田中宏明
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田中宏明
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ライター。好きなものは映画、音楽、頭脳警察、PANTA、伊藤蘭、フォルティウス(カーリング)。
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「夏の終わりのクラシック」鑑賞。
「冬のソナタ」のユン・ソクホ監督の映画。済州島の海辺の町で出会った中年の男女のドラマ。
恋愛映画的な要素はあるものの、むしろ過去の傷に苦しむ女性の生き直しのドラマといった感が強い。
話自体にさして新味はないけれど、主人公の過去に関係のあるクラシック音楽が効果的に使われるとともに、海辺の町の美しい風景を捉えた映像も魅力的で、なかなか良い作品に仕上がっている。
ふだんは明るくしゃべり倒すが、その裏で過去の傷に苦しむ女性をキム・ジヨンが好演。
「ホーリー・カウ」鑑賞。
チーズ職人だった父の突然の死によって、幼い妹とともに残された青年が、チーズ・コンテストの賞金目当てにチーズ作りに奮闘する。
よくある成長物語とはひと味違うドラマ。新人のルイーズ・クルヴォワジエ監督が、過剰な盛り上げや感情を刺激する場面をあえて排し、農村の暮らしを圧倒的にリアルに描く。牛の出産シーンや妹と2人だけのチーズ作りのシーンなどが素晴らしく、主人公をはじめ農村の人々のたくましさが伝わってくる。驚くべきことに演じているのは地元の演技未経験者たちだという。
シンプルな作りの小品ながら中身の濃い映画。フランスで大ヒットを記録したというのも納得。
「ジュリーは沈黙したままで」鑑賞。
同じテニスクラブに所属する選手が自殺し、自分の担当コーチが指導停止になって動揺する15歳の少女のドラマ。
タイトル通りに沈黙を続ける主人公に焦点を当てて日常を淡々と映す。そこからは主人公の揺れ動く心の内がリアルに伝わってくるのと同時に、不穏で緊張感にあふれた空気感が漂う。レオナルド・ヴァン・デイル監督の筆致には、共同プロデューサーを務めたダルデンヌ兄弟とも似たものを感じさせる。
主人公を演じたのは、新人のテッサ・ヴァン・デン・ブルック。テニス選手としても活躍しているそうで、テニスの腕が上手いのは当然としても、表情だけで主人公の心の内を表現する演技が見事!
「君の声を聴かせて」鑑賞。
2009年の台湾映画「聴説(Hear Me)」を韓国でリメイク。実家の弁当屋を手伝う青年と、水泳選手の妹を支える聴覚障がい者の女性とのラブロマンス。
構成は典型的な青春恋愛映画なれど、会話の大半を手話が占めるというのがユニーク。そこでは字幕が表示されるが、それ以上に話し手の表情の豊かさに心を奪われる。直接的なコミュニケーションの大切さを改めて思い知らされた。全体を包む温かく優しい空気感も心地よい。シーンを無音にすることで音のない世界を観客に体験させるなど、様々な工夫も施されている。3人の主要キャストの演技も瑞々しく、余韻を残す佳作に仕上がっている。
「THE オリバーな犬、(Gosh!!) このヤロウ MOVIE」鑑賞。
オダギリジョー監督・脚本・編集。NHKドラマの映画版。
狭間県警警察犬係のハンドラー・青葉一平は、相棒のオリバーがなぜか着ぐるみのおじさんに見えている。そんな中、先輩ハンドラーが現れ、失踪したスーパーボランティアに関する捜査協力を求めてくる……。
奇想天外でシュールな笑いが満載のドラマ。ただし、後半は不思議なドアをめぐるSFチックな展開に突入。よくもこんなことを考えるものだと、オダギリジョーの頭の中を覗いてみたくなった。
最大の見ものは超豪華キャストの怪演。それを見ているだけで楽しい。
「ファンファーレ!ふたつの音」鑑賞。
スター指揮者とその生き別れた弟のドラマ。
指揮者が弟と出会うのは白血病がきっかけ。骨髄移植のドナーを探す中で出会う。だが、お涙頂戴のドラマとは無縁。兄弟の葛藤と絆をユーモアを交えて生き生きと描く。
