文章の書き方を忘れてしまった気がするので、リハビリに。
すべて創作もしくは感想文です。
https://robasuke1014.wixsite.com/website/post/2024advent
決定的なネタバレではないけど…いややっぱりネタバレ!を含みます。見た方のみお読みになってください。
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前に来た時はこの窓の視界はこんな開けた感じじゃなかった。それは確かだ。けど、じゃあ前に何があった?考えてみても思い出せない。
「ここは青い壁のアパートだったんだよ。覚えてないの?」
数日前近所を散歩してた時に見慣れない空地の前を通りかかった時、彼はびっくりした顔でそう言った。
消えたものなんかすぐに忘れてしまうのが俺。
大事に記憶のどこかに残しておくのが彼だ。
でも俺はたぶん、彼のその呆れ顔は忘れないと思う。
前に来た時はこの窓の視界はこんな開けた感じじゃなかった。それは確かだ。けど、じゃあ前に何があった?考えてみても思い出せない。
「ここは青い壁のアパートだったんだよ。覚えてないの?」
数日前近所を散歩してた時に見慣れない空地の前を通りかかった時、彼はびっくりした顔でそう言った。
消えたものなんかすぐに忘れてしまうのが俺。
大事に記憶のどこかに残しておくのが彼だ。
でも俺はたぶん、彼のその呆れ顔は忘れないと思う。
12月毎日何かしら、ができるといいな。昨日できなかったので今日は二つ。
12月毎日何かしら、ができるといいな。昨日できなかったので今日は二つ。
登校前の小学生が、彼女の体に比べると大きく見える鮮やかなピンクのランドセルを背負って跳び跳ねていた。
そして気づいた。冬枯れた色のない公園、と見えていたけど、コンクリートタイルで覆われた地面の中で、うっすら色がついた部分だけを選んで踏んでるんだ、と。
そう思った瞬間、軽い足音を立てて別の子供が駆け寄ってきた。
短いあいさつとともに、軽やかなもう一つのステップが加わる。その子のランドセルは水色。
よくある古びたコンクリートタイルの色も、急に鮮やかさをました気がした。
登校前の小学生が、彼女の体に比べると大きく見える鮮やかなピンクのランドセルを背負って跳び跳ねていた。
そして気づいた。冬枯れた色のない公園、と見えていたけど、コンクリートタイルで覆われた地面の中で、うっすら色がついた部分だけを選んで踏んでるんだ、と。
そう思った瞬間、軽い足音を立てて別の子供が駆け寄ってきた。
短いあいさつとともに、軽やかなもう一つのステップが加わる。その子のランドセルは水色。
よくある古びたコンクリートタイルの色も、急に鮮やかさをました気がした。
そう送ったのは、一緒に見れたらよかったのにな、とつい思ってしまったからだった。
彼は忙しい時間帯だから、きっと後で、すっかり高くあがってからそれを見ることになるだろうと思いながら。
でも驚いたことに、すぐに既読がついて、しばらくして返事が来た。
『ほんとだね』
そして交錯する電線の向こうに月が写った写真が添付されていた。
「え。仕事中なのにごめん!」
そう返したけど、それに対する返事は2時間後に、電話でだった。
そう送ったのは、一緒に見れたらよかったのにな、とつい思ってしまったからだった。
彼は忙しい時間帯だから、きっと後で、すっかり高くあがってからそれを見ることになるだろうと思いながら。
でも驚いたことに、すぐに既読がついて、しばらくして返事が来た。
『ほんとだね』
そして交錯する電線の向こうに月が写った写真が添付されていた。
「え。仕事中なのにごめん!」
そう返したけど、それに対する返事は2時間後に、電話でだった。
「買ってきたの?」
「評判のパン屋というのの前を通りかかったから。すごい込んでたし高いしびっくりだよ」
「でも買ったんだ?」
「え、だってうまいカレーパン食いたいじゃん」
そう言って彼がお皿の上に並べた「カレーパン」は僕のイメージとちょっと違った。
「どっちも美味しそう」
「じゃあ半分に切るか」
「え、いいよ君が選べば?」
「いや、俺も両方食いたいし」
いそいそと包丁を取り出した彼は手早く、買ってきたパンを全部半分に切ってしまった。
「全部?」
「全部味見したいだろ?」
「買ってきたの?」
