にじこ
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進捗、創作、読書。
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載せてみて気づいた。冒頭変えよう。
December 25, 2025 at 12:28 PM
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＃創作
いま書いている大学生とフリーターのお話。
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「@itnj0x15」と記載されています。 以下は本文の内容です。 　雨、やっぱり降ってきた。 　吉崎蒼はコインランドリーの待合で、椅子に座ったまま、ふり返る。ガラス越しに、どしゃ降りに近い強雨を眺めた。流しそうめんの強化版、と吉崎は雨の筋を瞳に映しながら、出がけにビニール傘を持っていてよかったと思う。雲ゆきがあやしかったのだ。 　十五時ごろからはじめた洗濯と乾燥の作業は、そろそろ終盤に近い。ラインの着信音が鳴った。 『レポートやばい。手伝って』 　泣いている絵文字つきで、寮で同室の育也からのメッセージだった。大学生の夏休みはせっかく課題がないというのに、二年目の今年も育也は「やばい」と言う。 　なんかおごれ。送信。 　するとすぐ、猫が「ありがとう」と手を合わせるスタンプが届いた。スマホをジャージのポケットに戻そうとすると、ふたたび着信音が鳴る。 『芝の整備終わったって。あした早めに蹴りに行かない？』 　ラインを開く前、ディスプレイに現れた文字列に、吉崎の眉間に力が入る。返信を打たなきゃ、と思うのに、既読はつけずにスマホをポケットに入れた。また心配させる、とわかっていても、吉崎は育也から借りた本に逃げた。 　紙を一枚めくると、紙の声は意外に大きいことを知った。洗濯の暇つぶしに、と育也は吉崎に言ったが、小説をふだん読みつけないせいか、あるいはストーリーが自分好みじゃないからか、目がすべって船を漕ぎそうになる。ここのところ、サッカー部の練習で監督の当たりが厳しいのもあって、快適な温度のなかで吉崎は無力だった。 　ごうんごうん、と機械がぐるぐる回り、魚が円を描きながら泳ぐように、洗濯物が舞っている。こういうのって回遊って言うんだっけ、と吉崎はスマホを開い て検索バーに打ち込む。すると、「回遊ではなくベイトボールです」と出てくる。ほー、と納得し、スマホを閉じた。暇つぶしが暇つぶしにならないほど、この小説に気が向かない。 　吉崎はふたたび、窓の外を眺める。流しそうめんは降り続けており、相変わらずひとは歩いていなかった。このコインランドリーは吉崎にとって穴場だ。大学のサッカー部の寮からほど近いのに、活用する部員は吉崎以外見たことがない。おかげで、こうしてひとりの時間を堪能できるのだけれど。 　自動ドアが、ういーん、と鳴った。ほどけていた体が、急に気をつけの体制に入る。緊張ほどの強張りではないけれど、だらんと伸びていた心が、無意識のうちによそいきになる感覚。 　コインランドリーに入店したのは、すらりと背が高い、二十代後半か三十代前半と思しき男性だった。シルバーフレームの眼鏡が印象的で、とつぜん雨に降られたからか、「あー」と低くうなっていた。荷物も持っていないので、おそらく雨宿り。 　早く出ていかねえかな、と情け容赦ないことを考えつつ、これだけ身長が高ければサッカーに有利なんかな、とも思った。 　吉崎は、閉じた本をふたたび開いた。文字を追うが、やっぱり身が入らない。主人公のカイが、なにかを見つけようと自転車の旅に出るまではいい。タイトルも「邂逅」だし、出会いや巡り合いの話だというのもわかる。だけど、虫やら猫やらに出会われても困る。なにを見つけたいのか、これのおもしろさがわからない自分の頭が硬いのか。 　男性は、帰る気配がなかった。乾燥機は、いまだにぐるぐる回り、洗濯物が泳いでいる。あと十五分。 「あー、俺です」 　はじめて訊く声に、吉崎は顔を上げた。男性が電話していた。彼と視線が合わないように、吉崎は本を立 てて顔を半分隠す。 「お疲れさんです。いまね、雨すげえんですよ、雨宿り中。……ああー、うん、はいはい。は？　タクシー？　乗る金がねえんすよ、ははは。は？　いやまじで。んーっとね、三百円くらい。いやいや、ほんとだって。さっき煙草買ったらなくなっちまった。……はいはい、すんません。急ぎますよ、なるべくねー」 　吉崎はうつむいて本で顔を隠し、笑いをこらえる。だめなおとなすぎる。おれでも三百円以上持ってるよ、煙草買って金なくすな。ふ、とこらえ切れない息がもれ出て、やばい、と吉崎は視線を起こした。すると、男性がこちらを見ている。 　一瞬焦るが、彼は吉崎を不快に思っているようにも、きまり悪さから不機嫌そうに眉間の皺を深くするでもない。ただ吉崎を見て、ときどきぱちぱちと目をしばたかせていた。眼鏡のレンズに、たくさんの水滴が残っている。 　雨が、まだやまない。 　ばたばたばた、と拍手喝采より大きな音が、コインランドリーのなかにまで届いていた。おそらくゲリラ豪雨、しばらく待てば雨はやむ。乾燥機が示すタイマーは、十分。 　吉崎は椅子から立ち上がり、入り口の傘立てに入れていた傘を取りに行く。まったく濡れていないビニール傘を持ち、男性に差し出した。彼は一度視線を下げ、それから吉崎を見た。 「傘、よかったらどうぞ」 　返してくれることも望まないし、これでここからさっさと立ち去ってくれるなら御の字。親切心を装ってでも、こちらとしてはひとりの時間を勤しみたい。 「使ってください。無礼かと思ったんですけど、電話聞いてました。待ち合わせなんですよね？」 「ああ、うん。そうなんだけど」 「じゃあどうぞ。おれはもうすこし、ここにいるので」 「いいの？　使っちゃって」 　どうぞどうぞ、と押しつけると逆にあやしい気がして、わざとよそよそしく、どうぞ、とできるだけ楚々と傘を前に出す。彼の視線は、吉崎の向こうにあった。おそらく、吉崎が腰かけていた椅子のあたり。 「あれって、きみの本？」 　きみ、とたずねた口調が、さっきの電話のだらしなさとは正反対に、きちんとしていた。吉崎は、声を詰まらせる。 「いや、友達の、です」 　吉崎の「友達」の言いかたが、とてもつたなく思えるほど。 「そっか。ありがとね」 「では遠慮なく」と男性は、吉崎の指先からそっと傘を抜いた。取りはずすしぐさが羽毛布団ほど軽くて、思わず彼を見上げる。 「傘はあした返します。同じくらいの時間に、ここで」 　そう言って男性は、吉崎の横をすり抜けていく。けっして急いでもいないし、強い口調でもなければ頑固さも感じなかった。だけど、いらない、と反論できないおかしな説得力みたいなものがあって、言葉を返せない。 　あ、と声を出すのは、彼を引き止める材料にはならなかった。うぃーん、と自動ドアが開く。傘が、ぱっと花が開くみたいに広がる。ビニールが膜を張り、男性の後ろ姿をぼやけさせた。機械の音が静かになり、やがて止まる。 　ベイトボール、と吉崎はつぶやく。洗濯物が、泳ぐのをやめたらしい。
December 25, 2025 at 12:16 PM