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ほよばのｲｯﾇ￤少数派
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#新書ページメーカー https://sscard.monokakitools.net/shinsho.php
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 以下は本文の内容です。 ＊＊＊ ｅｎｃｏｕｎｔｅｒ　―　たばこの煙の先に 　夜の街並みはいつもより静かに感じた。人が少ないわけではない。ただ、自分の鼓動にすら耳が慣れすぎて、周囲の喧騒が、遠く薄くぼやけて見えるのだ。 　烏丸悠真――２７歳。 　ＩＴベンチャーの広報という肩書きはあるが、胸の奥は仕事以上に、別のことでいっぱいだった。 　３年付き合った彼女と別れた翌日。 「ここ、たまには行ってみろってさ。気分変わるかも」 　そう言って、友人のそら（伏見蒼空）が差し出した招待カード。 　縁取りの金箔がやけに目立つ、黒い厚紙。 　カードには、＊＊〝ｅｎｃｏｕｎｔｅｒ〟＊＊という文字が控えめに光っていた。 　そらがいうには、限られた人間だけが入れる会員制相席ラウンジで、静かに過ごす人もいれば、語り合いに来る者もいるのだとか。 　――癒されるには、ちょうどいいかもしれない。 　そんな淡い期待と、少しの不安を胸に、階段を降りた。 ◆ 　扉を押すと、深い青の灯りが満ちた空間が広がった。 　香ばしいシーシャの香り、柔らかなジャズ。 　ひどく落ち着く。初めて来たはずなのに、なぜか懐かしい。 　受付に近づくと、女性が穏やかに笑った。 「こんばんは。会員制相席ラウンジ〝ｅｎｃｏｕｎｔｅｒ〟へようこそ。 　会員カードはお持ちでしょうか。」 「あ、はい。えっと……少々お待ちください。」 　蒼空に貰った会員カードを探すために、軽く頭を下げる。 　想像より落ち着いていたが、次の瞬間、ポケットを探り――青ざめた。 「……財布、なくて」 　そう、やってしまった。 　いつも通り、肝心なものを持っていない。 　だが、女性スタッフは慣れた様子で言った。 「会員様のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか。」 「あ、えっと。すみません．．．！烏丸悠真です。」 「烏丸悠真様．．．ですね。ご安心ください。蒼空くんよりお預かりしております。 　〝悠真が絶対忘れるのでよろしく〟と」 「……いや、なんでわかってんだあいつ」 　苦笑しか出ない。 　自分の知ったかぶりで失敗し、忘れ物癖で失敗し、 人生の節々でやらかしてきた。 　そのすべてが、ここでも顔を出す。 ◆ 「こちらのお席にておくつろぎください。」 　案内された席は、広めのソファだった。 　濃い茶色の革張り。身体が吸い込まれるように沈む。 　普段よく行く居酒屋とは比べ物にならないほどの静寂と独特な香りに酔いながら席に着いた。 「ご注文はいかがなさいますか。」 　気取った言葉を返しそうになるのをこらえる。 　お酒はあまり得意じゃない。 「実はお酒が弱くって…あと、シーシャ吸えるって聞いたんですが．．．」 　そう伝えると、女性スタッフは少し考え―― 「では、こちらの方でご用意させていただきますね。」 　とやさしく提案してくれた。 　最近、シーシャにハマっている。 　それを言うと、彼女は控えめに笑った。 「では、ゆっくり楽しんでくださいね」 　サーブされたクラフトビールは、ほのかに柑橘の香りがした。 　喉を通るたびに、胸の奥のざらつきが少しずつ溶けていく。 　――もう、戻れないんだよな。 　別れ話の最後、元彼女の泣きそうな顔が浮かぶ。 　互いに悪くはなかった。 　でも、合わせられなかった。 　仕事も、価値観も、未来の速度も。 　シーシャを吸い込む。 　煙が淡く漂い、青い照明に溶けていった。 ◆ 「ここ、初めて？」 　隣の席から声がした。 　見知らぬ男――涼しげな目元で、グラスを傾けている。胸元には名札が着いていた。Ｍｉｙｏｓｈｉ．．．三好という男らしい。 「あ、はい。友人の紹介で」 「伏見のやつ？」 「え、あ、知ってるんですか」 「まぁな。オーナーとあいつと俺でよくここで飲んでるしな。 　……てか、お前、財布忘れたろ？」 「はい。なんでわかるんですか」 「有名だよ、お前の忘れ物。さっきオーナーも言ってたし。 　あと、酒弱いのに強いの飲んで潰れるって」 　言葉に詰まる。
November 9, 2025 at 11:01 AM
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November 9, 2025 at 11:00 AM