「評判のパン屋というのの前を通りかかったから。すごい込んでたし高いしびっくりだよ」
「でも買ったんだ?」
「え、だってうまいカレーパン食いたいじゃん」
そう言って彼がお皿の上に並べた「カレーパン」は僕のイメージとちょっと違った。
「どっちも美味しそう」
「じゃあ半分に切るか」
「え、いいよ君が選べば?」
「いや、俺も両方食いたいし」
いそいそと包丁を取り出した彼は手早く、買ってきたパンを全部半分に切ってしまった。
「全部?」
「全部味見したいだろ?」
料理を出すタイミングを計り、グラスの水が減っていれば注ぎ足し、メニューを見ている客がいればさりげなく「おすすめ」を囁く。
一人で来ている常連客と世間話をしているようだったのに、まるで背中に目がついているみたいに、奥のほうのテーブルが帰るそぶりを見せるとさっと伝票を持って行く。
気が利くという言葉とか、マルチタスクというやつがこの上なく苦手な僕には無縁な機能でいっぱいって感じ。
料理ももちろん美味しいけど、どちらかというと僕は彼の仕事ぶりを眺めに通っているのだ。
料理を出すタイミングを計り、グラスの水が減っていれば注ぎ足し、メニューを見ている客がいればさりげなく「おすすめ」を囁く。
一人で来ている常連客と世間話をしているようだったのに、まるで背中に目がついているみたいに、奥のほうのテーブルが帰るそぶりを見せるとさっと伝票を持って行く。
気が利くという言葉とか、マルチタスクというやつがこの上なく苦手な僕には無縁な機能でいっぱいって感じ。
料理ももちろん美味しいけど、どちらかというと僕は彼の仕事ぶりを眺めに通っているのだ。
「そう。最終取れたから」
そんな会話になったのは俺が帰ってきた翌日だった。実家まで一時間半位だし、ちょいちょい帰ってる俺と違って彼の場合は新幹線も含め数時間掛かるし、正月くらいしか帰省してない様子だったのに。
「丸2日いたし十分だよ。義務は果たした」
「義務」という言葉がなんだか硬く聞こえて、俺はそれ以上なにか返すべきなのかどうか悩むはめになった。
「......じゃあ、忙しかったね」
「帰ってきてからのんびりした」
「一人を満喫?」
この「同棲」はなかば押しかけだから、つい気になってそう聞いたら彼は笑った。
「寂しかったって言わせたいくせに」
「そう。最終取れたから」
そんな会話になったのは俺が帰ってきた翌日だった。実家まで一時間半位だし、ちょいちょい帰ってる俺と違って彼の場合は新幹線も含め数時間掛かるし、正月くらいしか帰省してない様子だったのに。
「丸2日いたし十分だよ。義務は果たした」
「義務」という言葉がなんだか硬く聞こえて、俺はそれ以上なにか返すべきなのかどうか悩むはめになった。
「......じゃあ、忙しかったね」
「帰ってきてからのんびりした」
「一人を満喫?」
この「同棲」はなかば押しかけだから、つい気になってそう聞いたら彼は笑った。
「寂しかったって言わせたいくせに」
引っ越してからほぼ毎日言われていたことではあるけど、数日実家で過ごしたあとで改めてそう言われると、なんかちょっと特別な感じがするな、と俺は思った。
「ただいま~」
甘えたふりでそう言って抱きついてみたら、彼は笑って背中を撫でてくれた。
「どうしたの」
「顔見たら改めて足りなかったな、って」
首筋に顔を埋めて深呼吸した。
我が家と思える場所はここだなって感じがする。家の匂いってものがあるなって数日留守するとわかるけど。それ以上に彼の存在が。
「吸ってる?」
「それはこれから」
そう言ってキスしたらふわっと笑ったのがわかった。物理かよ、って思われてるな、ってわかったけど。そうだよ。
引っ越してからほぼ毎日言われていたことではあるけど、数日実家で過ごしたあとで改めてそう言われると、なんかちょっと特別な感じがするな、と俺は思った。
「ただいま~」
甘えたふりでそう言って抱きついてみたら、彼は笑って背中を撫でてくれた。
「どうしたの」
「顔見たら改めて足りなかったな、って」
首筋に顔を埋めて深呼吸した。
我が家と思える場所はここだなって感じがする。家の匂いってものがあるなって数日留守するとわかるけど。それ以上に彼の存在が。
「吸ってる?」
「それはこれから」
そう言ってキスしたらふわっと笑ったのがわかった。物理かよ、って思われてるな、ってわかったけど。そうだよ。
作家じゃないな。物書き?
