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読書記録
『クリストファー男娼窟』草間彌生。NYの下町に住んでいた頃、60、70年代に見た裏社会を描いているという。登場するのは、黒人の男娼、彼を買う白人の富豪、斡旋するアジア人女性。解説で古川日出男が書いている通り、これほど「肛門」が出てくる小説を他に読んだことがない。生々しい描写を読んだと思えば、すぐそれが幻覚と色彩の中に溶けていく。暗喩と思ったものが現実と地続きになる。意識の深層をあらわにする特異性。まごうことなき草間彌生の小説。あとがきも矢のように心を貫く。「今迄、瞬間ごとに魂がきらびやかな何ものかに飢えていなくては、私は一行の文章も、一つの彫刻も創れないという宿命の只中に身を置いてきた。」
August 15, 2023 at 1:37 PM
鷺沢萠『海の鳥・空の魚』。「まちがった場所」にいる人たちを描いた20の掌編。「まちがった場所にいること」を示すタイトルが秀逸。確かに生きづらいけれど、そこで生きているたくましさ、しぶとさみたいなものが通底している。鷺沢萠さんの、日常の小さな出来事と心の機微を掬い上げる感受性には驚かされる。戸惑いや喜びが心を過ぎる、ほんの一瞬の描き方。一瞬であるがゆえに、前向きなストーリーでもどこか切なく涙が滲む。読後感は向田邦子作品や幸田文作品のそれに似ている。
August 9, 2023 at 12:36 PM