そこで効果を発揮するのが音楽。クラシックはもちろんジャズやシャンソンなど様々な音楽がドラマを盛り上げる。特にラベルの「ボレロ」の合唱演奏にトライするのが秀逸。ラストシーンも「ボレロ」の演奏で感動を誘う。
性格のまったく異なる兄弟を演じたバンジャマン・ラヴェルネ、ピエール・ロタンの演技も見事で温かで前向きなドラマに仕上がった。
「ザ・ザ・コルダのフェニキア計画」鑑賞。
ウェス・アンダーソン監督の新作。
ハチャメチャで敵が多く何度も暗殺未遂にあっている大富豪が、疎遠になっていた修道女の娘を後継人に指名し、巨大プロジェクト継続のための資金調達の旅に出る。
ベニチオ・デル・トロを主演に迎えてもウェス・アンダーソン節は全開。オープニングからラストまで独特の美意識に貫かれたおしゃれなシーンが続く。ルノワールやマグリットの本物の名画が部屋に飾られ、手榴弾の箱や短剣などのおしゃれな小道具も飛び出す。
ドラマ的には父と娘の葛藤と和解のドラマを軸にした冒険活劇で、アンダーソン監督お得意の人を食った笑いが炸裂。豪華俳優陣の競演も楽しい。
「Dear Stranger ディア・ストレンジャー」鑑賞。
真利子哲也監督のオリジナル脚本作品。日本人の夫と台湾人の妻。息子の誘拐事件をきっかけに、夫婦の秘密が浮き彫りになり崩壊していく。
全編ニューヨークロケで撮られたノワール調の映像が絶品。夫が研究する廃墟、妻が操る人形、故障した車のエンジン音なども効果的に使われ、不穏で、スリリングな世界を構築している。主演の西島秀俊、グイ・ルンメイのリアルな演技も見もの。
ただし、ラストは賛否が分かれそう。希望の灯をともすような結末にしたくなかったのはわかるが、個人的には曖昧模糊として消化不良気味だった。
風のマジム」鑑賞。
実話を基にした原田マハの小説を映画化。沖縄のサトウキビでラム酒を作る事業に挑戦し成功させた女性のドラマ。
定番のお仕事成功物語以外の何物でもないが、伊藤沙莉演じる主人公の純朴で直球真っ向勝負の小気味よさに加え、沖縄のおおらかで明るい風土のおかげで、実に心地よい映画に仕上がっている。母役の富田靖子、祖母役の高畑淳子も存在感たっぷりで、女三代のモノづくりの継承というテーマも見えてくる。観たらラム酒が飲みたくなるかも。
染谷将太、尚玄、シシド・カフカ、小野寺ずる、肥後克広、滝藤賢一らも好演。
「遠い山なみの光」鑑賞。
ノーベル文学賞作家カズオ・イシグロの長編デビュー小説を石川慶監督が映画化。1950年代の長崎と1980年代のイギリスを行き来しながら、長崎からイギリスに移住した一人の日本人女性の謎めいた過去を綴る。
広瀬すずと二階堂ふみ、2人が演じる一見対照的な女性が実は大きな共通点を持つことが明らかになり、やがて驚きの展開に突入する。1950年代の長崎の映像がどことなく異世界を思わせ、二階堂すずの演技もリアルさとはやや距離を置く理由が、その展開を目にして氷解した。
戦争の傷を克服してたくましく生きる女性のヒューマンドラマであるのと同時に、記憶を巡るミステリーでもある。
「侵蝕」鑑賞。
韓国のサスペンススリラー。前半は、幼い娘の異常な行動に憔悴していく母親を描く。20年後を描く後半は、特殊清掃の仕事をしている女のもとに新たな同僚が来たことから異変が起きる。
こちらの予想をことごとく覆すドラマ。ホラー的な妙味に加えサスペンスやバイオレンスアクションの色彩も加味。不穏でスリリングな作りはさすがに韓国映画。大団円になるかと思わせて、最後に後味の悪い結末を持ってくるあたりもいかにもという感じ。終盤やや運びが乱暴ではあるものの、新人監督コンビの作品にしてはまずまずよくできている。
少女時代のクォン・ユリをはじめ、クァク・ソニョン、イ・ソル、キ・ソユらも好演。
「ふつうの子ども」鑑賞。
「そこのみにて光輝く」「きみはいい子」に続いて呉美保監督と脚本の高田亮が3度目のタッグ。
小学生の普通の男の子が、同じクラスの環境問題に熱心な女の子が気になり、接近しようとして過激な環境活動に手を染める。
主人公の男の子をはじめ、子供たちの日常が生き生きと描かれる。手持ちカメラでアップを多用し、彼らの豊かな表情をスクリーンに刻む。どの子供も個性的で得難いキャラクターの持ち主。それを見ているだけで楽しい。
