とっくの昔に20↑
🦋初心者
東峰くんは鞄を持ち直す。首を傾けて目線を合わせてくれるように、私を僅かばかりに見下ろして優しく笑った。
「さ、帰ろうか。駅の方だっけ?」
「うん。ありがとう。」
この気持ちは何なのか、まだ分からないけど、多分悪いものじゃない。
東峰くんは鞄を持ち直す。首を傾けて目線を合わせてくれるように、私を僅かばかりに見下ろして優しく笑った。
「さ、帰ろうか。駅の方だっけ?」
「うん。ありがとう。」
この気持ちは何なのか、まだ分からないけど、多分悪いものじゃない。
ひとしきり笑った後は東峰くんにどうしたのかと尋ねたらどうやら課題を忘れたから取りに来たのだ、と言っていた。
「思いっきりドアを開けた折れも悪いけどビックリしたな~」
「ふふふ、大きな声あげちゃってごめんね」
「いやぁ、あ、でもこれから1人で帰るんだろ?途中まで送るよ」
「え、でも菅原くんとか澤村くん達と帰るんじゃないの?」
「流石に女の子1人でこんな暗い中帰らせるわけにもいかないでしょ」
"女の子"という単語にドキッとした。そうか、東峰くんからしたらそう言う風に見てくれてるんだ、とそわそわした。
ひとしきり笑った後は東峰くんにどうしたのかと尋ねたらどうやら課題を忘れたから取りに来たのだ、と言っていた。
「思いっきりドアを開けた折れも悪いけどビックリしたな~」
「ふふふ、大きな声あげちゃってごめんね」
「いやぁ、あ、でもこれから1人で帰るんだろ?途中まで送るよ」
「え、でも菅原くんとか澤村くん達と帰るんじゃないの?」
「流石に女の子1人でこんな暗い中帰らせるわけにもいかないでしょ」
"女の子"という単語にドキッとした。そうか、東峰くんからしたらそう言う風に見てくれてるんだ、とそわそわした。
「キャッ!」
「わーーーっ!!!」
私ガチで2センチくらい浮いたかもしれないと思ったほどびっくりした。心臓が口から出てもおかしくはない。でも、私よりも大声でドアにしがみついていた相手も負けずに驚いていた。
「あ、…東峰くん?」
「ビックリしたぁ…」
なんだ、と教室にいたのは私だったのか、と心臓をおさえてその場にしゃがみこんだ彼はハハハ、と力無く笑っていた。私も釣られて一緒に笑った。
「キャッ!」
「わーーーっ!!!」
私ガチで2センチくらい浮いたかもしれないと思ったほどびっくりした。心臓が口から出てもおかしくはない。でも、私よりも大声でドアにしがみついていた相手も負けずに驚いていた。
「あ、…東峰くん?」
「ビックリしたぁ…」
なんだ、と教室にいたのは私だったのか、と心臓をおさえてその場にしゃがみこんだ彼はハハハ、と力無く笑っていた。私も釣られて一緒に笑った。
私はその時の東峰くんの顔を見ていなかった。
その日の放課後、宿題をこなすために教室に残っていた。
家に帰ってもスマホばっかりでやらなさそうだから、せめて学校でやってしまおう、というわけだ。
それでも黄昏時、危なくなる前に帰らなきゃと鞄に荷物をつめる。私だけしかいない、音をたてるのも私だけ。ちょっと怖いな、と考えていたら廊下の向こうから誰かがやってくる音が聞こえた。見回りの先生だろうか?でもそれにしてまだ早いような
私はその時の東峰くんの顔を見ていなかった。
その日の放課後、宿題をこなすために教室に残っていた。
家に帰ってもスマホばっかりでやらなさそうだから、せめて学校でやってしまおう、というわけだ。
それでも黄昏時、危なくなる前に帰らなきゃと鞄に荷物をつめる。私だけしかいない、音をたてるのも私だけ。ちょっと怖いな、と考えていたら廊下の向こうから誰かがやってくる音が聞こえた。見回りの先生だろうか?でもそれにしてまだ早いような
あ、でもへなちょこじゃないにしても、きっと彼は優しいのだとすぐに気づいた。男の子って変に見栄張ってるとこあるからすぐに声を大にして「違う!」と否定しそうなものの、そんなことはなく彼は苦笑してやんわり「違うよ」と話してくれた。
「だって前にバレーの試合、テレビで見た時迫力めっちゃあったもん」
親があほみたいにテンション高くして見せてくれたニュース番組の一部。そこには東峰くんが真剣な眼差しをしてコートにいたシーンだった。
一言、カッコいい。それがよく合う。だから私は「ひげちょこ」がイコールにならなかったのだ。
「東峰くんはかっこいいのにね」
あ、でもへなちょこじゃないにしても、きっと彼は優しいのだとすぐに気づいた。男の子って変に見栄張ってるとこあるからすぐに声を大にして「違う!」と否定しそうなものの、そんなことはなく彼は苦笑してやんわり「違うよ」と話してくれた。
「だって前にバレーの試合、テレビで見た時迫力めっちゃあったもん」
親があほみたいにテンション高くして見せてくれたニュース番組の一部。そこには東峰くんが真剣な眼差しをしてコートにいたシーンだった。
一言、カッコいい。それがよく合う。だから私は「ひげちょこ」がイコールにならなかったのだ。
「東峰くんはかっこいいのにね」
「ブフッ!」
「チョコが好きなの?」
「あ、いや、そういうわけじゃないんだ」
私の予想とは違うらしい、ではどこからきたんだ、と考えていたら東峰くんは首の後ろを書きながら、恥ずかしそうに笑っていた。
