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Ｕ吉

@aonoridon.bsky.social

レオアポで何かマフィア的なもののパラレル。書きたいところだけ。糖度ゼロです。姐さんって呼ばれるルルネキが一番書きたいところでした。全4頁。

November 21, 2025 at 11:25 PM

Ｕ吉

@aonoridon.bsky.social

（2/2）

いな。あの場所はきっとあの子の大事なところで、迷子を匿ってくれただけなのだろうから。言いそびれてしまったお礼を、いつか。
　
　
「おお、こんにちは。息災かね」
　試験は終わったのか？　と問われ、ぼちぼちと答える。いつものやりとり。
　
　結局あの後自制が出来ず、こっそりあの場所に記憶を頼りになんとか向かうと、そこには人の姿の狐が静かに座っていた。こちらの姿を認めると手を挙げて、風邪はひかなかったか？　と訊ねた。どこまでもお人好しの狐だった。あのときのお礼に、と差し出した油揚げを見て、箸はあるのかい？　と返された。てっきりいつも狐の姿だと思い込んで箸を持参しなかった詫びに、次は菓子を持って行った。子どもの貴重な小遣いから年寄りの菓子なんて、と言われたものの、なんだかんだ食べてくれたので、理由をつけては菓子や軽食を持ってここを訪問している。
「結局、あなたは狐なの」
「ん～…昔はそうだったかな。今は人の世で言うところの、土地神ってやつらしいねえ」
「土地の神さまってこんなひっそりしたとこにいて良いの」
「今は平和だからね」
「………？」
「神に祈る必要が薄れてきたんだよ、人の信仰がないと吾みたいな小さな神の力なんて大したもんじゃない。だからお前さんのような、引っ越してきたばっかりの子に気付くのも遅れたし、家に返

してやる術もないのさ。今も信仰心をたくさん集めてるでっかいお宮さんはあるけど、吾はあんなに仕事熱心でもないしね。これくらいがちょうど良いんだよ」
「ふぅん………」
「がっかりしたかい？」
「別に…」
　と、この神の身の上話を聞いたのも随分前になった。僕が不定期でもちょくちょく訪れることで信仰心…？　の保持になっているのか、今もここから消えずに元気に暮らしているらしい。
「急に寒くなったが風邪はひいていないか？」
「気を付けている、心配ない」
「そうか、そりゃ良かった。ここ数日、何かの仮装かね、派手な意匠で薄着の子をちらほら見るもんだがら」
　暇をこじらせてたまに繁華街をぶらぶら見物すると言っていた。意外と…意外でもないか…普通の人間っぽい行動も取るんだな。
「ああ、ハロウィンか」
「はろうぃん？」
「西洋の盆みたいな行事で…」
「盆で何で仮装するんだい」
「僕も詳しくはない…調べるから」
　スマホで検索し、定義を読み上げさせた。ＡＩ音声の淡々とした説明を聞きながら最近の電話は便利になったねえ、と関心していた。
「つまり子どもは訪ねた家の人から菓子を貰う寸法ってことかい」
「そういうことだ」
「じゃあ、トリックオアトリート」
　にかりと笑って片手を差し出された。何で訪ね

た側が菓子を強請られているんだ、逆だろう。まして子どもでもないし。しかし自ら食べ物を差し入れているのはこちら側なので強ち間違いでもない。どうせ渡すつもりのものだったし、と鞄を漁り団子を取り出すと、いつも有難うと言って礼を言われた。ハロウィンだからと言って、何も変わることはないのだ。
　
　いっそ、今日は何も持っていないから、ｔｒｉｃｋの方で頼むと言えば、この神は何をしてくれるのだろう。
　
　誰にも言えないが、初めてここで丸くなって眠ってしまったあの日、もう帰れなくても良いとさえ思ってしまった。横に座り団子を頬張る横顔から邪気は全く感じられないが、仮に彼が悪神だったとしても、冷えた身体を温めてくれた事実は変わらないのだ。狐の姿のときは、ふんわりあたたかかった彼の身体は、本当はどれほどの体温を宿しているのだろう。彼を抱いて寝た日以来、僕は彼の身体には一度として触れていない。たとえ小さな土地神であろうと、ずっと昔からここを護ってきた一柱に違いはなく、ただの人である自分から触れるのは、抵抗があった。彼にとっては、見守るべき大勢の子どもたちの中の一人に過ぎないのだから。
　
　ごちそうさん、と半分の本数になった団子のトレーを返す笑顔を困り顔にさせたくなくて、本音はずっと秘めることにしている。
　
　それでも、寄り添ってほしい神は、名前すら知

らない一柱しかいないのだけれど。
　
　あなたの隣で食べる菓子は、いつも味がしなくて、困る。

November 9, 2025 at 7:22 AM

Ｕ吉

@aonoridon.bsky.social

こじポセwebオンリーイベント『囀る玄鳥嘯く海若』展示作品でした。公式でデザインがお出しされて以来ずっと書きたかった狐のsskと幼き人類psのお話です。申し訳程度にハロウィン成分があります。全8頁（1/2） https://sscard.monokakitools.net/pagemakers/shinsho/shinsho_bg.php

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。
付記に「きつねのかみさま」、「@now_or_lever」と記載されています。
画像情報：generated by 新書ページメーカー / Photo by Daniel Tseng on Unsplash / フォント：源暎こぶり明朝

