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二度寝、する?
弘子先輩に『私に会いにおいで』なんて言われて、好きにならないほうが無理だ。「先輩、今までああやって女の子をたらし込んできたんですね」「たらし込んでません」「それなら天然たらしですね」「ちょっと!言い方!」一緒にいる時間が長くなればなるほど、先輩は優しくて包容力があって、すごく魅力的な人だということを知る。「彩香?どうした?」「……先輩のせいですよ」となりに座っている先輩の左手に、自分の右手を重ねた。「……こんなに好きになっちゃった」先輩が、ただ重なっていただけだった手、その指を絡める。「彩香のこと、“好き”じゃ足りないね」先輩の顔が、ゆっくりと近づく。爽やかな香水の匂いに、私の心が凪いでいく。
August 6, 2024 at 8:24 AM
弘子先輩が花火大会に誘ってくれた。友達が少ないから、家族以外と行く初めての花火大会。花火も屋台も、先輩と一緒なら全部が楽しみで。「彩香、それ…」「あの、花火大会に行くならって思ったんですけど……やっぱり浴衣なんて似合わないですよね。先輩、はずかしいですよね…」「そうじゃなくて」先輩に右腕を引かれて、あまり人がいないところへと連れて行かれる。「……誰にも見せたくない」「え?」「かわいすぎるから」やわらかく大事に抱きしめられて、先輩の香りが鼻を、吐息が耳をくすぐる。「彩香が思ってるよりも、すきなんだよ。知ってた?」余裕のない先輩の声。花火が咲く音を聴きながら「私もですよ」と先輩の背中に腕を回した。
August 3, 2024 at 2:35 PM
「彩香!その指どうした!?」「あ、先輩!おはようございます!」「おはよう…じゃなくて、その指!」彩香の左手の人差し指に包帯が巻かれている。ほっそりとしていて、華奢で、こんなにきれいな指なのに。「昨日、からあげ作ってて、そのときにちょっとだけ。でも、だいじょうぶですよ!元気です!」「もしかして、私のために?」俯いた彩香が、はずかしそうにもじもじしている。その姿を見て、また今日も彩香に恋をした。「おふろ、からだ洗ってあげるね」「え!いいです!それはほんとにいいです!」すぐ赤くなる彩香に、ついいじわるを言いたくなってしまう。でも、そろそろいっしょにおふろに入りたいなと思っているのは、ここだけの秘密。
August 1, 2024 at 2:34 PM
雨の日は、憂鬱だ。「先輩、元気ないですね」「うん、ちょっとね。偏頭痛がね」初めて自分からすきになった人と出会った日を思い出してしまう、どうしても。「うそつき」「うそじゃないよ」「先輩のことならわかります。なんでも」私のすきな飴を掌に乗せてくれる。彩香が私に一目惚れしたというあのときと立場が逆になっていて、なんだかはずかしい。「忘れるって、むずかしいですよね」腕を引かれて空いている会議室に連れられ、彩香はまっすぐな瞳で私を見る。「でも、私が先輩に雨の日をすきって言わせてみせます。いつか、必ず」彩香からのキスは、いつも少しだけ唇が震えている。ただ重ねるだけのそれだったけれど、なによりも愛しかった。
July 31, 2024 at 4:09 PM
連日の暑さで、冬雨は毎日ぶつくさ言っている。「暑いの苦手…」「寒いのも苦手でしょ」「はやく秋にならないかな…」エアコンも扇風機もつけて、部屋の温度はだいぶ下がっている。「エアコン、ちょっと上げていい?」「だめ」「まだ暑いの?」「ちょうどいい」羽織るものを持ってこようと部屋から出ようとすると、冬雨が私の腕を掴んだ。「樹、寒いの?」「だいぶ冷えてるよ、この部屋」「そうかな。じゃあさ…」小さい子が内緒話をするように、冬雨は私の耳元に手をあてて囁いた。「あっためてあげよっか」吐息を感じた耳から頬までじわじわと赤くなっていく私を見て、微笑む冬雨。いじわるに踊らされるこの瞬間が、実は結構すきだったりする。