「多分へなちょこのちょこ、じゃないかなぁ…」
「東峰くんがへなちょこ…?」
その見た目で?とは口が裂けても言えないけど、本人がそう言ってるのだからそうなのだろう。
わいわいガヤガヤ話し合ってる皆に乗じて私は話を進めた。
「全然へなちょこじゃないんじゃない?」
「ブフッ!」
「チョコが好きなの?」
「あ、いや、そういうわけじゃないんだ」
私の予想とは違うらしい、ではどこからきたんだ、と考えていたら東峰くんは首の後ろを書きながら、恥ずかしそうに笑っていた。
「多分へなちょこのちょこ、じゃないかなぁ…」
「東峰くんがへなちょこ…?」
その見た目で?とは口が裂けても言えないけど、本人がそう言ってるのだからそうなのだろう。
わいわいガヤガヤ話し合ってる皆に乗じて私は話を進めた。
「全然へなちょこじゃないんじゃない?」
「婚姻届よりも前に!ちゃんと言葉も添えないと駄目!」
「え~!だって高校の時に話したじゃん!結婚を前提にってやつー」
「それはそれ!これはこれ!」
書くけどね!!とあまり怒ってないけどちょっと拗ねて机に置かれた婚姻届と光太郎くんを交互に見ながらペン立てに入ってるボールペンをとった。
「そちらのお母さん達にはいつご挨拶しにいくとか考えてる?」
「………………ハイ」
「考えてないね?」
「ハイッ!」
正直でよろしい、と少し震える手を堪えながら緊張した文字で名前と生年月日を記入した。
「婚姻届よりも前に!ちゃんと言葉も添えないと駄目!」
「え~!だって高校の時に話したじゃん!結婚を前提にってやつー」
「それはそれ!これはこれ!」
書くけどね!!とあまり怒ってないけどちょっと拗ねて机に置かれた婚姻届と光太郎くんを交互に見ながらペン立てに入ってるボールペンをとった。
「そちらのお母さん達にはいつご挨拶しにいくとか考えてる?」
「………………ハイ」
「考えてないね?」
「ハイッ!」
正直でよろしい、と少し震える手を堪えながら緊張した文字で名前と生年月日を記入した。
正直言って婚姻届を書くのは全然良い。そろそろだろうな、とは思っていたからさほど驚きもしないが、タイミングがタイミングである。もっとこう、レストランで~とか、ちょっとお高いホテルで~とか、一応私も人並みにプロポーズに憧れはあったのだ。
それをこの木兎光太郎は、こんななんでもない1日の、しかも私部屋着だし、そろそろお昼にラーメンでも作ろうかな、とか考えようとしてたのに、いや、でも彼らしいと言ったら彼らしいのだ。
正直言って婚姻届を書くのは全然良い。そろそろだろうな、とは思っていたからさほど驚きもしないが、タイミングがタイミングである。もっとこう、レストランで~とか、ちょっとお高いホテルで~とか、一応私も人並みにプロポーズに憧れはあったのだ。
それをこの木兎光太郎は、こんななんでもない1日の、しかも私部屋着だし、そろそろお昼にラーメンでも作ろうかな、とか考えようとしてたのに、いや、でも彼らしいと言ったら彼らしいのだ。
確かに彼の希望していた大学は私の学びたい学科があったから良かったものの(あと学力もなんとかなりそうなレベル)もし全然違う学科だったらどうするつもりだったのか、と説明したのだ。そういうのを重ねて重ねて今年、木兎光太郎はチラシを渡すかのような軽やかさで私に婚姻届を差し出したのだ。ご丁寧に彼の名前も書いてあるし、保証人の欄には赤葦くんの名前が記入されていた。
確かに彼の希望していた大学は私の学びたい学科があったから良かったものの(あと学力もなんとかなりそうなレベル)もし全然違う学科だったらどうするつもりだったのか、と説明したのだ。そういうのを重ねて重ねて今年、木兎光太郎はチラシを渡すかのような軽やかさで私に婚姻届を差し出したのだ。ご丁寧に彼の名前も書いてあるし、保証人の欄には赤葦くんの名前が記入されていた。
「なになに~………は?」
「え?」
光太郎くんに渡されたのは紙一枚、と表現するにはちょうど良いのだけどもそれはそれはとても大事な紙だった。この紙をどこで手に入れたのか、とか1人でこの紙を貰いにいったのか、とか色々とツッコミたいことはたくさんあるんだけど取り敢えず一言だけ伝えたかった。
「そういう大事なことはもっとちゃんと伝えようねぇ??」
「えっ!?これも!?」
そう、"これも"なのである。光太郎くんはどこか自分が"そうであろう"と思うことは"私もそうであろう"と思っている節がある。そこの擦り合わせをするのに度々衝突があった。
「なになに~………は?」
「え?」
光太郎くんに渡されたのは紙一枚、と表現するにはちょうど良いのだけどもそれはそれはとても大事な紙だった。この紙をどこで手に入れたのか、とか1人でこの紙を貰いにいったのか、とか色々とツッコミたいことはたくさんあるんだけど取り敢えず一言だけ伝えたかった。
「そういう大事なことはもっとちゃんと伝えようねぇ??」
「えっ!?これも!?」
そう、"これも"なのである。光太郎くんはどこか自分が"そうであろう"と思うことは"私もそうであろう"と思っている節がある。そこの擦り合わせをするのに度々衝突があった。