何が違うの。
全然違うでしょ。
会話はそんなふうに始まった。
お散歩エッセイ?
うんまあそんな感じ。
え、本になってるんですか。
なる予定です、連載終わったら。
あ、どこかに載ってるんだ?
うんまあね、雑誌に。
読みたいんだけど!
女性誌ですよ?
買うので名前教えてください。
え、やだ。
やだ?え、だってプロでしょ?
そうだけどリアルで会ったことある人に読まれるのはなんかちょっと。
聞き出そうとあれこれ試してみたけど、絶対ダメって言われ。
でも調べる手段はあるものだ。
作家じゃないな。物書き?
何が違うの。
全然違うでしょ。
会話はそんなふうに始まった。
お散歩エッセイ?
うんまあそんな感じ。
え、本になってるんですか。
なる予定です、連載終わったら。
あ、どこかに載ってるんだ?
うんまあね、雑誌に。
読みたいんだけど!
女性誌ですよ?
買うので名前教えてください。
え、やだ。
やだ?え、だってプロでしょ?
そうだけどリアルで会ったことある人に読まれるのはなんかちょっと。
聞き出そうとあれこれ試してみたけど、絶対ダメって言われ。
でも調べる手段はあるものだ。
そんな声が聞こえたから、思わず笑ってしまった。
「今朝買ってくるって言ってたのに」
「そうなんだよねぇ」
彼はとにかくマイペースで、集中してるときは声も聞こえないみたいになるけど、そうじゃないときは相当ぽやっとしていて、なんでもすぐ忘れてしまう。
さっきまで手に持ってたものをもう探してる、なんてしょっちゅうだ。そういうときは大体俺の方が先に探し物を見つける。そんな大豪邸じゃないんだからさ。
電池がないと気づいたのは、ほんとは今朝じゃなくて数日前だったはずだ。
今はそんなに忙しくないみたいで、毎日散歩には出てるみたいだけど、やっぱり忘れちゃうんだろうな。
そんな声が聞こえたから、思わず笑ってしまった。
「今朝買ってくるって言ってたのに」
「そうなんだよねぇ」
彼はとにかくマイペースで、集中してるときは声も聞こえないみたいになるけど、そうじゃないときは相当ぽやっとしていて、なんでもすぐ忘れてしまう。
さっきまで手に持ってたものをもう探してる、なんてしょっちゅうだ。そういうときは大体俺の方が先に探し物を見つける。そんな大豪邸じゃないんだからさ。
電池がないと気づいたのは、ほんとは今朝じゃなくて数日前だったはずだ。
今はそんなに忙しくないみたいで、毎日散歩には出てるみたいだけど、やっぱり忘れちゃうんだろうな。
「帰ってきてくれたらいいのに。またあとでね、って出掛けたんだから、そのまんまの感じで」
そう言ったら、パパは寂しげに微笑んで見せた。
「そうだね」
そう言ったけれど、でもどこか気のない返事に思えて、私は問い返した。
「そうは思ってなさそう」
思ったことを隠しておけないのが私。パパは良くわかってるから、驚いた顔もしなかった。
「たぶん彼女はもう帰ってきてて、僕らを見守ってるよ。あんなこと言わなきゃ良かったとか、もっと愛してるって言っておくべきだったとか、そういうのも全部わかってて微笑んでる」
それはすてきな言葉だけれど、私には響かなかった。
「帰ってきてくれたらいいのに。またあとでね、って出掛けたんだから、そのまんまの感じで」
そう言ったら、パパは寂しげに微笑んで見せた。
「そうだね」
そう言ったけれど、でもどこか気のない返事に思えて、私は問い返した。
「そうは思ってなさそう」
思ったことを隠しておけないのが私。パパは良くわかってるから、驚いた顔もしなかった。
