腐 /ブロマンス/HL/デミセク/アセク/20↑ /ネタバレ/フォロー=購読希望/挨拶不要/ミュートリムブロOK/禁止:無断使用、無断転載、AI学習/拍手: https://wavebox.me/wave/6fdqwcdmd1p8j5d9/
プロフ: https://lit.link/husonsonjou
いつも二人で出歩く時そうであるように、また人から親子に見られるんだろうなと、鏡をよぎる二人の姿に手を振った。
いつも二人で出歩く時そうであるように、また人から親子に見られるんだろうなと、鏡をよぎる二人の姿に手を振った。
そう顔色を伺いながら言うと、叔父は虚をつかれたような顔をしていた。
「かまわない……いや明日は家を出るのが……いやいい、大丈夫だ」
そうしどろもどろ言う叔父に、思わずプ、と笑ってしまう。
「家出る時間は合わせるよ。でも本当に大丈夫?」
「大丈夫だ」
「彼女とかいないの?」
「いるか」
「はは、ともちゃんいつもその返答だったよね」
それにいつも「あー隠してる」と返すのが常だったけど、もうこの軽口もきけないのかもしれない。
そう顔色を伺いながら言うと、叔父は虚をつかれたような顔をしていた。
「かまわない……いや明日は家を出るのが……いやいい、大丈夫だ」
そうしどろもどろ言う叔父に、思わずプ、と笑ってしまう。
「家出る時間は合わせるよ。でも本当に大丈夫?」
「大丈夫だ」
「彼女とかいないの?」
「いるか」
「はは、ともちゃんいつもその返答だったよね」
それにいつも「あー隠してる」と返すのが常だったけど、もうこの軽口もきけないのかもしれない。
部屋を眺める。テレビもない、必要最低限の家具が置かれただけの、シンプルな部屋。祖父母や母に囲まれながら暮らしてきた俺と違って、この部屋で一人暮らしをし続けた叔父。
「あのさ、急に来て、こんなお願いを言うのもなんだけど……」
俺の言葉に叔父が身構えたのがわかった。俺も、言い出すのに喉の渇きを覚えたので、せっかく出してくれていたコーヒーに手をつける。
一口だけ口にしたコーヒーはほろ苦かった。
部屋を眺める。テレビもない、必要最低限の家具が置かれただけの、シンプルな部屋。祖父母や母に囲まれながら暮らしてきた俺と違って、この部屋で一人暮らしをし続けた叔父。
「あのさ、急に来て、こんなお願いを言うのもなんだけど……」
俺の言葉に叔父が身構えたのがわかった。俺も、言い出すのに喉の渇きを覚えたので、せっかく出してくれていたコーヒーに手をつける。
一口だけ口にしたコーヒーはほろ苦かった。
「俺さ、ともちゃんが大学に行きたいなら行ったらいいって言ってくれたの、嬉しかったよ」
スマホを買いに一緒に出歩いた時の話だ。俺はまだ高校に通ってもないのに、高校卒業後の話をふる叔父に気が早いよなんて笑って、就職とどっちにしようかな、と答えた。そんな俺に、家を気遣うより自分のしたいことを大事にしろと叔父は言ってくれた。
叔父がそれから実家に寄り付かなくなったのは、俺がもう子供ではないと悟ったからなのかもしれない。実際、叔父が俺に贈った言葉の積み重ねが、疑念を確信へと至らせた。
「俺さ、ともちゃんが大学に行きたいなら行ったらいいって言ってくれたの、嬉しかったよ」
スマホを買いに一緒に出歩いた時の話だ。俺はまだ高校に通ってもないのに、高校卒業後の話をふる叔父に気が早いよなんて笑って、就職とどっちにしようかな、と答えた。そんな俺に、家を気遣うより自分のしたいことを大事にしろと叔父は言ってくれた。
叔父がそれから実家に寄り付かなくなったのは、俺がもう子供ではないと悟ったからなのかもしれない。実際、叔父が俺に贈った言葉の積み重ねが、疑念を確信へと至らせた。
これまでの俺の生活が、母や祖父の稼ぎだけで回っていた、なんてことはないだろう。俺の誕生日プレゼントやクリスマスプレゼントを買っていたのだってきっと叔父だ。叔父はそうしてずっと遠くから俺の、俺たちの暮らしを支えていたに違いない。そしてそんな立ち振る舞いに祖父母が疑問を持たないのは難しいだろう。もし家族思いな息子だとしか思わないのなら、よっぽどこの叔父は信頼されている。
