べちこ
banner
nitorogenium.bsky.social
べちこ
@nitorogenium.bsky.social
30↑腐。誤字と記憶喪失のプロによる雑多垢。
好きなものを好きな時に好きなだけ推す。
たまに書いたり描く。自我しかありません、気をつけてね!
タル鍾、リオヌヴィ/穹丹/FGO/アナデン他いろいろ
相手左右はガチガチの固定です。
ネタとか https://privatter.net/u/nitorogenium
タル鍾 https://poipiku.com/MyIllustListPcV.jsp?ID=473449
ほぼROM専 https://www.pixiv.net/users/1025759
反対に、唇はうっすらと何かを誘うように開いたまま。ごきゅ、と間近から喉が鳴る音が聞こえて愉快な気持ちになる。
ああ、彼は本当に自分のことを。ああ、ああ!
(嬉しい)
好きだ、公子殿。俺の、愛おしい恋人。
最初はやはり控えめの、そのうち探るように、次第に大胆に暴くような。そんな口付けを陶然と受けながら、鍾離はうっそりと微笑んだ。

みたいな感じでこう、わちゃっとラブコメしてて欲しいです。力尽きました。ご清聴ありがとうございました!!
July 7, 2025 at 3:50 PM
「わー……先生が腕の中にいる……」
「そうだな。俺は今、貴殿の腕の中にいる」
答えた声はいつも通りを装えただろうか。早鐘を打つ心臓のように、震えてはいなかっただろうか。
「……あの、気持ち悪くない?平気そう?」
「気持ち悪くなどない。むしろ心地よい。嬉しい」
「ここちよ…うれし…そ、そっか……」
「ああ。……ふふ」
本当に心地がいい。うっとりまどろんでいると、「ねぇ先生」とやや緊張した声が降ってくる。
「キス、してもいい……?」
キス。口唇と口唇を重ね合わせる行為。そして、それから。
「ああ」
目を閉じる。
July 7, 2025 at 3:49 PM
何だその反応は。
「貴殿は嬉しくないのか?」
流石にムッとして言うと、慌てたように「いや、そういうわけじゃないんだけど!」と否定された。よかった、否定されなかったらどうしてくれようかと思った。
「実感が全然なくて」
「実感」
「うん。……その、試しに抱きしめてもいい?」
「ああ、もちろん」
「即答……」
呆然と呟いたのち、「じゃあその、遠慮なく」と言いながら、そろそろとどこまでも遠慮した動きで腕を回される。最初は怖々と触れられていたため、抱きしめると言うには程遠かった。だがこちらが受け入れの体勢を崩さずにいるとようやく力がこもる。距離がより近づき、体温と匂いが近づく。あたたかい。
July 7, 2025 at 3:42 PM
「……先生、これの意味は」
「もちろん知っている。貴殿もだろう」
「……まぁ……」
「公子殿」
歯切れの悪い返事に、もう一度促すように呼べば、観念したように窓枠から足を下ろし、こちらに向き直った。
そして右手をポケットに突っ込み、ようやく再び手のひらに乗った二つを、今度こそと素早く掴む。
「ふふ」
意図せず口の端が上がる。人を模した心臓が、ことことと音を立てる。人のそれよりも低い体温が、徐々に上がるのがわかる。
「契約成立だ。これから『恋人』としてよろしく頼む」
「えっと、これ夢だったりする?」
「安心しろ、まだ俺も貴殿も起きている」
「ええ……」
July 7, 2025 at 2:49 PM
牛を形どった指先ほどの水晶と、それがちょうど入る大きさの織布の小袋。
「俺にくれると言ったのだから、もう俺のものだ。勝手に持っていかないでくれないか」
ストールを掴んだ手とは逆の手を差し出す。よこせ、の意である。我ながら必死である。だがそうもなるだろう。あんな、あんな「あなたのことを好きで好きでたまらないけれど諦めます」といった顔を見せられれば。なんせこちらも彼のことを好きである、と気付いたので!
だが青年は戸惑ったようにその手を見つめて動かない。なぜ。もどかしい気持ちで「公子殿」と名を呼ぶ。
July 7, 2025 at 2:31 PM
顔を上げて青年の表情を見て、息を呑む。同時に、心の天秤ががたんと音を立てて傾いた。あの二つを受け取る。受け取りたい。受け取らねば。
「ごめん、忘れて。じゃあね、おやすみ」
だが手を伸ばす前に、彼は手のひらのものをぞんざいにスラックスのポケットに突っ込み、身を翻した。そのまま窓枠に足をかけ、帰ろうとしている。その背中が窓枠を越える前にストールを掴んだ。
「ぐえ!ちょっと何!?」
あまりに勢いよく掴んだものだから首が締まってしまったらしい。窓枠に足をかけたまま、苦しげに振り返る彼の目には涙が浮かんでいた。が、それどころではない。
「それは俺にくれるのだろう」
July 7, 2025 at 2:30 PM
いや、深く考える必要などない。彼はそうとは知らないのだから受け取ってしまえばいい。後からその意味を知ったとしても、彼のことだから気にはしないだろう。驚いた後に「知っていたなら教えてくれればよかったのに!先生も人が悪い」だなんて言って、こちらもそれを揶揄いまじりに笑って、ただそれだけ。それだけ、ならば、別に受け取っていいはず。だが、何故だろうか。気が進まない。ものすごく気が進まない。
「……やっぱ駄目かぁ」
ふと、青年から声がする。落胆したような、諦めたような。……何に?何を?
July 7, 2025 at 2:29 PM
青年はいつものようにふらりと現れ、窓から入ってきた。そして床に足をつけるなり「はい、これあげる」と言ってくだんのものを差し出してきたのだ。
彼はおそらく七夕節を知らず、ちょっとしたお土産か何かのつもりでいるのだろう。だが今日この日に、男性から牛を形どるもの、女性から織布の小物を贈ることには意味があった。恋人同士であれば変わらぬ愛を誓うことであり、それに至らぬ者同士であれば求愛──いわゆる「お付き合いしてください」という告白である。
受け取っても、いいのだろうか。これを。彼の手のひらの上に乗る二つを見つめながら考える。
July 7, 2025 at 2:28 PM
時代は下り、かの恋人たちが没した後も伝承は語り継がれ、いつしか供物を捧げる相手は仙人ではなく恋する相手となり。つまるところ、恋人たち、あるいはそれ未満の者たちの催し物となった。それが七月七日、つまり今日だ。
それを鍾離は今の今、目の前の青年が牛を形どった指先ほどの水晶と、それがちょうど入る大きさの織布の小袋を差し出してくるまで、すっかり忘れていた。
「本当は牛の方だけ勧められたんだけど、その袋に入れたらちょうどいいやと思って二つ買っちゃった。よかったら受け取ってくれるかい」
July 7, 2025 at 2:26 PM