「たぶん彼女はもう帰ってきてて、僕らを見守ってるよ。あんなこと言わなきゃ良かったとか、もっと愛してるって言っておくべきだったとか、そういうのも全部わかってて微笑んでる」
それはすてきな言葉だけれど、私には響かなかった。
僕は会社員で、なんかのはずみで新しく入ってきた人に嘘をつくんだ。
2020年当時イタリアに住んでた、って。
ロックダウンがあった年だ。
大変だったでしょ?とか言われて、僕は嘘を重ねる。
部屋に一人で孤独だったって話だ。
窓から、停めっぱなしのゴミ収集車が見えたとか、ある日そこに誰かが詩を落書きして、それを書き写して暗唱したとか。
そんな嘘すぐにばれるに決まってるのに、僕はほぼ夢想にすぎない嘘をつき続けるから、気が気じゃなくて。
夢の中でくらい、むしろ大嘘つくのを楽しめばいいのに、って思うのに。
夢見ながら、ばれるに決まってるとか思ってるの?
僕の夢はいつもそんな感じだよ。
僕は会社員で、なんかのはずみで新しく入ってきた人に嘘をつくんだ。
2020年当時イタリアに住んでた、って。
ロックダウンがあった年だ。
大変だったでしょ?とか言われて、僕は嘘を重ねる。
部屋に一人で孤独だったって話だ。
窓から、停めっぱなしのゴミ収集車が見えたとか、ある日そこに誰かが詩を落書きして、それを書き写して暗唱したとか。
そんな嘘すぐにばれるに決まってるのに、僕はほぼ夢想にすぎない嘘をつき続けるから、気が気じゃなくて。
夢の中でくらい、むしろ大嘘つくのを楽しめばいいのに、って思うのに。
夢見ながら、ばれるに決まってるとか思ってるの?
僕の夢はいつもそんな感じだよ。
そう言ったら、彼はスーツの襟の辺りに指をはわせて言った。若干重たそうですらある、しっかりした記事のピンストライプ。
「戦争中に仕立てられたスーツなんだ。シャツはもっと古い」
すごい彼らしいチョイスだったが、あえて言った。
「うん。うちの爺さんが着てた。こういうの」
「絶対言うと思ったよ」
やっと笑った顔があのころのまんまで、ああそうだ俺はこいつをずっと笑わせてないといけないんだった、って妙な使命感みたいなのを思い出す。たぶんはた迷惑なやつ。
「シャツが見えないじゃん」
「そういうもんでしょ」
彼はさらっとそう流して、それから言った。
「ノミネートおめでとう」
そう言ったら、彼はスーツの襟の辺りに指をはわせて言った。若干重たそうですらある、しっかりした記事のピンストライプ。
「戦争中に仕立てられたスーツなんだ。シャツはもっと古い」
すごい彼らしいチョイスだったが、あえて言った。
「うん。うちの爺さんが着てた。こういうの」
「絶対言うと思ったよ」
やっと笑った顔があのころのまんまで、ああそうだ俺はこいつをずっと笑わせてないといけないんだった、って妙な使命感みたいなのを思い出す。たぶんはた迷惑なやつ。
「シャツが見えないじゃん」
「そういうもんでしょ」
彼はさらっとそう流して、それから言った。
「ノミネートおめでとう」
濡れて帰ってきてそのままお風呂に飛び込んだ彼が、タオルを首に掛けて出てきたとき、僕はそう言っていた。
冬の東京はほとんど雨が降らない。ずっと晴れてるってすごいことだよね。
そう言ったら彼はちょっとびっくりしたみたいだった。彼にとっては当たり前のことだからだろう。
「やられたよ。やっぱたまには天気予報くらい見ないと」
案の定、彼は僕の意図とは少し違う返事を返してきた。
「それはそう。真冬に濡れて帰ってくるなんてダメだよ」
「だっていきなりだぜ。でも君は嬉しそうだけど」
