ケイネすけ
kaynethkay.bsky.social
ケイネすけ
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記録用。当面は自我を持たない読書ツイート置き場にします。
大半のポストはTwitterからの転載・マイナーチェンジです。
トリフィド時代で評されたところの「心地よい破滅」ジャンルとしてこれほどイメージど真ん中な作品もなかなかないんじゃないか。
続きがあってもよさそうなところを、物語はこの一冊で終わりとなる。滅びが決まった二人の旅路をあえて最後まで見せないという空白の余韻があってこその物語なのかも。
February 17, 2024 at 5:14 PM
農作業にいそしむ取締役と秘書、諦めかけた人力飛行に再挑戦する男など、見ようによっては人生引退後のスローライフじみた物語を軸としながら、その一方で滅びた集落の描写などから滅亡寸前の世界のシビアさもチラ見せさせてくる。この辺りの陰気になりすぎない寂寥感のバランスが抜群にうまい。
この辺の調整として、物語の舞台が北海道なのは人間がいない世界の荒廃感をオブラートに包んで不思議とワクワクする旅路に変えるうえでかなり大きな仕事を果たしてると思う。街が出てきた瞬間めちゃくちゃ殺伐としたからね。
February 17, 2024 at 5:14 PM
地球外生命体である「腕」とコミュニケーションを取ろうとひたすらに話しかけ続ける"実験"もユニークながら、そこから生まれたデカい感情が数千年をこえて遠い宇宙で結実するロマンに浸る。「庭」の世界の滅びも、人体を削り取る青色の蝶が世界に溢れかえり白い花畑のみが残る構図がひたすらに絵になり美しい。

本作に登場する「人類」、よく見ると各章ごとに生物種ごとまるっと入れ替わってると思うんだけど、そんなスケールのデカさを300ページ足らずの物語として纏め上げた手腕に感心する。
February 17, 2024 at 5:11 PM
一方で、「どうせ世界は終わるのに人を殺す意味はあるのか?」という"謎"については個人的に「終わるからこそ殺したいんじゃない?」としか思えなかったので、その辺の問題提起はあまり謎らしくは感じられなかった。
とはいえ、それが作品の魅力を損なうことは一切ないし、想像よりも景気のいい動機だったので満足。「もうすぐ終わる世界で人間を殺す理由」としてメインテーマと密接に結びついたとてもいいホワイダニットを見せてくれたと思う。
February 9, 2024 at 2:17 PM
○○○○○○○○○○○○○○○という動機、○○○○○○であることを踏まえると秩序と正義への期待と失望がないまぜになっていてとてもよかった。○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○ところも。
fusetter.com/tw/ogSZIW0X#...

このミステリパートがあったからこそ終わる世界を悲観せず生きられるようで逆説的な爽やかさがある。
終わりのシーンが本当に美しくて、未来への希望でもなく諦めでもなく、ただやりたいことを最後のときまで続ける人間の在り方にはどうしようもなく惹かれてしまう。
February 9, 2024 at 2:13 PM
訳ありの逃亡者兄弟や小さな診療所に身を寄せ合う人々、大型商業施設を活用した残留者集落など、人影もなく閑散とした福岡の街でひっそりと静かに暮らす人々の生活が「まだ世界は滅んでいないぞ」という人間の意地のようなものを見せつけてきて、終末を控えた世界の空気感を存分に味わえる。

ミステリ面については、警察があてにならずまともな犯罪捜査が期待できない世界で捜査を続けるのは終末設定に限らずジャンルの様式美的状況ではある。そういう意味であまり「特殊設定」らしさはないけれど、ただ状況が特異なだけに普通のミステリではありえないような派手な犯行現場が描かれるのは面白い。
February 9, 2024 at 2:11 PM
走馬灯のセトリ、「クランツマンの秘仏」でも扱ったテーマだけど信仰の対象の価値は信仰するもの=生きている人間が決めるという姿勢がかなり好きなんだよな。そこに魂があると考えるならあるし、魂を見いだすくらいの精度を誇る複製テクノロジーはもはや反魂と区別がつかない。
February 9, 2024 at 2:07 PM
「走馬灯のセトリは考えておいて」
本当によかった……。死後の人間をAIとして残す技術を極限まで突き詰めたとき、生者と死者の境はどこにあるのか。死と生、バーチャルアイドルと中の人という二つの"虚実"が物語のなかで混じりあいその境がとけてなくなっていく展開は本当に圧巻。
本人を限りなく正確に模したAI人格というともすれば"偽物"扱いされがちなガジェットに、さらにバーチャルアイドルというもう一枚の虚をかぶせることでそこに魂を見いだすにまで至るの、テクノロジーが死生観さえ超えていく俺が見たかったSFそのものでガチで感動してしまった。
February 7, 2024 at 2:51 PM
「火星環境下における宗教性原虫の適応と分布」
なんだこれ……。「宗教性原虫」という生物が存在するようにも、単なる信仰の伝達の暗喩のようにもみえて読んでるうちにわけがわからなくなる。原虫の学名がいちいちそれっぽいのは笑う。詳しい人がクスッとできる小ネタがたくさん散りばめられてそうな雰囲気はある。俺にはわかんないけど。