July 30, 2024 at 3:04 PM
30分程前に『飲み会で彩香が酔って寝てしまった』と理佐から連絡があった。「こりゃ熟睡モードだわ…。理佐、連絡ありがとう」「いえ。静かに寝てただけなので。でも、さすがにもうみんな帰らなくちゃいけなくて」「そうだよね。迷惑かけてごめん」声をかけて肩を叩くも、彩香はくうくう寝息をたてて、ぐっすり。彩香の右腕を自分の肩に回して、お店の前に停めてあったタクシーに向かった。「あの…。先輩、本気なんですか」「本気って?」「彩香の、こと」理佐が真剣な目でこちらを見ている。この子の彩香に対する気持ちが直感でわかった。「もう、私の彩香だよ」大人げない独占欲。でも、彩香に対する自分の想いに、もう蓋をしたくなかった。
July 30, 2024 at 8:35 AM
付き合って数ヶ月、先輩のすきなこととか、あまり得意じゃないこととか、少しずつ分かり始めてきた。「あ。やっぱり」「え、なに?」「今、見てましたよね。先輩のタイプの人でしたよね」「えっ、み、見てないし。そんなことないよ」「あります」すごく綺麗な人だった。どうしたら、ああいう人になれるんだろう。「……先輩」「は、はい」「ただの、やきもちです」「はい」「……でも、今、先輩にすきって言ってほしいです、すごく」それを聞いてがらりと表情を変えた先輩が、私の耳元で、低い声色で囁いた。「今、彩香のこと抱きしめたい、すごく」はずかしくて俯いた私の頭をぽんぽんとして笑う先輩は、悔しいくらい、私よりずっと大人だった。
July 29, 2024 at 2:48 PM
ソファーでのんびりしているとき、ふと思い出したように彩香が言った。「先輩、今度理佐と海に行くことになりました」「そうなんだ」「私、初めて海に行くんですけど、水着…」「水着!?」「え、だって海だから…」「それはだめだ。許可できない」彩香の水着姿なんて、まだ私も見たことがない。見せたくない。水着姿で笑顔を浮かべる彩香なんて。「この世はね、危険がいっぱいなんだよ、彩香」「なんの話ですか?」「だから…」彩香の後頭部に右手を伸ばしてこちらに引き、距離を縮める。「迷子にならないように、こっちだけ見てて」無防備な、どこまでも自覚のない可愛さ。誰にもあげないから、いつもこのくらいの、すぐにキスができる距離で。
July 28, 2024 at 3:08 PM
週明け、先輩に買ってもらった服を着て仕事に行った。「先輩、おはようございます!」「彩香、おはよう。うん、やっぱり似合ってる」「ありがとうございます!大切にします」「私もうれしい。じゃあ、また」端正な横顔で微笑み、先輩がオフィスに入ろうとする。あの日はすごく楽しかった。だけど…。「……待ってください!」背中を追いかけて、先輩のスーツの裾を掴む。「……姪っ子は、いやです」「え?」「ちゃんと見てくれないと、いやです」驚いた表情の先輩が、私から視線を逸らす。「……かわいいって、思ってる」「え…?」裾が私の手からするりと抜けて、背中が離れていく。先輩のつぶやいた言葉が、残り香のように私を包み込んでいた。
July 28, 2024 at 10:54 AM
「先輩は“エース”だから上手なんですか?」彩香が急にそんなことを言い出すから、思わずビールを吹き出してしまった。「彩香、酔ってる?」「酔ってません」「……誘ってる?」「どういう意味ですか?」彩香と付き合い始めてから、まだそういうことはしていない。もしかして、そろそろ彩香も…。「先輩?」「……彩香、シャワー浴びておいで」「え?シャワーですか?」「私はそのままでも構わないけど?」彩香が、わけがわからないという表情で首を傾げている。「えーっと……上手、とは…?」「いま、私が先輩にしてほしいこと、です」ゆっくりときれいな瞳を閉じる彩香。自分の早とちりに苦笑いをしながら、そのぷるぷるな唇に、唇を寄せた。