全編がコメディータッチの映画だが、子供たちの起こした行動が過激化してからは社会風刺的な側面もクローズアップされる。
最近の子供を主人公にした映画の中でも出色の作品。
「8番出口」鑑賞。
世界的ブームを巻き起こした人気ゲームを川村元気監督が映画化。
地下鉄の通路で出口が見つからず、同じ場所で無限ループを繰り返す男の不条理劇。
主要な俳優は二宮和也、河内大和、小松菜奈、花瀬琴音、浅沼成の5人だけ。短編映画で終わりそうなネタを、あの手この手で長編映画に仕立て上げるあたりは、さすがヒット映画のプロデューサーでもある川村監督。
ゲーム的な世界に、主人公と恋人の迷いのドラマを導入するあたりも巧み。それほど深いドラマではないが迷走劇の背景としては効果的。
絶対に観るべき映画とは思わないが、こういう世界が好きな人はハマりそう。
「海辺へ行く道」鑑賞。
三好銀の漫画「海辺へ行く道」シリーズを横浜聡子監督が映画化。
アーティストの移住支援をするなどアートで町おこしをする海辺の町が舞台。そこの中学の美術部員の奏介と彼の周囲にいる人々を3章立てで描く。
出てくるのはみんな変わった人ばかり。詐欺師カップル、創作に没頭するフリーター、海辺でランチを売る女……。町中では笑顔を見せたら失格という「静か踊り」が行われ、正体不明の野獣まで出現する。というわけで、全編がシュールな笑いの連続。それを通して芸術の自由さ、おおらかさを歌い上げる。
ユニークな役柄の俳優陣の演技も楽しい。
「この夏の星を見る」鑑賞。
コロナ禍で様々な活動が制限される中、オンラインで天体観測をする競技「スターキャッチコンテスト」を開催する中高生たちのドラマ。
天体に魅入られた中高生たちの奮闘ぶりが瑞々しく描かれる。彼らの天体にかける熱い思いが観る者の胸に響く。特に競技に関しては高揚感やワクワク感の作り方が巧みで、細かなルールなど知らなくてもつい引き込まれてしまう。映像的にも様々な工夫を凝らして観客を飽きさせない。終盤にはさらにスケールを広げた追跡劇が用意される。
桜田ひよりら中高生役の若い俳優陣も好演。
「大統領暗殺裁判 16日間の真実」鑑賞(昨日)。
1979年に起きた朴正煕大統領暗殺事件の裁判を巡るドラマ。
史実に大胆にフィクションを加味。主人公に型破りな弁護士を据え、彼が弁護する軍人との友情のドラマを構築。さらに冷徹な悪役として、のちに軍事クーデターを起こす全斗煥をモデルにした合同捜査団長を登場させて、スリリングでヒリヒリするようなドラマに仕立てている。
弁護士役のチョ・ジョンソク、被告役のイ・ソンギュン、合同捜査団長役のユ・ジェミョンがいずれも見事な演技を披露。
エンターティメントとして一級品のドラマであるのと同時に、軍事政権の非道さを浮き彫りにした社会派映画でもある。
「蔵のある街」鑑賞。
岡山県倉敷市を舞台にした青春ドラマ。
母が姿を消し自閉症の兄を持つ紅子の葛藤と、彼女を助けるために街で花火を打ち上げようと奔走する幼なじみの蒼と祈一の奮闘。3人の高校生の実にまっすぐで一生懸命な姿が印象に残る。
同時に、ご当地映画としてもツボを押さえた作りで、倉敷の街と人々の魅力が伝わってくる。地元出身の平松恵美子監督の手腕が見事。小品だが観終わって心が温かくなる。
3人の高校生役の山時聡真、中島瑠菜、堀家一希の演技もいい。
「リンダ リンダ リンダ」鑑賞。
2005年の山下敦弘監督作品の4K版。高校生活最後の文化祭で「ザ・ブルーハーツ」のコピーバンドをする少女たち。4人のバンドメンバーの友情、恋などを独特のユーモアを交えて瑞々しく描き出す。
何年経っても色褪せない青春映画の金字塔。どれをとっても無駄なシーンがない。これほど見事に青春の一ページをスクリーンに刻み付けた映画は、そうはないだろう。若きペ・ドゥナ、前田亜季、香椎由宇、関根史織の等身大の演技が素晴らしい。演奏も本格的で、ラストの文化祭での演奏シーンは、スクリーンの中の観客とともにノリノリになってしまう。
もう一度スクリーンで目撃できて幸せだった。
「近畿地方のある場所について」鑑賞。
白石晃士監督によるホラー映画。失踪したオカルト雑誌の編集長が担当していた特集記事の内容を探るライターと編集者。