以下は本文の内容です。

　この街には子供ながらに独立心が芽生えてすぐの頃に、引っ越してきた。転居直後でバタバタと忙しい兄を支えるつもりだったのだろう、その日は習い事に単身で行くからと言って兄の付き添いの申し出を振り切り出掛け、案の定駅から自宅までの道が途中でわからなくなり途方に暮れていた。地図アプリを睨んでも、知らない家が立ち並ぶ住宅街で自宅の位置も分からず、頼れる人もいない。肩を落としていると泣き面に蜂、なんと急な雨まで降ってきた。傘は玄関で留守番をしていた。雨宿りをしたいが知り合いでもない子どもが訪ねてきたところで、快く迎えを待たせてくれる人などいるだろうか。さむい、つらい、はやくかえりたい。
　
　その時、冷えた脚に妙な感覚があり視線を下げると、ふわふわと寄り添うように小さな狐が鎮座していた。精神的に参っているんだ、こんな住宅街に狐なんて、と目を擦ってからもう一度足元を見ると、やっぱり狐にしか見えない生き物が、こちらの顔をじっと見つめていた。こぎつね、こんこん、やまのなか。かつて保育園で学んだ歌が久々に頭の中の引き出しから飛び出してきた。人工的に植わっている木がちらほら程度にはあるので、ここは山というより林の方が意味としては近いのだけど。しかし多少緑があってもここは人間のテリトリーで、狐は異物には違いない。どこかの家庭で飼っていて逃げ出してきたのだろうか。それとも動物園か？　この辺に動物園はあったかな。どちらにしても、どこかの家のインターホンを鳴らす口実は出来たのではないだろうか。この子の飼い主の家はどこでしょうか、と。そこまで考え

た僕の思考を堰き止めるように、狐は前足でぽんぽんと僕の脚をそっと叩いた。まるで人みたいに。
「こっちへおいで」
　狐が人語を話したのではない。顔を見ていると、不思議とそのように話し掛けられた気がして、気付けば僕の足は先行く狐に先導されていた。知らない人についていってはいけないのは知っているが、狐もそうなのだろうか。化け狐や、物の怪の類なのかも、とは思わなかった。根拠はないが、怖い狐ではないという自信が、なぜかあった。住宅と住宅の間をどんどん抜け、狐と最初に会った場所からみるみる離れていったが、恐怖はとんと感じることもなく、導かれるままに。
　
　薄暗い小道を抜けた先は、祠だった。祠というには大きいが、社というには小さい。しかし昔は立派な造りであったことが窺える建物の前で、狐がこちらを振り返って待っていた。相変わらずの雨模様で、屋根もまた、僕のように濡れていた。階（きざはし）を登り座って休もうとすると、狐が扉をかりかりと掻く。罰当たりだ、と引っ剥がそうと体に触れると、掻くのをやめて僕の顔を、またじっと見てきた。
「中に入りたいのか？　でも…」
　言葉で制してもじっと見つめてくる。なかなかに聞かん坊である。あたりを見回したが宮司というか、管理人のような人は見当たらない。
「しょうがないな…」
　留め金も鍵も無く、ただの引き戸だったので、乾いた音を立てて戸は難無く開いた。建物の中はもぬけの殻で、人が何かしていた痕跡などは感じられない。ただその中はほんのりとあたたかい。

濡れた体で座るのは憚られ突っ立っていると、後ろ足で立って前足でシャツを引っ張るなどと器用なことをするので、またもやしょうがなく座ることにした。屋根が風雨に晒される音は聞こえてくるが、傍らで丸くなる狐の頭を撫でていると、これまた不思議と不安の種は芽を出さず泡のように消えていく。ふわふわとした心地と、特にこれといってすることもなく、襲い来る眠気に耐えていた。
「お前は良いよな」
　そんなことはなく、野生動物（？）にだって何らかの苦労はあるのだろうに、深くものを考える力が消えていくのを、どこか他人事のようにぼんやり感じた。そうしていつの間にか畳に横になり、狐のごとく丸くなって動かないでいると、隙間に狐が身体を滑り込ませてきたので、抱きしめるように夢の中へ落ちていった。あとから考えると不用心にもほどがあるのだが、あらゆる懸念や不安が、この狐のそばにいると、無に帰していた。冷えた肌が、動物のぬくもりを求めてしまったのだろう。その後のことは暫く記憶がない。雨が屋根を打つ音が徐々に遠ざかっていった。
　
　名前を呼ばれて目を覚ますと、場所は変わらずあの祠だか社だかの中だが、抱いて寝たはずの狐の姿だけが見当たらない。かわりに、赤地に見事な金の刺繍の入った羽織が身体に掛けられていた。
「大丈夫か？　痛いところはないか？」
「ない…」
　起き上がって長兄のほっとした顔を見、続いて窓からの景色が真っ暗であることを確認し、ここに一人でいた経緯を思い出し、血の気が引いた。

「ごめんなさい、僕」
「いい、謝るな。すぐ迎えに来れなかったわたしに非がある」
「でも」
「ここで雨宿りをしていることを教えてくれた者がいてな、叱らないでやってくれ、と頼まれたんだ」
「え…誰…？」
　問われた長兄は苦笑いをし、肩をすくめた。
「わからん、ＧＰＳを使ってここの近くまで着いた時に話しかけてきた老人がいたが、ここまで案内した後に煙のように消えたのだ」
「老人？」
「ああ」
「髪、短かった？」
「いいや、男だったが高い位置で結っていた…だがどうして」
「ううん、いい…本当にごめんなさい、帰ろう」
　夢の中で、退屈しないよう、兄に起こされるまでずっと話し相手を引き受けてくれた男がいた。年は祖父くらいに見えたが、背筋も伸びていて年齢を感じさせない、良い男だった。立ったところを僕は見ていないが、きっとすらりとした長身なのだろうな。
　
　兄はこの出来事をそれ以上追及してはこなかったし、他の兄弟にも話さなかった。正直に言って、有り難かった。兄のことは敬っているが、この思い出は自分だけのものにしておきたかった。
　
　神隠しという言葉を知ったのは、もっと大きくなってからだった。それでも、また、会えたら良

November 9, 2025 at 7:22 AM

Ｕ吉

@aonoridon.bsky.social

ブロマンス寄りの8回戦組のつもりでした。リアル寝不足の人間が書きたいところだけ書くとこういう博士になります。科学者組が仲良いのは本編からビシビシ感じるので願わくばその輪にブブも入れると良いですね。全4頁。

October 11, 2025 at 7:40 AM

Ｕ吉

@aonoridon.bsky.social

レオアポ140字チャレンジです。人類パラレルっぽいような前作のような同棲時空のような。ちゃんとした設定はありません。最近雨天が多いです〜あぽちゃんは雨は好きなんだろうか…レ王は意外と好きそう。 https://sscard.monokakitools.net/tanka.html