「あまりにもぱりぱりに乾燥してたから」
「今日も見てたの?」
「ちょっとだけだよ」
濡れて帰ってきてそのままお風呂に飛び込んだ彼が、タオルを首に掛けて出てきたとき、僕はそう言っていた。
冬の東京はほとんど雨が降らない。ずっと晴れてるってすごいことだよね。
そう言ったら彼はちょっとびっくりしたみたいだった。彼にとっては当たり前のことだからだろう。
「やられたよ。やっぱたまには天気予報くらい見ないと」
案の定、彼は僕の意図とは少し違う返事を返してきた。
「それはそう。真冬に濡れて帰ってくるなんてダメだよ」
「だっていきなりだぜ。でも君は嬉しそうだけど」
「あまりにもぱりぱりに乾燥してたから」
「今日も見てたの?」
「ちょっとだけだよ」
だいぶ山を登って、険しい崖があって、はるか下に急流が流れてる。そんな場所に、誰も知らないブラックベリーの大きな茂みがあって、そこまでわざわざ、手袋と籠を持って登っていくのだ。
父や兄が生きていた頃には、ブラックベリーがなっていない季節にもよく行った。
私には、家族も近所の人たちも、誰もいない、一人になれる場所が必要だったから。
涙が出ても、ブラックベリーの鋭い刺が指に刺さって痛かったから。そう自分に言い訳した。
ブラックベリーのジャムは大好きだけれど、どちらかというとあれは副産物にすぎない。
だいぶ山を登って、険しい崖があって、はるか下に急流が流れてる。そんな場所に、誰も知らないブラックベリーの大きな茂みがあって、そこまでわざわざ、手袋と籠を持って登っていくのだ。
父や兄が生きていた頃には、ブラックベリーがなっていない季節にもよく行った。
私には、家族も近所の人たちも、誰もいない、一人になれる場所が必要だったから。
涙が出ても、ブラックベリーの鋭い刺が指に刺さって痛かったから。そう自分に言い訳した。
ブラックベリーのジャムは大好きだけれど、どちらかというとあれは副産物にすぎない。
でも磔にされたイエスさまの像は、ローマに来て、この教会で初めて間近に見たのです。
イエスさまは、痩せた男の人の姿で、十字架に打ち付けられた手足や、蕀の冠をのせられた額から血を流していました。
僕は最初、その姿をまともに見ることができませんでした。本当に痛々しく、イエスさまはまだ恐ろしい苦痛に耐えていらっしゃるように見えたからです。
でもある晩、僕は見ました。
みんなは夢だと笑ったけれど、本当にあったことです。
夜中の聖堂で、僕は祭壇によじ登って、イエスさまの手足に深々と突き立てられた鉄の釘を一本一つ抜き取りました。
でも磔にされたイエスさまの像は、ローマに来て、この教会で初めて間近に見たのです。
イエスさまは、痩せた男の人の姿で、十字架に打ち付けられた手足や、蕀の冠をのせられた額から血を流していました。
僕は最初、その姿をまともに見ることができませんでした。本当に痛々しく、イエスさまはまだ恐ろしい苦痛に耐えていらっしゃるように見えたからです。
でもある晩、僕は見ました。
みんなは夢だと笑ったけれど、本当にあったことです。
夜中の聖堂で、僕は祭壇によじ登って、イエスさまの手足に深々と突き立てられた鉄の釘を一本一つ抜き取りました。
お風呂から上がったら、髪をよく乾かして、丁寧にブラッシングするの。毎日100回。数えながらとかしましょう。
あなたはとても美しい子だけれど、そうして磨き上げて、それからうちの井戸の特別な水で顔を洗ったら、肌もぴかぴかになるわよ。
