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せきしょくです。20↑。試運転中。五夏相手左右固定小説書き。
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【五夏】
〜続・転生したら犬だった五が夏の飼い犬になる話〜

＼さしすゆけ＋歌もいるよ！／
ここまでが、およそ十年前の出来事。その後は、結局傑は昔のことを何も憶えていないことが判明したり、俺の社交性がどうとかいう理由で他の犬や人と交流するような退屈な場所に連れられたりと、楽しかったり暇だったりする日々を共に過ごした。 　傑と四六時中ずっと一緒にいられるわけじゃないことを、頭では理解していた。だが、日中一人で留守番というのはどうしたって寂しくて、毎朝服を引っ張ったり靴を隠したりしては叱られたこともある。その気になれば脱走したりもできたと思うが、知能がありすぎる犬というもの色々問題だろうと考えて大人しくしてあげていた。何より、お利口に留守番をしていれば、いの一番に帰宅した傑がいたくほめてくれるのだ。なんだかんだ言って、悪い気はしなかった。 　かつて二人が人間だった頃のように一緒にふざけたり話をしたりはできないが、俺たちは変わりなく親友と呼べる存在になっていった。傑なんかは、『わたしの親友』というタイトルで俺のことを作文に書いたくらいだ。正直に言って、気分はすごく良い。 　何処に行くのも、何をするのも一緒だった。呪術が使えなかろうが傑に前世の記憶がなかろうが、この世界では何ら関係ない。共に飯を食い共に寝て、平和で長閑な日々を過ごすのは案外嫌いじゃなかった。俺の体高と背比べをしていたほど幼かった傑が、どんどんと背丈を伸ばし成長していく様を見るのが喜ばしく思えたりもした。 　そんな時の流れの中で、俺の身体にも変化が出てくるのは至極当然なわけで。 　傑に付いて回るために居間と彼の部屋とを行き 来する、その階段の昇降が少々しんどくなってきていること、かつてなら暇を持て余しいたずらをしていた昼の留守番中も、今では眠たくなる時間の方が増えたこと。目に見えない部分ばかりが老いるおかげでなんとか誤魔化せてはいるが、この先に待ち受けているであろう結末を考えては溜め息を吐く。 「……寄る年波には勝てないって、こういうことを言うんだろうねぇ」 　とある平日の昼下がり。この時間になると、庭に面した窓際にはぽかぽかとした陽気が差し込み、絶好の微睡みポイントとなる。眠気に抗うことなく大きく欠伸をすれば、目の前の縁側に横たわって寛ぐ一匹の猫が爺臭いな、と笑った。 　この猫の名は硝子。前世では同じ教室で机を並べた同期である。 　彼女と出会ったのは、俺がこの家に来て間もない頃。硝子自身も、物心ついた時から過去の記憶があり、俺より先に見つけ出していた傑の様子をパトロールがてら見守っていた所に俺がやってきたというわけだ。積もる話、というほど大それたことでもないが、お互いに昔を知る仲としてこうして人の目が疎なタイミングを見計らってお喋りをすることが多い。 「七海は？また灰原んとこ？」 「みたいだよ。集会所でも見かけなかったし」 　七海という雄猫もまた、昔を知る仲間だ。前世では、俺と硝子の一つ後輩だった。そんな彼の同期だったのが、たった今話に出てきた灰原。こっちは今生でも変わらず人間であり、やはり傑と同じように前世の記憶は持ち合わせていないらしい。 現在は近くの高校に通う、ごく普通の学生であるとは七海から聞かされた情報だ。 「そんだけ気になるならいっそ飼い猫になればいいのに。なんで野良やってんのかね？」 「家族にアレルギー体質の奴がいるんだ。うちの隣の病院に通ってる患者だから、確かだよ」 　前世では医者だった硝子も、今や勝手気ままに自由を謳歌する半野良状態の猫である。気紛れにこの街へとやってきて、具合の悪そうな人を病院まで案内してやった直後に出会ったかつての先輩──庵歌姫に拾われ共に暮らしている。世界はいつだって、広いように思えて案外小さなものだと思った。
May 4, 2024 at 2:39 AM
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【五夏】
〜転生したら犬だった五が夏の飼い犬になる話〜
俺の朝は早い──。 　いつもと同じ時間、同じ場所。両の目を開けていつも通りの室内を確認した後、丸めていた身体を解き、くありと欠伸をする。早朝の澄んだ空気を吸い込んで、肺が感じたその冷たさに耐えることなく身震いした。