「明日は早あがりだな」

素早く天気予報を再確認。仕事帰りの彼を駅で待つ口実ができた。空模様と退勤時刻の相関に、勘の良い彼はいつか気付くだろう。どうかその日までは「傘を忘れた哀れな奴」を演じさせてほしい。

オレ様にお似合いなのは晴天なんだから、雨の時はこれくらいの楽しみがなくっちゃね。 | ＠now_or_lever

September 14, 2025 at 12:39 AM

Ｕ吉

@aonoridon.bsky.social

レオアポが下界で同棲している謎のシチュ３本目です。過去作とは繋がっていませんので気軽に読めます。書き手に国内の生活様式の知識しかないのであたかも日本に住んでるみたいに書かれていますが雰囲気でお願いします。全４頁。

August 30, 2025 at 4:11 PM

Ｕ吉

@aonoridon.bsky.social

ネコハラ受ける世界線のこじポセ、まさかの4作目ですわ。３作目の裏話を少し意識していますが読まなくても…大丈夫…大丈夫かな(小声)今更ですが書き手は猫飼ったことないので正確性に欠けます、雰囲気でオナシャス(大声)。全4頁。 https://sscard.monokakitools.net/pagemakers/bunko/bunko_bg.php

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。
付記に「@now_or_lever」と記載されています。
画像情報：generated by 文庫ページメーカー / Photo by 有邑空玖 / フォント：源暎こぶり明朝

以下は本文の内容です。

　われは、たぶん「ねこ」というなまえのいきものらしい。
　
　でも、「ねこ」のほかにも「このこ」「こやつ」「ちくしょう」「よしよし」「おまえ」ともよばれる。いっぱいなまえがあるのだ。そのいっぱいのなまえのなかでも、いちばんすきなのが「かわいい」。「かわいい」がよばれるとき、みんなとてもうれしそうなかおをしているからだ。
　
　ねこはうまれたときからずっとひとりだったから、ごはんをさがすのもたいへんだった。おなかがすいてがまんできなくて、そとでおさかなをたべてたひとのところへ、おいしそうだな、ねこもほしいなあってふらふらおはなししにきた。それがかいぬしで、おさかなをたべてたところは「えんがわ」っていうんだって。
　
　えんがわには、ときどきおきゃくさんがくる。かいぬしとおなじくらいおおきくて、かいぬしとちがってにこにこしてなくて、ちょっとこわい。でもほんとうはこわくない。かいぬしがおちゃやごはんをとりにいってるとき、ちょっとだけ

ねことあそんでくれる。ちょっとだけね。でもかいぬしがもどってくると、あそぶの、やめちゃうんだ。ごはんをいっしょにたべたり、ごろんとひるねしたり、かいぬしとあそんでいるときはジッとみてきたりするんだよ。
　
　おひさまがかくれておそらがくろくなったとき（よる、というらしい）、かいぬしがねているへやから、「かわいい、かわいいねえ」ときこえてきたので、うれしくてふすまをカリカリかいて、なかにいれて、とおねがいしにいった。しばらくカリカリしてもなかなかふすまがあかないので、かいぬしをないてよんでみた。ふすまのまえでまっていると、ほそくふすまがあいて、かいぬしがかおをだした。いつもとおなじやさしいかおだったけど、なんだか、ちょっとだけ、いつもとちがった。
　
「待たせてすまなかったなぁ、でも今晩はお客さんがいるんだ。明日起きたら、また遊ぼうな」

ふわふわあたまをなでて、また、そっとふすまをしめてしまった。すこしさびしかったけど、あのおきゃくさんなら、しかたない。かいぬしがだいじなおきゃくさんだっていってたもの。しかたがないので、となりのへやの、ざぶとんのうえで、まるくなってあさがくるのをまつ。うとうとしたり、ねてしまったり、まためがさめてしまったり。へやのなかをうろうろして、かいぬしのねるへやにみみをぴったりくっつけて、なかのおはなしをきいてみたりした。あまり、おはなしはきこえない。たまに、おきゃくさんの、いつもとちがうこえがちいさくきこえるくらいで、ふたりでおはなしはしていないみたい。せっかくかいぬしにあいにきているのになあ。
　
　……………あっ、いま「きもちぃ」ってきこえた。おきゃくさんはきっと、かいぬしになでてもらっているんだね。ねこも、かいぬしになでてもらうのすきなの。
　
　ほかには、ふたりでなにをしているのかな。ごはんをたべているのかな。でも

さっき、ふすまがあいたときにちょっとだけみえたのは、おふとんだけだった。おさらも、おかしも、おちゃも、なにもなかった。かいぬしとねこがあのへやにいるときは、ぜったいにあるのにな。
　
　またねむたくなってきちゃった。ふたりがおへやからでてくるのをまっていたけど、まちきれないからもうねちゃおうか。
　
　あさになったら、ふたりをおこしにいこうかな。おきゃくさんは、いつのまにかいなくなってることもあったけど、おふとんのなかでまるくなってねていることもふえたんだよ。ねこがおかおをみにいくと、わらわないけど、なでてくれるようになったんだ。
　
　なでてもらうと、うれしいもんね。

August 23, 2025 at 3:48 PM

Ｕ吉

@aonoridon.bsky.social

こじポセです。朝チュンです。朝チュンのはずでした。いつも通りのsskの捏造一軒家でのお話です。過去作(後ほどリンク繋ぎます)の設定を引き継いでいますが本作だけでも読めます。全3頁。 https://sscard.monokakitools.net/pagemakers/bunko/bunko_bg.php

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。
付記に「@now_or_lever」と記載されています。
画像情報：generated by 文庫ページメーカー / Photo ny DeltaWorks on pixabay / フォント：源暎こぶり明朝