この家には「毎日やること」がたくさんあった。でもそれは、何にもしないのにいつも偉そうな父さんに叱りつけられながらやるのではなく、学校でみんなにこっそり笑われるのを、我慢しながらやらなきゃいけないこととは全然違った。
お風呂から上がったら、髪をよく乾かして、丁寧にブラッシングするの。毎日100回。数えながらとかしましょう。
あなたはとても美しい子だけれど、そうして磨き上げて、それからうちの井戸の特別な水で顔を洗ったら、肌もぴかぴかになるわよ。
この家には「毎日やること」がたくさんあった。でもそれは、何にもしないのにいつも偉そうな父さんに叱りつけられながらやるのではなく、学校でみんなにこっそり笑われるのを、我慢しながらやらなきゃいけないこととは全然違った。
そんなことを言ってくるときのあの子は、口だけで、「どうしたらいいのか」なんてちゃんと考えてやしない。賭けてもいい。
昔から、妹は甘え上手で、可愛くて、ものすごくモテるからますます自分で何にもしない。その繰り返しだった。
でもそれでなにもかもうまく行く訳じゃない。
私に頼るか男に頼るかだけど、あの子が好きになる男はたいてい、いい加減で無責任なやつばかりで。
「断る余地なしなの?
いい加減にしてよ、私にだって仕事もあるのに!」
そんな台詞は言うだけ無駄というもの。
断らない私が悪いの?
どうせ「姉さんがどうにかしてくれる」くらいに思ってるに違いないのに。
そんなことを言ってくるときのあの子は、口だけで、「どうしたらいいのか」なんてちゃんと考えてやしない。賭けてもいい。
昔から、妹は甘え上手で、可愛くて、ものすごくモテるからますます自分で何にもしない。その繰り返しだった。
でもそれでなにもかもうまく行く訳じゃない。
私に頼るか男に頼るかだけど、あの子が好きになる男はたいてい、いい加減で無責任なやつばかりで。
「断る余地なしなの?
いい加減にしてよ、私にだって仕事もあるのに!」
そんな台詞は言うだけ無駄というもの。
断らない私が悪いの?
どうせ「姉さんがどうにかしてくれる」くらいに思ってるに違いないのに。
書いてるうちに「それ前にもやりましたね?」「似たような話書いたよね?」と思ってしまって手が止まるのだが...。
でもこれはリハビリなので...。
今のイメージでは50p位でおさまるはずだからたいしたことないはず。手癖でいいからとりあえず進めろや、と自分のお尻を叩いている。
書いてるうちに「それ前にもやりましたね?」「似たような話書いたよね?」と思ってしまって手が止まるのだが...。
でもこれはリハビリなので...。
今のイメージでは50p位でおさまるはずだからたいしたことないはず。手癖でいいからとりあえず進めろや、と自分のお尻を叩いている。
今日も変わり映えのない休日になるはずだった。
普段は素通りするベストセラーコーナーで、大きなPOPになって立てられていた著者の写真を見るまでは。
でも僕はその写真に見覚えがあった。
「見覚え」どころか。
しかし次に目に入ったのは、本の帯に書かれた文字だった。
『注目のゲイスパイノベル!
とんでもなくセクシーで危険なストーリー展開から目が離せない』
偶然の出会い以上に、それは僕を驚かせた。
今日も変わり映えのない休日になるはずだった。
普段は素通りするベストセラーコーナーで、大きなPOPになって立てられていた著者の写真を見るまでは。
でも僕はその写真に見覚えがあった。
「見覚え」どころか。
しかし次に目に入ったのは、本の帯に書かれた文字だった。
『注目のゲイスパイノベル!