これまでの俺の生活が、母や祖父の稼ぎだけで回っていた、なんてことはないだろう。俺の誕生日プレゼントやクリスマスプレゼントを買っていたのだってきっと叔父だ。叔父はそうしてずっと遠くから俺の、俺たちの暮らしを支えていたに違いない。そしてそんな立ち振る舞いに祖父母が疑問を持たないのは難しいだろう。もし家族思いな息子だとしか思わないのなら、よっぽどこの叔父は信頼されている。
「そうなっても仕方ないことをした。この先も好きなようにしていい。今こうして、話をしてくれるだけ、……」
この叔父はこんな風に、感情を溢すように言葉を紡ぐのだと初めて知った。
叔父は自らの顔を片手で拭うように押さえる。
「優しい子に育ったな」
──そうでもないよ。
どうせ、俺がここに来たのは叔父が読んでいたように金の無心だ。それに、俺が二人の子供であることなんて、たぶん、我が家の公然の秘密だろう。
「そうなっても仕方ないことをした。この先も好きなようにしていい。今こうして、話をしてくれるだけ、……」
この叔父はこんな風に、感情を溢すように言葉を紡ぐのだと初めて知った。
叔父は自らの顔を片手で拭うように押さえる。
「優しい子に育ったな」
──そうでもないよ。
どうせ、俺がここに来たのは叔父が読んでいたように金の無心だ。それに、俺が二人の子供であることなんて、たぶん、我が家の公然の秘密だろう。
「……知らない」
「そりゃそうか。じゃあ俺も黙っといた方がいいってことね」
「黙ってくれるのか」
「言っても可哀想でしょ」
言いながら、俺もまた可哀想なのか、と先ほどの叔父の謝罪が腑に落ちた。自分の生まれが真っ当ではないことは、それをずっと隠されてきたことは、そしてこの先自分でも隠していくことは、きっと可哀想なのだ。
「……知らない」
「そりゃそうか。じゃあ俺も黙っといた方がいいってことね」
「黙ってくれるのか」
「言っても可哀想でしょ」
言いながら、俺もまた可哀想なのか、と先ほどの叔父の謝罪が腑に落ちた。自分の生まれが真っ当ではないことは、それをずっと隠されてきたことは、そしてこの先自分でも隠していくことは、きっと可哀想なのだ。
「あのお袋が産んだんだから、別に無理矢理な関係でもなかったんでしょ。ならいいよ。いや、それは俺の問題じゃないと思っている」
努めてあっけらかんと俺は言った。
「それよりも話してくれるつもりだったのは意外だったな。お袋に『父親が気になるなら自分で探せ』って言われた時もまあ驚いたけど」
「隠し通すことも考えたが……、それだといずれお前に遺産も渡せないからな」
「遺産て! 気が早いってか、え? そういうつもりなの?」
「俺がお前にしてやれるのはそれぐらいしかないからな」
「急に父親面するじゃん」
そう言うと叔父は押し黙った。
「あのお袋が産んだんだから、別に無理矢理な関係でもなかったんでしょ。ならいいよ。いや、それは俺の問題じゃないと思っている」
努めてあっけらかんと俺は言った。
「それよりも話してくれるつもりだったのは意外だったな。お袋に『父親が気になるなら自分で探せ』って言われた時もまあ驚いたけど」
「隠し通すことも考えたが……、それだといずれお前に遺産も渡せないからな」
「遺産て! 気が早いってか、え? そういうつもりなの?」
「俺がお前にしてやれるのはそれぐらいしかないからな」
「急に父親面するじゃん」
そう言うと叔父は押し黙った。
覚えている。それは子供の頃の俺の夢だったから。
「でももう、そういう話ではないんだろう。そうなんだな」
「……否定しないんだね」
「いつか話すつもりでいた。お前がそうして言い出すのを待っていた」
叔父はそう言うと、俺が打ち明けた時にもピクリとも動かさなかった表情が、歪んだ。