以下は本文の内容です。

　いつも通りの爽やかな朝の目覚め、とはいかなかった。障子からやわい陽の光が差し込み、庭からささやかな雀の合唱が聴こえてくる。微睡みから覚醒する間の、ふわふわした心地を楽しみつつも、今朝はなかなか瞼が開かない。たまの夜更かしに勤しんでしまった故か。
　
　何者かが胸元を弄る感触がした。胸板を押し、身体に軽くかかる荷重。首元をくすぐる髪の感触。崩れていく寝間着。擦り寄られている。
「なんだ…昨日たくさんしたろ……」
　昨晩寝入った時刻も現在時刻もわからないが、確かなことはひとつ。正直に言って、まだ掛け布団をあげる気になれない。翌朝まで睦みたがるのは、珍しい。日中のつんけんした様からは考えられないほど、夜に散々甘えてこられることはあれど、その態度が翌朝まで残っていることは少ない。なんなら、目覚めたときには既に居城に帰る道中のことだってあるのだ。彼なりのけじめのつけ方なのかも知れないしその在り方に理解はするが、全く寂しくないと言えば嘘になる。だからこそ、誘われれば拒まないようにしている。神としての矜持より、欲を取っ

た彼の、ありのままを受け止めたいからだ。基本的にはそうだし今もその意思を尊重もしてやりたいのは山々だが、とにかく今朝は瞼が鉛のごとく重い。昨夜は久しぶりの逢瀬で、言葉に出さずとも、もっともっとと続きを促す瞳に焼かれ、特に長い時間を掛けて交わっていた。いくら年季の入った身体で起床時間が早いとは言え、人並の睡眠は必要だ。さて、どう言い包めて惰眠を貪ろうか。………駄目だ、寝起きの頭ではどう足掻いても気の利いたフレーズは出ない。
「かみさま…すまん、続きは今晩で良いか…」
　頭と思われる位置を撫でた。ふかふかのふわふわだ。触り心地の良い猫っ毛。猫…猫……………己を鼓舞し恐る恐る目を開くと、己の首元に陣取っていたのは、野良だったあの仔であった。おはようとばかりに、にあ、とひと鳴きしすりんと顔を撫でると布団から降りた。その動きを追うと、布団の傍らで立っている海神の足元で座り、ひとりと一匹が揃ってこちらを見つめているのが、寝ぼけ眼でも捉えられた。
「お前、」
　声音から感じるのは怒りではなく、蔑みでもなく。呆れ、ととるのは自意識過

剰だろうか。
「たかだか小動物のじゃれつきも感知出来んとは、何が天下無双か、この腑抜け」
　ぐうの音も出ない。
「余がこんな早朝から発情して、叩き起こされているとでも思ったか」
　返す言葉もない。
「………もう良い」
　溜息が吐かれ、踵を返し襖に向かう後ろ姿から、様々な具材の香りが仄かに漂ってくる。
「家主は寝穢いようだからな…我々だけで朝餉をとるとしようか」
　足元の子猫に目線を落とし、退室を促す海神の背中を追いかけるべく、重い腰を上げた。
　
　未だ頭の働きは鈍いが、背中から僅かに感じる期待には応えねば。居間に向かいながらいたずらっ子を抱き上げると、猫は満足そうに鼻を鳴らした。

August 15, 2025 at 11:39 AM

Ｕ吉

@aonoridon.bsky.social

(2／2)

透き通った瓶に、カンロ杓子の浸かった、人工的な色の着いたシロップ。夏にしか見られない涼し気な並び。天井から提げれた「氷」の旗。かき氷なんて、原価の安い殆どただの水だろう。それでも、この場を思い出にしたくて、自然と口から溢れ出てしまっていた。
「あるとも。何の味にする？　吾のおすすめはな」
　
「遅かったじゃねえかよ」
「文句があるなら自分で行け」
「まあそういうな。帰りが遅くて心配していたのだ」
　ビーチパラソルの下で末の弟に水分を取らせていた長兄に、焼きそばを手渡した。フランクフルトは焼き終わるまで店で待っていたのを、袋の外から伝わる熱さで察したのか、次兄はそれ以上何も言わずに黙々と齧っていた。
「珍しいものを買ってきたな」
　スプーンのように掬える形に加工してあるストローを持ち、かき氷を口に運んでは、胸に染み入るように口内で溶かす。ひんやり舌の上で溶けるそれの味は、やはりちっともわからなかった。
「良い色だなそれ。夏っぽくて。俺にもくれよ」
「あげない」
「なんでだよ」
「僕のだから」
　
　僕だけのブルーハワイだから。
　
「また来てくれよ」
　社交辞令だ、ビジネス笑顔だ、わかっている。
　でも、かき氷を受け取る僕を見る優しげな彼の

微笑みが、僕をどうしようもなく照らして、夏の太陽みたいに容赦なく焼く。
　
　
　あついからだにひえた青い氷が、とけていく。

July 21, 2025 at 2:45 PM

Ｕ吉

@aonoridon.bsky.social

海の日でこじポセです。psが人類でショタです。fki先生のショタpsが被弾した哀れな3回戦オタクの幻覚にお付き合いください。sskは焼きそばくらいなら美味しく作れると信じているからな私…！ https://sscard.monokakitools.net/pagemakers/shinsho/shinsho_bg.php

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。
付記に「@now_or_lever」と記載されています。
画像情報：generated by 新書ページメーカー / Photo by Mae Mu on Unsplash / フォント：源暎こぶり明朝

以下は本文の内容です。

　かき氷のシロップって全部同じ味なんだってな。
　
　読書感想文を「夏休みの科学」なる本で乗り切ろうとしている次兄がぼそっと呟いた。加糖ブドウ糖液糖なるものが主成分で、あとはそれぞれの果物の香料と、着色料が入っている甘い液体が、削った氷の上にかかっているだけの食べ物。それがかき氷、らしい。子供騙しだ。製造方法を知りがっかりはしたものの、それでも涼を求めて買いたくなるのはわかる。実際、夏は暑い。照りつける太陽が憎い。海は好きだが、人混みは嫌い。それでも、せっかくだし何か買っておいでと財布を渡してくれた長兄の好意を無碍にするわけにはいかない。俺はもうひと泳ぎしたいからフランクフルトよろしくな、とパシってきた次兄の食事は、手渡す前に自ら齧ることでささやかながら復讐しておく。
　
　浜辺で観光客相手に商売をする店がどんどんカフェのような洒落た外観に改装されゆくこの時代に、今時古風とも言える海の家があった。決して閑古鳥が鳴いているわけではないのだが、若者やファミリー層でごった返す他の店舗とは違い、イートインスペースは簡易な大型縁台がひとつ置いてあるだけ、壁で区切られてもなければ冷房設備もなく、いつの時代に作られたものか見当もつかないほど年季の入った扇風機が客の方を向いて鎮座している。「いかにも」な構えであるこちらの店の方が、がやがやとして待ち時間の長い他のところより、入りやすかった。どうせ浜辺で買う軽食なんてどこも同じだろうし。看板を確認すると、次兄ご希望のフランクフルトに加えて、焼き

