩の頬がゆるんだ。
「奇跡を信じない限り、奇跡は起こらないんだよ。サバイバーズは生き残るし、沙彩は死なない。根拠なんかなくても、いくらでも断言してやる」

「サバイブ!」岩井圭也

#読了
October 22, 2025 at 12:53 PM
「おう、平塚君か? いまどこにいる?」
「拘置所です」
「君は……まだやっていたのか? 苦労をかけるな」
「課長、まだ一部自供ですが、小原が落ちましたよ。見通しはつきました。ご安心下さい」
「……」
津田の声は跡切れた。かわって、すすり上げる気配が受話器の奥にあった。

「誘拐」本田靖春

#読了
October 21, 2025 at 12:13 PM
来た道を戻ろうと振り返った時、誰かの叫び声が聞こえた。
目の前に若い男が立っている。
どこかで会ったことがあるような気がした。
いやそうじゃない。
これは、あたしだ。
あの頃のあたしと同じ目をした男が、目の前に迫ってくる。
その手に刃物を握りしめて。

「青い鳥、飛んだ」丸山正樹

#読了
October 20, 2025 at 12:18 PM
「忙しい二人が時間を割いてくれてるからさ。常に一緒に行動しなきゃいけないわけだし、いろんな面で苦労をかけてると思ってる。だから言えるときにありがとうは言っておかなきゃね」
垂れ気味の丸い目を真っ向から合わせてくる赤堀に妙な気恥ずかしさを感じ、岩楯は意味もなく咳払いをした。

「18マイルの境界線 法医昆虫学捜査官」川瀬七緒

#読了
October 19, 2025 at 12:20 PM
手の甲で涙をぬぐい、勢いをつけて立ち上がった。
試されていると思うから、萎縮する。わたしから挑み、試すのだ。わたしたちの――日本の科学の力を。そして、相手の力を。
頼もう、頼もう。この道場で一番強いやつを出せ。世界で一番のやつを出せ。

「翠雨の人」伊与原新

#読了
October 18, 2025 at 12:22 PM
医学士は真蒼になりて戦きつつ、
「忘れません。」
その声、その呼吸、その姿、その声、その呼吸、その姿。伯爵夫人は嬉しげに、いとあどけなき微笑を含みて高峰の手より手をはなし、ばつたり、枕に伏すとぞ見えし、唇の色変りたり。

「外科室」泉鏡花

#読了
October 17, 2025 at 12:15 PM