「姫日記」
眼鏡っ子美少女毛利元就のもとで全国統一をめざす軍師を数々のクソみたいなバグが襲う。
戦国美少女ゲーのパロディかと思ったら実在するゲームでアホほど笑った。柴田勝家オリジンじゃん。いいのか、これがオリジンで。KOTYの記事と合わせて読みたい一作。
February 7, 2024 at 2:50 PM
「絶滅の作法」
人類滅亡後の地球に住みついた人間を模した生命体がほんものの寿司を食べる話。ほのぼの。背景生物に紛れ込んだ本物のトキを追って市街の外れに出ると水没した都心の荒廃した光景が現れるくだりがいちばん好き。
「人間」として暮らすうちに実存しない背景生物をひとつの人格として扱うようになり、次第に虚実の境界が溶けて人間みたいな反応になっていく。海に出て釣りをする異星人や稲を育てる異星人の姿にクスッとしつつも、その妙に人間的営みに独特の情緒が感じられる。
February 7, 2024 at 2:49 PM
以下、収録作ごとの感想。

「オンライン福男」
『ポストコロナのSF』で読んだやつ!パンデミック後のオンライン化が神事にまで及ぶおかしみから始まり、謎に壮大なeスポーツを経て人と人との繋がりに帰着するの、与えられたお題を完璧に活かしててすごい。「もう普通に走ればいいじゃん」でほっこり締めるラストの温かさが好き。

「クランツマンの秘仏」
異常論文ブームのさきがけとなった短編であり、いつかの無料公開で読んだやつ。「信仰は質量を持つ」という奇想から負の質量という発想に飛躍し、異常なホワイダニットじみたラストを補強していくのは秘仏に取り憑かれた一人の男の妄念が感じられてよい。
February 7, 2024 at 2:46 PM
中盤から終盤の社会再興パートはかなり特徴的な印象を受けた。
崩壊後の世界で効率重視の新たな秩序を築こうとする人々、視力を失った人を見捨てられない人々、キリスト教的価値観に縋る人々、封建制を復活させようとする人々。いろんな派閥が出てきてたぶん作者的にいちばん書きたかったのはここなのかな〜と。

このように内容としてはかなり社会的なんだけど、主人公がヒロインの行方を探して荒廃したイギリスを旅するロードムービー的な側面も強くて素直に読みやすい。やっぱり滅びた世界は旅してなんぼよね。一冊で終末世界を様々な方向から味わいつくす、まさに人類滅亡作品の金字塔的作品でした。
February 7, 2024 at 2:43 PM
トリフィドは人間を殺したらその場で腐るまで待機する気の長い捕食者なので、ゾンビと比べて人類滅亡のペースが段違いに遅いのも絶妙なバランスだと思うんですよね。再建を試みる人類にとって遅れてやってくる隠れた脅威だし、そのおかげで"静"の滅亡としてかなり独特の読み味になっている。
これがゾンビだったら差し当たってゾンビ対策に明け暮れることになりそうだし、中盤の再興社会論みたいな話にはならないだろうな……と。
February 7, 2024 at 2:42 PM
本作が巧妙なのは視覚のうえに築かれていた人類文化を崩壊させたうえで視覚に頼らない捕食者を投入する点で、視覚を失ったことで生物の力関係が一夜にして逆転した様が遅れて実感される点なんですよね。今まで歯牙にもかけていなかった存在が不可避の脅威として人類の生存を脅かしてくる恐怖。

その点、トリフィドというクリーチャーの強さバランスの設定が絶妙すぎる。歩くし増えるし知性もある中距離即死攻撃持ちクソデカ殺人植物、ただしフルフェイスのヘルメットで攻撃は防げるし「トリフィド銃」とかいう兵器で普通に倒せるし火炎放射器でまとめて焼き払うこともできる。人類は直ちに滅びないけどいずれジリ貧だよねくらいの絶妙な強さ。
February 7, 2024 at 2:41 PM
食人植物が襲来する前から街は阿鼻叫喚の地獄絵図であり、人類がいかに視覚に頼って文明を築いてきたか実感できて恐ろしくなる。目が見えなければ食べ物がみつからず死ぬ、それはそう。一夜にして人類とトリフィドの優位関係が逆転した一手としてこれだけ納得できるものもない。

ともすればパニックものとして進んでいきそうな序盤から一転、様々な勢力が人類社会の秩序を回復させようと戦い始めるけれど、いろんな主義主張の集団が次々と登場してさながら社会的思考実験の様相を呈してくるあたりかなり独特で面白い。むしろこの再建パートがメインコンテンツですらある。
February 7, 2024 at 2:38 PM
収録作「ペンローズの乙女」
トロピカルな因習に従って少女を生贄にささげる島の話がカー・ブラックホールをエネルギー源とする情報生命体が観測する宇宙の終焉に準えられていく。作者曰く「とにかく時間のスケールがデカい話を書きたかった」とのことで、SFならではの舞台の飛躍があり景気がよい。
February 7, 2024 at 2:36 PM