そばやアイスクリン（この表記は久しぶりに見た）、カウンターを見ると様々な色のシロップが入ったガラス瓶が見えるため、かき氷もあるのだろう。ひとまずフランクフルトと、主食になるような焼きそばを確保しよう。店員を探してキョロキョロしていると、背後から声がかかった。
「いやあ、待たせてしまってすまないねえ…おや、坊っちゃんひとりか？」
　振り向くと、見上げるほど長身でやたらガタイの良い年配の男が立っていた。気配らしい気配もなく、急に話しかけられたので少し肩が跳ねた。
「はい…あの、フランクフルト、まだ残ってますか？　あと焼きそばも…」
「おお、たくさん注文か…時間はあるかい？　作り置きもあるが、手も空いてるし今から焼いても構わんのであれば…」
　ちょうど他に客はおらず、縁台も扇風機も独り占めできそうだ。携帯電話を見たが、誰からも催促のメッセージなどは入っていなさそうだ。
「お願いします」
　人を使いっ走りにしたのであれば、待たされても構わないだろう。
　
　熱された鉄板からじゅうじゅうと水分の弾ける音が飛び出し、ソースの香ばしい香りが漂う。屋外なので音も匂いも霧散してしまうけど、出された紙コップの麦茶（代金を払おうとすると売り物じゃないから、とやんわり断られた）を飲みながら、何も考えずできあがりを待つこの時間は嫌いじゃない。波打ち際できゃっきゃとはしゃぎビーチボールを打つ声が遠くに聞こえ、店内では風鈴が忙しそうにりんりんと鳴っている。贅沢な時間

の過ごし方だと思う。決して小綺麗な店でも快適な環境でもないけれど、こんな非日常もたまには良いかと思えた。
「お待たせ、出来たよ」
　持ち帰り用のプラ容器に詰まったそれは何の変哲もない普通の焼きそばに見える。しかし、ふわふわ立ち昇る美味しそうな香りと紅生姜の赤みが空腹の身に刺さる。人は視覚と嗅覚が食事それ自体の満足感の大部分を決めている、とは真実なのだろうな。日陰に座り麦茶をご馳走様になったとはいえ、まだまだ体は熱い。紙に包まれたフランクフルトも受け取り、更にアイスに手を出すか悩んでいるところに、店員がしゃがんで視線を合わせた。
「へえ…あんた、綺麗なブルーハワイじゃないか」
　一体何のことだ、との疑問には、自分の眼球の色と売り物の特徴を重ねて言っているだけだとすぐに結論が出た。身長差があり過ぎてまともに顔を合わせたのが初めてなのがいけなかった。自分は店員の顔などどうでも良い。例えば、野球観戦に行って好みの売り子が自分の近くを通るまで待つタイプの人間とは相容れないだろうし、美人のレジ担当がミスをしようと当然苦情は言う。顔など人間の表層に過ぎない。美醜の如何によって評価を変えるなどもってのほか。商売なら売り物で勝負すべきだ。
　
　まして飲食店なら味が全てだ。
「あ…えっと……」
　なのになぜ僕はもじもじしているのだろうか。
「ありがとうございます…？」
　容姿を褒められることは別に初めてではないの

に。縁台の上で、寒いどころか暑くて堪らないのに、できるだけ小さくなるように丸まって、たった今褒められた瞳の色を、店員から遠ざけている。暫く僕の顔を見つめていた店員は駄目押しのようにやっぱり綺麗だなあと呟いたあと、踵を返して持ち場に戻った。助かった。あのままずっと見られていたら茹で上がってしまっていただろう。なぜかわからないが、あの老人の目をじっと見ることは、憚られた。人をジロジロ見るのが失礼だから、という話ではなく、とても気恥ずかしかったからだ。鼻筋が通っており年相応にほどよく入った皺、柔和な目元。東洋系にしては珍しいほどのすらりとした高身長、鍛えているであろう、作業着からちらりと見える逞しい体躯。長さの割に綺麗に手入れされ結われた白銀の髪。明らかに暑さとは違う理由で、頭に、顔に血が上るのを感じたからだ。
「えっと、フランクフルトと焼きそばだな……大丈夫か？　もうちょっと休んでいくか？」
　会計の準備の手を止めて、彼は再びこちらの様子を伺いに来た。よほどぼうっとしていたのだろうか。
「日射病かね…横になってもかまわんよ？　冷やすもの持ってこようか」
「いえ…お構いなく…」
　むしろ彼の傍にずっといると、多分一生解熱しない。情けないことだが。平時の自分が思い出せないほどに、熱を上げているのだ。初めて遭ったはずの、ただの海の家の店員なのに。ただ焼きそばを作ってくれただけなのに。瞳のいろを、綺麗だと言ってくれただけなのに。
「…かき氷、まだ買えますか」

July 21, 2025 at 2:45 PM

Ｕ吉

@aonoridon.bsky.social

140字テスブブチャレンジです。ブブちゃん根が真面目なフッ軽なので博士に落ちたら(何がとは言いませんが)早いんだろうな、などと思いました。なんかテスブブ(概念)ですね、ふわふわしている… https://sscard.monokakitools.net/tanka.html

「君にそんな無体は働かない、今のままで私は充分幸福だからね」
頭を撫で背を抱いてくれる彼。この僥倖は、僕なんかには身に余る。

「本当にしないの？」
彼の澄んだ優しさに、僕は後ろ足で砂をかける。
「僕は君だったら全部許すのに」
瞳を見つめると、逡巡ののち逸らされた。
ああ、ひどくやさしい人。 | ＠now_or_lever