前半に登場するビデオやDVD、USBメモリーなどの映像が秀逸。少女失踪や中学生集団ヒステリーを巡る映像、消息を絶った動画配信者の残した動画など、いずれも背筋ゾクゾクもの破格の怖さ。
2人が外に飛び出してからの後半はやや失速気味とはいえ、暑気払いにはピッタリの映画。
「あの夏、僕たちが好きだったソナへ」鑑賞。
ギデンズ・コーが自伝的小説を自ら監督して映画化した台湾映画「あの頃、君を追いかけた」の韓国版リメイク(日本でも山田裕貴と齋藤飛鳥の主演で2018年に映画化)。
オリジナルの良さを生かしつつ、様々な韓国流のアレンジを加えている。個性的な登場人物によるコミカルなエピソードで笑いを取りつつ、高校生たちのキラキラした青春を描き出し、さらに恋愛の切なさを醸し出す。観客をノスタルジックな世界に誘い、自らの“あの頃”に思いを馳せさせる。
主人公役のジニョン、ヒロイン役のガールズグループ「TWICE」のダヒョンがいずれもハマリ役。脇役たちもいい味を出している。
松竹シネマPLUSシアターで、1982年の日本映画「疑惑」を期間限定で無料公開していたので鑑賞。野村芳太郎監督作品。
悪女が殺人の罪で裁判にかけられ、それを女性弁護士が弁護するというドラマ。いかにも松本清張原作らしい話だが、何といっても最大の見どころは悪女役の桃井かおりと個性派弁護士役の岩下志麻のバトル。どちらも物凄い存在感で終盤のバーでのワインの掛け合いなどは、背筋ゾクゾクものの怖さ。
若き柄本明や鹿賀丈史をはじめ名優ぞろいの脇役も見もの。
「アイム・スティル・ヒア」鑑賞。
1970年代の軍事政権下のブラジルで実際に起きた事件を描く。何の嫌疑も告げられず夫が政権に連行され行方不明となり、自らも一時的に拘束された妻が真相を突き止めるために奮闘する。
序盤は幸福な家族の様子を生き生きと描き出す。夫が連行されてからは一転、緊迫感漂うサスペンスフルなドラマが展開する。
真相を追い求める妻の執念が乗り移ったようなウォルター・サレス監督の気迫の筆致が印象的。かつての独裁政権の恐ろしさを伝えると同時に、それが今でも起こりうることを示す。
主演のフェルナンダ・トーレスの繊細な演技も見逃せない。
「長崎―閃光の影で―」鑑賞。
原爆投下直後の長崎を舞台に、被爆者救護にあたった若き看護学生たちの姿を描いたドラマ。
戦争の中でも平凡な日常を過ごしていた彼女たちが、突然、廃墟と化した長崎の街で被爆者たちの命を救おうと奔走する。だが、それはあまりにも過酷な日々。大勢の被爆者を相手にするが、治療してもほとんどの患者が亡くなってしまう。その死体を焼く際の虚しさときたら……。彼女たち自身の家族や肉親も死んだり、行方不明になっているのだ。
声高にメッセージを叫ぶ映画ではないが、作り手や役者たちの熱い思いがこもっており、反戦の志が静かに強く伝わってくる。今、多くの人が見るべき映画だ。
「入国審査」鑑賞。スペインから移住するためアメリカへ来たカップルが入国審査で厳しい尋問を受ける。
ほとんどが密室でのシーン。登場人物の顔のアップで主人公カップルの不安や混乱、男女2人の審査官の不適で挑発的な態度などを見せていく。
いったい何が問題なのかわからないままに、どんどん追い詰められていくカップル。しまいには両者の間に亀裂が走る。
観客もまた狭い部屋に閉じ込められて、尋問を受けている気分になってしまう。緊迫感に包まれたまま77分があっという間に過ぎていく。
この映画をよりリアルにしているのがトランプ政権の存在。実際にこういう尋問が行われているのではないかと思ってしまう。見応え十分の一作。
「木の上の軍隊」鑑賞。
実話を基に井上ひさしが構想し、蓬莱竜太の脚本、栗山民也の演出でこまつ座が上映した舞台劇の映画化。
沖縄の伊江島でガジュマルの木の上に身を潜め、終戦を知らずに生き抜いた2人の日本兵のドラマ。
序盤は伊江島の空港建設を巡って沖縄戦の実像を描写。主人公の上官の横暴な振る舞いで日本軍の非道さも見せる。
中盤以降は木の上の2人を描くが、当初の飢餓状態を米軍の残飯によって脱してからは、彼らの戦いはピントが外れていく。滑稽さも漂わせながら、軍人と地元の民間人とのギャップと戦争の愚かさをあぶりだす。映画的な見せ場もあり、ラストの海のシーンが美しい。
堤真一と山田裕貴の演技も出色。