July 27, 2024 at 12:31 PM
街中でデートをしていると、すべての男性が彩香のことをいやらしい目で見ているように感じてしまう。「彩香、もう帰ろう」「え、でもこれから先輩の行きたかったカフェに…」「いいから」彩香の細い手首を強めに引く。痛くしちゃったかな、と少し反省した。「先輩、どうしたんですか?」「……私のだから」「何がですか?」君が、と言いかけて、自分の余裕のなさを知る。「先輩」「なに?」「あの、おうちに帰ったら…」「うん」「……帰ったら、キスしてくれますか?」ああもうそういうところだよ!と心の中で叫んで、キスだけじゃ終われない自信が頭の中でぐるぐる。私の左手を捕まえた彩香の照れくさそうな笑顔を、早くひとりじめしたかった。
July 27, 2024 at 4:35 AM
付き合って1ヶ月。下心ありありの経験しかなかったという弘子先輩のはずなのに。「先輩、お聞きしたいことがあります」「なに?改まって」「私って…」「うん」「私って、魅力ないですか?」先輩と見つめ合うと、なんだか涙が出そうになった。……そっか、私、不安なんだ。「えっ、泣いてる?」「泣いてません」「ごめん…」「謝らないでください。原因は私ですから」「彩香のせいじゃないよ。その、ね、だからさ…」「なんですか」「……緊張しちゃって。たぶん、好きすぎて」左を向いて、照れくさそうな表情の先輩。背伸びをして、その右頬にキスをして「“たぶん”は余計です」と言うと、「そうだね」と笑った先輩に、もっと触れたくなった。
July 24, 2024 at 1:22 PM
数日前から、毎朝彩香がコーヒーを淹れてくれるようになった。「先輩!おはようございます。コーヒーどうぞ」「彩香、おはよう。いつもありがとう」彩香は、私がコーヒーを一口飲むまでデスクの前から離れない。おいしいって、その言葉を待っているんだろうなと思うと、可愛くて。「あ、今日はいつもと少し味が違うね」「はい!変えてみたんです。お好きですか?」「うん。好きだよ」「じゃあ、私のことも、お好きですか?」想定外の質問に思わずコーヒーを吹き出す。隠せない動揺、その上、気づけば彩香にハンカチで口元を拭き拭きされている。『好きだよ』って言ったら、言えたら。いつもまっすぐでいられる彩香が、今日もきらきらして見えた。
July 23, 2024 at 1:30 PM
いつも笑顔で楽しそうに仕事をする弘子先輩に、どんどん魅かれていく毎日。「彩香、ちょっとお願いがあるんだけど…」「なんですか?」「あの、さ、言いづらいんだけど…」視線を左下に置いて、右手の人差し指で頬をぽりぽりとしている先輩。こんな先輩を見るのは初めてだ。「……お弁当、また作ってほしいなって」「え!いいんですか!?」「からあげおいしかったから、また食べたいなって」「作ります!明日作ってきます!」「うれしい。ありがとう」先輩が頬を少し赤く染めて微笑む。「なんだか…。なんだか、今日の先輩はかわいいです」いつものかっこいい先輩も今日のかわいい先輩もやっぱり大好きで、明日の先輩も、きっともっと大好きで。
July 23, 2024 at 9:29 AM
彩香に振り回される日々、戸惑いながらも、実は彩香のことをもっと知りたいと思い始めている自分がいることに、つい最近気づいた。「彩香はさ、追うのと追われるの、どっちがすき?」「わかりません。人生で、先輩を追った経験しかないので」「あの、だからその“先輩”って…」「弘子先輩はどうなんですか?どっちがすきですか?」「ん〜、そうだなぁ…」「それなら、これからも追いかけていいですか?」「私、まだどちらとも言ってないんだけど…」きらきらした瞳で私を本気にさせようとする彩香は、どんどん可愛くなっていく。「さ、仕事戻ろ」「…はい」いつもどこか物足りなさそうな表情をする理由を聞きたいけれど、聞けない。今は、まだ。