July 18, 2025 at 12:45 PM

Ｕ吉

@aonoridon.bsky.social

ド遅刻ですが七夕を擦った140字ハデポセチャレンジです。海は空との境界が曖昧なほど広くて青いけど冥界は真逆だよな〜と思うなどした。

July 11, 2025 at 11:08 PM

Ｕ吉

@aonoridon.bsky.social

「こわ格好良いジジイはなんぼあっても良いですからね村」の村人こと私です。140字で3回戦書きました。拙宅のsskがどんどん人外化していきますがまあ原作も滅茶苦茶なので良しとする。※CP臭はないですが宗派はkjpsです。 #うたの短冊メーカー https://sscard.monokakitools.net/tanka.html

彼の帰還を待ちつつ波間を見遣る。引き摺り込まれそうな闇夜の中を悠々と泳ぎ、浜辺に戻った彼に問い掛けた。
「あの辺りの珊瑚礁に行ったのかい？」遥か彼方を指す。
「何故わかった」
「潮を見てりゃわかるよ、あんたと違って素直だからな」

もう海ですら己の独り舞台ではないのだ。海神の背筋は凍った。 | ＠now_or_lever

July 5, 2025 at 7:57 AM

Ｕ吉

@aonoridon.bsky.social

遅刻ですがメイドの日でレオアポです。CP要素は強くないです。過去作(リプ欄に後ほどリンク貼ります)と同じ世界線の話です。モブ視点です、自我の出てるモブでも大丈夫な方はお楽しみください。 #文庫ページメーカー https://sscard.monokakitools.net/pagemakers/bunko/bunko_bg.php

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。
付記に「@now_or_lever」と記載されています。
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以下は本文の内容です。

　オレも昔はワルだったのよ。いやワルってのは若気の至りとかやんちゃとかそういうのじゃなくてな、本物の犯罪よ犯罪。空き巣ってやつだな。まあ大泥棒だの大悪党だのじゃなく、所謂コソドロよ。今はすっかり堅気だがね。そんときゃよ、食っていくために裕福そうな家に忍び込んで売れそうな物をかっぱらって換金してたワケ。なんで辞めたかって？
　
　オレが最後に忍び込もうとしてた家はな、神の創った村だとかいう胡散臭え二つ名の付いた村のな、領主だかなんかの家だったんだと。風の噂で、その領主夫妻が急に逝っちまって、今はそのガキが独り暮らしだって聞いたもんで、大喜びで下見に行ったのよ。ガキなら盗みの最中に見つかっても、最悪縛り上げてさっさとトンズラこけば捕まらねえ、そう思ってな。
　
　掃除夫のフリしてお宅を是非綺麗にしたい、家の中見せてほしいって訪ねたんだが、出てきたのがそのガキと、なんだかやたらタッパのある使用人だった。女の制服着てたけどあれ絶対野郎だったわ。デカかったもん。顔は綺麗だったがよ。

掃除夫…？　そりゃ人手がある方が助かるが…コイツはまだ試用期間でな、とそのガキはメイド服の野郎を振り返って言ってたもんで、付け入る隙があると踏んで家に入ろうとしたんだが、そのメイド野郎に止められたんだよな。やだなあ、本職の人にオレ様の不出来を晒すなんて恥ずかしいじゃないか、日を改めて貰えるかな？　もっと仕事の腕を上げて、キミに負けないくらいぴかぴかの家にしてみせるから、また見に来給えよ！　とかなんとか言って、体よく追い出されたんだよ。その野郎は門扉まで見送りに来てよ、態度っつうか言葉遣いはアレだがさすがに屋敷勤めのメイドだな、丁寧な仕事しやがると感心しかけたオレの肩をポンと叩いてその野郎、なんて言ったと思う？
　
「この家にお前の求める物は無い。このまま去ると良い」
「今の仕事よりお前に合った職は必ずあるさ。励め」
　
　さっきまでのチャラチャラした空気が吹き飛んで別人みたいに凄んだんだよ。眼光も明らかに素人のもんじゃなかった。ガキの前で見せてた顔と、招かれざる

客に出す顔が全然違った。オレはその場で理解させられたんだよな。あのガキ、ただの家政夫じゃなくて、用心棒を置いてやがったんだってな。メイドの服はカモフラージュで…いやどっからどう見ても野郎だから何でメイドの服なのかは今でもわからんが……趣味なのかな……とにかくオレは逃げ帰った。そこから、どこに盗みに入る計画を立てても「励め」と言われたあの野郎の凄みを思い出すとどうにも萎えてな、今は真っ当に掃除夫してるんだよ。まさか盗みのためについたホラ話で食っていくことになるとは思わんかったが、今となっちゃあの家を狙って良かったんだよな。
　
　
「お引き取り頂いてきたよ」
　アポロンが勝手口から戻ると、レオニダスが食事の準備を始めるところだった。
「ご苦労さん…別に俺様は使用人が一人増えたところで困りはしなかったんだが…あんただって、仕事が減るに越したことはねえだろ？」
　食材をカッティングボードに並べ、淡々と刃を入れていく。トントンと小気味

よい音を立てて、均一なサイズに切られていく野菜の綺麗な断面を見ていると、彼の几帳面さや根っこにある生真面目さを感じられて良いなと思うとともに、使用人がいなくても一人でやっていけると考えた彼自身の判断に間違いはなかったのだな、と寂しさも感じられた。彼自身は子どもながら、単に生活していくだけなら独力で何とかなった筈なのだ。オレ様が構いたくてついこんな格好で押しかけてしまったが。とは言え、共に生活し始めた当初より、ささやかながら彼が笑顔を見せる頻度は日に日に高くなっている。オレ様は神だ。神故に、気まぐれだ。気まぐれ故に、盗人に更生の道を示したり、目の前の子どもに目をかけても構わないのだ。
「彼はまだやり直せるからね」
「やり直す…何をだ…？」
「ふふっ秘密～」
　
　というのは建前で、まだ二人でいたいので帰ってもらいました。
　やっぱりちょっと格好悪いな、まだ内緒にしとこうか。