とんでもなくセクシーで危険なストーリー展開から目が離せない』
偶然の出会い以上に、それは僕を驚かせた。
そう送った瞬間に電話が掛かってきた。
『あれ。今?』
出たとたんにそう言われて、彼も気づいたんだなってわかる。
「そうだよ。12時ちょうどをねらってた」
そう言ってたら彼は笑って答えた。
『俺も』
最近そういうの増えたよね、とこないだ話したばかりだった。一緒に暮らすようになって、いろんな事がかぶる。なんとなく行動の予想がつくことが増えた。もちろん全部じゃないけど。
「今から初詣行くんだ」
『家族で?うちはもう半分寝てるよ。飲み過ぎ』
彼はそう言って笑って、それから少し声を潜めて続けた。
『寒いだろうから気をつけてな』
そう送った瞬間に電話が掛かってきた。
『あれ。今?』
出たとたんにそう言われて、彼も気づいたんだなってわかる。
「そうだよ。12時ちょうどをねらってた」
そう言ってたら彼は笑って答えた。
『俺も』
最近そういうの増えたよね、とこないだ話したばかりだった。一緒に暮らすようになって、いろんな事がかぶる。なんとなく行動の予想がつくことが増えた。もちろん全部じゃないけど。
「今から初詣行くんだ」
『家族で?うちはもう半分寝てるよ。飲み過ぎ』
彼はそう言って笑って、それから少し声を潜めて続けた。
『寒いだろうから気をつけてな』
急にそう言われて、我に返った。
「あ、」
慌てて携帯を放り出したけど、肩越しに僕の手元を覗き込んでいた彼はにやにや笑っていた。
「人はなぜ芝刈り動画を延々見てしまうのでしょうか」
自分でも本当に時間の無駄だと思うんだけど。
気づくと、インスタで流れてくる、荒れ放題の庭の雑草を刈って整えていくとか、古い屋敷を今どきの内装にリノベする動画とかを見ちゃってるときがある。
庭はないし今住んでる部屋は新築で、別になにか学びがあるわけではもちろんない。
だから僕が、ぼーっと流れてくるリールを眺めているのに気づいたとき、彼は大抵こうやってからかってくるわけだ。
急にそう言われて、我に返った。
「あ、」
慌てて携帯を放り出したけど、肩越しに僕の手元を覗き込んでいた彼はにやにや笑っていた。
「人はなぜ芝刈り動画を延々見てしまうのでしょうか」
自分でも本当に時間の無駄だと思うんだけど。
気づくと、インスタで流れてくる、荒れ放題の庭の雑草を刈って整えていくとか、古い屋敷を今どきの内装にリノベする動画とかを見ちゃってるときがある。
庭はないし今住んでる部屋は新築で、別になにか学びがあるわけではもちろんない。
だから僕が、ぼーっと流れてくるリールを眺めているのに気づいたとき、彼は大抵こうやってからかってくるわけだ。
そこは遠浅の砂浜に優しく打ち寄せる波と、反対側からそそぎ込む小川の真水が出会い、優しく渦を巻く場所だった。砂が形作る、なめらかに浅く窪んだベッドに仰向けに横たわって、顎先で穏やかで複雑な水の流れを感じ、首と肩で水温と、しっかりと私を支えてくれているコーチのしっかりと分厚く温かい手のひらの感触と、波につれてうごめく砂の感触をまとめて受け取った。
私にはもう、胸から下の感覚はない。
それでも感じることができた。波も砂も水も、それらに浮かんで軽くなる自分の体も、私がよく知っていたものだった。
それらは今も変わらずそこにあった。
Penguin Bloom
そこは遠浅の砂浜に優しく打ち寄せる波と、反対側からそそぎ込む小川の真水が出会い、優しく渦を巻く場所だった。砂が形作る、なめらかに浅く窪んだベッドに仰向けに横たわって、顎先で穏やかで複雑な水の流れを感じ、首と肩で水温と、しっかりと私を支えてくれているコーチのしっかりと分厚く温かい手のひらの感触と、波につれてうごめく砂の感触をまとめて受け取った。
私にはもう、胸から下の感覚はない。
それでも感じることができた。波も砂も水も、それらに浮かんで軽くなる自分の体も、私がよく知っていたものだった。
それらは今も変わらずそこにあった。
Penguin Bloom