July 22, 2024 at 12:02 PM
出勤したときの先輩の『おはよう』が聞きたくて、毎日早起きをするようになった。定時に出勤して定時に帰っていた以前の自分には考えられないことだ。「彩香、おはよう」「おはようございます!先輩!」「今日も元気だね」「今日も大好きな先輩に会えたので…」先輩の左腕にそっと触れて、そのままするりと手を滑らせ、左手を重ねた。「先輩、どこ見てるんですか?もしかして照れ…」「いや〜、今日も暑いね!うん!暑い!」こういうことをすると、先輩の頬が少しだけ赤くなることに気づいたのは、つい最近のことだ。「先輩、今日もがんばりましょうね!」重ねた左手をきゅっと握る。いつか、この手を先輩からつないでくれる日が訪れますように。
July 22, 2024 at 9:03 AM
時々さみしそうに微笑む樹が、最近気になっていた。「樹、聞いてる?」「え?あ、ごめん…」「最近、変だよ」「そんなことないよ。バイトの時間だから、そろそろ行くね」「待って」そのぎこちない笑顔の理由を聞きたくて、咄嗟に樹の左腕を掴んだ。「ごめん、時間が…」「私のせい?」「え…?」「私、樹とこういうことしたいって思ってる」左腕を掴んでいた右手を離して、そのまま樹の左手に指を絡ませた。「付き合うって選択肢は、ないの?」初めて見た樹の涙は、不謹慎だけれど、とても綺麗で。「……冬雨にもっと触れたいって思ってた」ゆっくりと近づいて、樹の背中に腕を回す。少し震えている身体、心臓の音。あの笑顔には、もうさせない。
July 21, 2024 at 7:53 AM
「どこ行くの?」お風呂から上がると、冬雨がiPhoneとお財布を持って玄関に立っていた。「コンビニ。お金下ろしたくて」ちょっと行ってくるね、と言ってくるりと背を向けた冬雨の左腕を掴んだ。「痛っ…」「だめ。離さない」「すぐ帰ってくるから」「うそだ」この手を離したら、きっと冬雨も、きっとこのまま。「ちょっ、や、だっ…!」掴んだ左腕を強く引いて寝室まで連れて行き、強引に押し倒す。「こんな、いきなり、やだっ…」「じゃあ、キスすればいい?」本気でいやだと言えない冬雨の瞳が、泣いていた。「……いなくならないで」蓋をしたはずの記憶、両親の背中が浮かぶ。何も言わずに頭を撫でる冬雨の右手の優しさが、救いだった。
July 20, 2024 at 3:24 PM
久しぶりのデートに数日前から浮かれていた。それは冬雨も同じだったようで『もうすぐだね』『ついに明日だね』と何度も確認し合っていた。「冬雨」「樹、はやく行こうよ。靴履いて?」「今日はおうちデートにしよっか」「どうして?」いつもいちばん近くで見ている、触れている冬雨の表情や仕種。気づかないわけがない。「いつもの偏頭痛してるでしょ?」綺麗にメイクされた冬雨の左頬に手を当てると、一瞬だけ驚いた表情をした冬雨が、頬に添えられた私の右手に自分の左手を重ねた。「わかるよ。冬雨のことなら」靴を脱いだ冬雨をソファーに座らせ、おでこに口づけをひとつ。「……そこじゃやだ」なんて甘え上手な冬雨が、可愛くて、可愛くて。
July 20, 2024 at 11:08 AM
「冬雨、かぼちゃプリン食べる?」透明な瓶の中の、綺麗なオレンジ。「おいしい?」「うん。おいしい」「よかった。このお店のかぼちゃプリン、前に食べたことあって、おいしくて。今日たまたま通りかかったから」私を思い浮かべて買ってきてくれたことを素直に喜べばいいだけなのに、つい、こう思ってしまう。「……だれと?」「え?なに?」「……ううん、なんでもない」気になる、と言いたげな樹の口元についたプリンを小指で拭って、樹のことも自分の気持ちもごまかした。「冬雨って甘いものすきだよねぇ」「太るって言ってる?」ご機嫌を損ねたと思ったのか、困り眉で首を振る樹。こんなにしあわせなのに、全部がほしいなんて、言えなくて。