「苦しませてすまない」
俺は苦しかったのだろうか。そして、苦しいのだろうか。まるで人事のように思った。人並みに片親であることを気にしたことはあったけれど、家には母や祖父母がいて、寂しさを覚えずに暮らしてきた。生活に不自由を感じたこともなかった。
覚えている。それは子供の頃の俺の夢だったから。
「でももう、そういう話ではないんだろう。そうなんだな」
「……否定しないんだね」
「いつか話すつもりでいた。お前がそうして言い出すのを待っていた」
叔父はそう言うと、俺が打ち明けた時にもピクリとも動かさなかった表情が、歪んだ。
「苦しませてすまない」
俺は苦しかったのだろうか。そして、苦しいのだろうか。まるで人事のように思った。人並みに片親であることを気にしたことはあったけれど、家には母や祖父母がいて、寂しさを覚えずに暮らしてきた。生活に不自由を感じたこともなかった。
今となっては、鏡を見るたびに、憧れは疑念へと変わった。
「ともちゃんが、俺の父親なんでしょ?」
叔父が初めて俺に姿を現した時、祖父母や母から「ともおじちゃん」だと紹介された。それがいつしか略されて「ともちゃん」と呼ぶのが、昔から口慣れた叔父の呼び名だった。
今となっては、鏡を見るたびに、憧れは疑念へと変わった。
「ともちゃんが、俺の父親なんでしょ?」
叔父が初めて俺に姿を現した時、祖父母や母から「ともおじちゃん」だと紹介された。それがいつしか略されて「ともちゃん」と呼ぶのが、昔から口慣れた叔父の呼び名だった。
「その前に飯はもう食べたのか? まだならどこかで食べよう」
「今日は、話したいことがあって来たんだ」
そう切り出すと、叔父は飲んでいたコーヒーカップを置き俺を見た。
改めて、叔父の顔は俺に似ていると思った。それはつまり、俺は祖父に似ていて、叔父もまた祖父似だからだと、ずっとそう思っていた。
「話したいことというより、確認かな」
「その前に飯はもう食べたのか? まだならどこかで食べよう」
「今日は、話したいことがあって来たんだ」
そう切り出すと、叔父は飲んでいたコーヒーカップを置き俺を見た。
改めて、叔父の顔は俺に似ていると思った。それはつまり、俺は祖父に似ていて、叔父もまた祖父似だからだと、ずっとそう思っていた。
「話したいことというより、確認かな」
リビングには大きなソファが置かれており、そこへ座った。叔父はコーヒーを淹れてくると、俺に端へと座るように言い、ソファへと並び座る。
「大学の下見はできたのか」
「まあね」
そういう話をしていた。それで近くを通るので久しぶりに会いたいと話を持ちかけた。
「入学祝いを贈りたいと思うんだが、この後買い物にでも出ようか。あの家のパソコンは古いだろう。ノートパソコンぐらいあった方がいい」
リビングには大きなソファが置かれており、そこへ座った。叔父はコーヒーを淹れてくると、俺に端へと座るように言い、ソファへと並び座る。
「大学の下見はできたのか」
「まあね」
そういう話をしていた。それで近くを通るので久しぶりに会いたいと話を持ちかけた。
「入学祝いを贈りたいと思うんだが、この後買い物にでも出ようか。あの家のパソコンは古いだろう。ノートパソコンぐらいあった方がいい」
あらかじめ一報は入れていたため、そう軽く迎い入れられる。玄関先で靴を脱ぎながら、ふと壁にかけられている鏡が目に入る。おそらく叔父の顔の高さに合わせてかけられているそれは、俺にとっては少し高い位置に設置されていた。そこに半分ほどしか映ってないだろう自分の顔を横目に、案内されるまま廊下を通って行く。
あらかじめ一報は入れていたため、そう軽く迎い入れられる。玄関先で靴を脱ぎながら、ふと壁にかけられている鏡が目に入る。おそらく叔父の顔の高さに合わせてかけられているそれは、俺にとっては少し高い位置に設置されていた。そこに半分ほどしか映ってないだろう自分の顔を横目に、案内されるまま廊下を通って行く。