May 12, 2025 at 8:30 AM

Ｕ吉

@aonoridon.bsky.social

さっきの2/3の間違いですわ…
（3/3）

May 9, 2025 at 8:27 AM

Ｕ吉

@aonoridon.bsky.social

（2/2）

May 9, 2025 at 8:26 AM

Ｕ吉

@aonoridon.bsky.social

社会人時空8回戦組人類パラレルです。深い設定ありません。他の現パロとの繋がりもなく単独で読めます。両片想いくらいのつもりですが、書き手がテスブブ派ですのでそういう出汁が出てるかも知れません。全11頁。（1/3）

May 9, 2025 at 8:25 AM

Ｕ吉

@aonoridon.bsky.social

3/3

May 2, 2025 at 6:09 AM

Ｕ吉

@aonoridon.bsky.social

2/3

May 2, 2025 at 6:08 AM

Ｕ吉

@aonoridon.bsky.social

本編100話達成おめでとうございます。退場した闘士も世界の何処かでわちゃわちゃしてると嬉しいな（私が）と思って書きました。主に喋ってるのは博士とダムパパです。深い設定無いので気軽にお読みください。全12頁。（1/3） #新書ページメーカー https://sscard.monokakitools.net/pagemakers/shinsho/shinsho_bg.php

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以下は本文の内容です。

目を覚ますと、そこは兄の研究室だった。そんな筈はない、敗者の魂は宇宙の塵になって彷徨うと聞いている。こんなに意識がはっきりしたままなんて。顔や周囲の物に触れた。感触はある。机の上の本も、棚に大事に飾ってある兄の発明品も、埃を被ることもなく、子どもの頃の記憶のままだ。走馬灯という可能性も考えた。しかし一説によると、あれは死の間際に「過去の経験から生還に必要な行動の情報を脳が片っ端から探しているから」とされている。この点は未だ科学的に証明はなされていないものの、面白い視点ではあると感じていた。そして残念ながら、自身がそれを経験することは無い。脳の機能はさておき、情緒としてテスラは死を受け入れた。消滅する直前にも、テスラが見ていたのは走馬灯ではなく、自身を支えてくれた人類側の観客であり、仲間たちであり、そして
（ゲンドゥル…ゲンドゥルはどこに…？）
文字通り命を賭して護ってくれた戦乙女の姿がない。まさか生前の思い出に縋ったまま独りで生きることが敗者への罰なのだろうか。
（駄目だ、じっとしていると嫌な想像が止まらない。何か行動しないと）
人間は社会を作る生き物である。何も無い空間に人間一人で待機させると、どのくらいの時間で狂うかという全く人道的でない実験を思い出した。本で読んだだけだったが、結果は惨憺たるものだった。願わくばこんなところで当事者になりたくはない。許されるなら兄の部屋でもっと思い出に浸っていたかったが、状況の確認が優先だ。渋々兄の愛用していた椅子から立ち上がった。少し軋む床の音が懐かしくて、名残惜しい。祈るよう

な気持ちで、部屋のドアを開けた。

重たい気持ちとは裏腹にあまりに軽く開いたドアの向こうには、人がいた。やった！もし共通の言語があるなら会話が出来る！とりあえず彼から情報収集を、と考え目の前の男を見詰めたところで、奇妙な点に気付いた。男、というよりもっと幼く見える。青年はほぼ裸であった。もしかしたら生きていた時代が大きく違うのではないか、そもそも時代の概念は彼にあるのだろうか、何と声を掛けるべきか、まず声を掛けて安全なのか、物騒なことをしそうな人相には見えないが…

「はじめまして。君は何回戦に出た子なのかな？」
明らかに身長はこちらの方が高いのに、まるで膝を折って目線を合わせて話をされているような、子どもに話すような優しい声音だった。赤の他人にこんなに柔らかく話しかけられたのはもう二世紀近く昔のことだ。警戒心を解かざるを得ない。
「８回戦だ。私はニコラ・テスラ…えっと…貴方も闘士なのかな」
「そうだよ、俺はアダム。俺が出たのは２回戦で、君はここの４人目のお客さんだね」
「アダム……さん、で良いのかな……？すまない、私は他の闘士のことを知るのに時間が割けず」
「忙しかったんだね、大丈夫。俺が知る範囲でここのことと外のことを教えるからね」

アダムと名乗る青年（本当に聖書に出てくる原初の男とのこと、多分本当に彼はアダムであるのだろうしもう何が起きても驚かないことにした）が言うには、ここは敗者の送り込まれる空間である

らしい。なにせ、外からもたらされる情報は、新しい人類が来るまで、つまり人類が終末に歩を進めるまで皆無とのこと。アダムが目を覚ましたのは、生前彼が追放された先で家族と住んでいた地域を「模した」もので、他の生き物を探してずっと歩き通したところ、ストイックに槍の素振りを続ける大男に出会った。それが呂布であった。彼は人と会話するより己の体を鍛えるのに余念が無かった。「次は殺る」と楽しそうに鍛練する彼を見守ったり、草花や空を眺めたりしていた。ここは夜が来ず天候の変化も無く、のんびり暮らすにはちょうど良かった、そのようにアダムは述懐した。

（つまり時間の経過も無いのか…呂布や彼が最初期にここに来た人で良かったかも知れない…自然に深く親しみを持てたり、呂布のように一点集中出来る人間でないとこんなには活発には過ごせなかったんじゃないだろうか……私がここで先人の経験談無く生きていくのはかなり難しかっただろうな…）
「呂布と俺の共通点はおじいちゃんたちに勝てなかったことだからさ…確定ではないけど、今のところ俺が出会えた人間はラグナロクの敗者しかいない。君もかい？」
「ああ、私も彼には及ばなかったよ」
テスラの口は回る。目覚めてからこの世界には誰もいないかも知れないと、抱えていた不安を払拭するように。兄や家族の話。仕事の話。一緒に研究した仲間たちの話。ゲンドゥルと出会った時の話。ベルゼブブの話。他人に聞いてほしいことが山のようにあった。アダムは口を挟まず、うん、