July 19, 2024 at 3:25 PM
今日はサークルの飲み会。飲み会は楽しいけれど、最近はいつも少し心配になる。今、隣に座る彼女のことが。「冬雨、だいじょうぶ?」「だいじょば、ない…」「ほら、お水飲もう?」透明なグラスに入ったお水を彼女に手渡す。私の左肩に寄りかかっている彼女の髪から、お気に入りだと話していたシャンプーの香りがする。「……いつき」「なあに?」私をじっと見つめる、とろんとした瞳。「……なの」「え?」「……き」「え、なに?」「……すき」すぐに視線が逸らされ、聞き返す間もなく「うそ」という投げやりなつぶやき。断りなく私の膝に頭を乗せて目を瞑った彼女の髪を左手でとかす。この手の震えに気づかれませんようにと、切に願いながら。
July 18, 2024 at 1:02 PM
「冬雨、夜ごはんなにがいい?」「いつもの」「あのね、おしゃれなバーじゃないんだから」「樹ならわかるでしょ?」目を細めて笑う彼女は、まさにいたずら好きな猫だ。「冬雨も作れるようになったんだよね?だったらたまには…」「やだ」「なんでよ」じゃがいもの皮を剥いている私に後ろから抱きついて、腕の力を強くして「ねぇ、おねがい」なんて言うから、あのときの冬雨を思い出さずにはいられなくて…。「樹、どうしたの?」「……なんでもないです」「顔赤い。熱あるの?」「冬雨のせいでね」私なにもしてないのに、と不思議そうな彼女の声に、もうごはんよりも先にいっそのことここで…とつい求めそうになってしまったのは、ここだけの話。
July 18, 2024 at 9:29 AM
よく晴れた空の下ではしゃぐ冬雨は、名前に似つかない太陽みたいだ。「樹!早く早く!」「はいはい」「返事は一回っていつも樹が言ってる」「はいはい」気になっていた新エリアを前にして、冬雨が立ち止まった。「冬雨?行かないの?」「…迷子になっちゃうかも」「ならないでください」「…そうじゃなくて」冬雨が何を言いたいのかわからなくて首を傾げると、頬をほんのりと染めた冬雨の右手が私の前に差し出された。「だから、ちゃんとつないでて」「…はい」「まったくにぶちんなんだから」私の左手をぐいっと引っ張って、こちらを振り返る冬雨。「そういうとこも、すきだけどね」くしゃっと微笑む冬雨とつないだ手、今日は私から指を絡めた。
July 3, 2024 at 6:35 AM
名前を呼んでいるのに、返事がない。最近、樹はどこか上の空だ。「樹?ねぇ、大丈夫?」「…え?え、なに?」「なにって…。体調よくないの?」左下へと逸らされる視線。それは、私に言えないことがあるときの、樹の癖。「冬雨、あの…ね」「なに?」「……無理」「無理?なにが無理なの?」「え、っと…」隣に座っている樹が、私のシャツの袖をきゅっと引く。「……キス、してもいいですか」視線は左下のまま、朱く染まっていく樹の頬。「やだ」「……そうだよね。ごめん」「そうじゃなくて」樹の後頭部に添えた手に少し力を入れて、誘う。「ずっとしたかったから。私から」唇が離れても、ずっと目を閉じたままの樹が、かわいくて、愛おしくて。
June 29, 2024 at 1:28 PM
「樹ってさぁ…」ソファーで雑誌を広げる樹に、足元で体育座りをしながら尋ねる冬雨。「なあに?」「高校のとき、モテたでしょ」「はい?」「きれいだし、頭もいいし、陸上もできるし」そんなにかわいいんだから、冬雨だって…と言葉にしかけて、やめた。「未来の冬雨は絶対に私がしあわせにするし、そう思ったら欲張って過去の冬雨もほしくなっちゃうけど」不安そうに首を傾げる冬雨の頭をそっと撫でた。「いちばん大事にしたいのは、今の冬雨なの」いつだったか、冬雨が『樹に頭を撫でられるとすごくやさしい気持ちになる』と言っていたことをふいに思い出す。「今日は私からしたいの」という冬雨の少し強引なキスも、記憶の大切な引き出しに。
May 27, 2024 at 1:33 PM