　のそりと全身を起こし、しなやかにベッドから降りる。少し伸びた爪とフローリングがぶつかり、カチャカチャと軽快な音を立てた。がしかし、ついさっきまで共に眠っていた男──この部屋の主人は、そんな小さな音では起きやしない。十年以上前に出会った時、否、それよりももっと前から、こいつの寝起きの悪さには定評があった。 なめらかな頬に濡れた鼻先は触れる。何度か軽く突いて起床を促すが、擽ったさに耐えかねた男はさらに深く布団を被る結果となった。こうなれば、最終手段しかない。俺はわざとらしい溜め息を一つ吐くと、温かい掛け布団の端を咥えて一気に引っ張ってみせた。背を丸めた男が低く唸って抵抗するのも構わず、咥えたそれをベッドの下へと引きずり落とす。朝にめっぽう弱いこの男が病気以外での無遅刻無欠席記録を更新し続けているのは、俺が毎朝こうして布団を引っぺがしているからである。そしてそんな真相を、みんなはまだ知らないだけなのだ。 さぁ、今日もまた新しい一日が始まる。こいつの身支度を見守った後は家の外のパトロールを済ませ、帰宅すれば昨日と変わらない味のする食事が待っているのだ。もう十年以上繰り返されてきた日々だが、飽きもせず過ごすことができている のは今まさに俺の頭を撫で回している暖かな掌のせいと言えるだろう。 「おはよう、悟」 　そう、俺の名は悟。夏油家で暮らす飼い犬である。 　俺の名は悟──。此処夏油家で暮らす、しがない飼い犬である。でかい図体にもっふもふの白く長い毛並みを持つ俺は、はっきり言って三歩歩けば声を掛けられるほどに可愛い。換毛期に毛が少々抜けること以外に大変なことはないし、人の言葉もよく理解して素直に従う。何故わかるのかって？それは勿論、俺がかつては人間だったからである。 　この体になって憶えている一番古い記憶といえば、静かな山の中でふと目を覚ました時のこと。澄んだ水溜りに写った自分の顔が毛むくじゃらだったことには正直ビビったが、慣れてしまえばどうということはなかった。 　四つの脚で野山を全力疾走するのは楽しかったし、自分の体格とそう変わらないほどの獲物を仕留めた時はワクワクした。そうやって自由気ままな野良犬ライフを一、二年ほど堪能した後、俺は見知らぬ人間に保護され、見知らぬ施設でしばらく過ごした。雨風を凌げる部屋に、狩りをしなくても与えられる食事、毎日同じコースを歩くだけの散歩と、必要最低限の生活をしているような感覚だった。見た目や聞き分けの良さのおかげか、 俺を可愛がる連中は多かったように思う。だが、俺の心が満たされることはなかった。 　俺の親友、唯一無二の片割れ。そう言えるほどに大切だった男の名は、夏油傑。 　せっかくまたこうして生きているのなら、あいつに会いたい。そんな風に思えてならなかった。何処で何をしているのか、そもそも生きているのか。今生での俺は犬だが、向こうはどうか。何の手がかりもない人物を探すには情報が少なすぎるし、探し出そうにも身動きが取れない。やきもきとした時間だけがただ過ぎていった。 　しかし、事実は小説よりも奇なりとはよく言ったもので、転機が訪れたのは俺が保護されてから半年くらいが経った頃。 その日はいつもと違い、ケージの中で揺られながら何処かへと連れて行かれた。着いた先で、譲渡会か何かの催しであるということに気付いた俺は、思うがままに溜め息を吐いた。明るい照明、賑やかな話し声、騒々しい人の往来──。こんなことなら、殺風景なあの部屋で昼寝でもしている方がましだと思えた。たった一言、その声を耳にするまでは。   「……さとる……？」   　紛れもなく、俺のよく知る男の声だと思った。否、それにしては少し甲高い。まるで、まだ声変わりもしていないような幼い声だった。 　それでも、俺が待ち焦がれた人物だと確信したのは、直感と言う他なかった。人であった頃なら、同じ魂を持つ人間を容易く見つけられたことだろう。だが今の俺はただの犬で、かつてのような能 力を持ち合わせているはずもない。だから、目の前で俺を見つめる少年が親友の生まれ変わりかどうかは、ほぼ賭けだった。そうだったらいいな、という願望にも近かった。記憶の中では随分と細かった目の形は年相応に丸く、生まれてから十年にも満たないような印象を与えた。しかし、その琥珀色の瞳をきゅっと細め、頬を赤く染めながら笑う様は、やっぱり一番会いたかった親友そのものだった。 さとる！さとるだ！と興奮した様子で駆け寄る少年の黒髪がさらりと揺れる。今生で再会できただけでも喜ばしいのに、向こうも俺を憶えてくれていたこと、しかも人間じゃないのに気付いてもらえたことが嬉しくてしかたなかった。早く駆け寄りたくて一生懸命吠えたが、反ってそれが危険だと判断されたらしいことはさておき、俺は無事に傑の家族として迎え入れられたというわけである。 (続)
April 29, 2024 at 3:26 PM