うんと頷きただただ聞いてくれた。
「…それで、起きたらお兄さんの部屋だったんだね」
「ああ、貴方の話によると、闘士以外の生き物は居なさそうだね？」
「今、雷電が散歩がてら他にも人がいないか見に行ってくれてるけど…呂布も俺も、他に人間を見ていないからね」
「そうか…貴方はここは何だと予想する？敗北者に魂の消滅以外の罰を与えるには、些か異質ではないかな」
「割と快適だもんね」
「うん、…私は貴方がいれば思ったより快適だけど…」
テスラは言葉を濁した。近代を直接は知らないアダムなら生前の環境に似た世界は然程苦ではないのかも知れないが、自分やもっと未来の人間が最初にここに送り込まれて、心の支えになれる者がいなかったとしたら。
「独りでいるのは…正直に言うと、辛かったかも知れない。貴方は強いな」
「俺？うーん…そうかな…ここもそんなに悪くないよ。俺は物にあまり好き嫌いとか拘りは無いけど…ほら、」
アダムがテスラの目の前に手を差し出す。握手だろうか？今更？そう言えばまともな挨拶は交わしていなかったかも知れない。無礼なことをした、と考えを巡らせテスラ自身も手を出そうとしたところで、差し出されたアダムの手が光に包まれた。突然の現象に面食らっている間に、アダムの掌の上には、ぴかぴか輝く立派な林檎が鎮座していた。何が起きても驚かないことにしていたが、土台無

May 2, 2025 at 6:07 AM

Ｕ吉

@aonoridon.bsky.social

こじポセ140字チャレンジ。いつまでもこういう関係だと良いなあ
⚠最中描写⚠
隠喩に徹しましたがこらアカン場合はお声かけください #SS名刺メーカー https://sscard.monokakitools.net/meishi.html

口を覆っても漏れる声は消えず、瞼を閉じたところで涙腺はお構いなく緩み決壊する。そんなもの此奴に晒したくないと顔を背けた。

「あんたが良いなら構わんが…口は背中にはねえよ？」

自覚より遥かに口吸いが気に入っていると暗に囁かれ、癇に障る。歯噛みをしたいような心地で、今夜も枕に突っ伏した。 | ＠now_or_lever

April 20, 2025 at 7:53 AM

Ｕ吉

@aonoridon.bsky.social

桜流しの時期ですね。散りきってしまう前にレオアポ書きました。何でしょうこれは。冒頭の小説はミリしらですので桜の解釈がコレであってるかは怪しいです。桜って他の花にない怪しい魅力がありますよね。全4ページ。 #文庫ページメーカー https://sscard.monokakitools.net/pagemakers/bunko/bunko_bg.php

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付記に「@now_or_lever」と記載されています。
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以下は本文の内容です。

　満開の桜の樹の下では花に攫われたり地下に死体が埋まっていたり異形の者と化した女房に絞め落とされたりするらしい。何とも物騒な話である。
　
　キミはハンモックが定位置だがたまには公園でも良いだろう？　花見といこうじゃないか！　と誘われ、花弁舞い散る中読書に勤しんでいる。世界中の色んな美を観て周りたい、との希望もあり、こうしてたまに外に連れ出されては並んでぼんやりと景色を眺めるなどしている。隣の神は鑑賞対象によって反応が変わり、瞳を輝かせたりうっとりしたりと、何とも忙しない。己は、彼が言うところの「美」がわからない。ゲイレルルが美人なのは、芸術だの何だのにも疎い己にも、誰の目にも明らかであるとして、無骨な大男に対しても「美しい」と言われても全くと言って差し支えないほどに、ピンとこない。
　
「きれいだな」
　たった一言呟いたあと、風に吹かれて宙を舞い地面に散ってゆく桜の花びらを、異国の神は無言で見つめていた。

サクラが死や暴力、畏れなど不穏なモチーフとともに語られるのは、曰く「美の虜となることへの恐怖」の隠喩であり、「美しさ」はそれだけ人間の精神を捕え、時には倫理観を捨てさせるもの、らしい。らしい、と述べるのは、微塵も共感出来ないからである。理屈はわかる。己が信念のために、他人の命に手を掛けた者は歴史上枚挙に暇がないだろう。己がそうであるのだし。己が死した後の人類史でも、そんな人間は山程いる。わざわざ歴史に残すまでもない小さな事件は履いて捨てるほど。美しきものは正しく尊く、故に愚挙を肯定し得る。
　
　んなわけあるか。美しいからって、自分が見惚れて壊れて使い物にならなくなったら意味がねえだろうが。
　
　と、美を解さない己は一笑に付して終わるのだ。
　
　すまんが俺様は花より団子だし、季節一個分しか顔を見せねえ儚い花とやらを

わざわざ見に行くよりも、年がら年中咲いてるうるせえ花を隣に置いとく方が性に合ってるんでな。
　
「そろそろ飽きたんじゃねえのか」
　桜の花びらより濃い色の髪に問い掛けた。
「まさか。オレ様が美しいものに見飽きることなんてありはしないさ」
　ふふ、と笑いかけると、また視線を花に戻されてしまった。
「そうだな…オレ様が美に飽きることがあるとするなら…オレ様がオレ様じゃなくなる時かな………」
「あんたみたいに我の強い奴にそんなこと起こるのかよ」
「あれ？　これって意味深な独り言を言った想い人を心配する流れじゃないの？」
「………あんたは心配されるようなタマじゃねえだろ」
　
　どれだけぼろぼろになっても折れなかったあんただから俺様は

俺様は
　
「たまにはしおらしくして反応を楽しもうかと思ったのに…まあ良いか。それもキミだしね」
　
　整った顔の真ん中に結局傷は残った。美とは真反対のそんなもんを持っててもコイツの笑顔は眩しくて、頭上で咲いてる花の儚さとやらとは違って活気に漲ってて
　
　ああ
「美しい」ってこういうもんかってのが、わかった。
　ほんの少しだけな。

April 10, 2025 at 11:12 AM

Ｕ吉

@aonoridon.bsky.social

原作通りpsidnがニブルヘルした後のsskと次女とモブの話。モブの自我が強め。そういう描写は無いですが書き手の実家がこじポセなので注意。「斬りたい」は最大限のリスペクトな剣サーのsskが好き。全4頁。 #文庫ページメーカー https://sscard.monokakitools.net/pagemakers/bunko/bunko_bg.php