紗雪| Sayuki
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つづき〜最後まで (2/2)
「お前、帰ってくるなり食い物にかぶりつきか？先に、ばあちゃんにちゃんと挨拶してこい」 「だって、良い匂いがしたからつい…」 　流石に子供っぽかっただろうかと恥ずかしくなっているところに、見つめてくる優しい目がさらに細められて顔が熱くなる。目を逸らして、なんとはなしに食卓の上を見つめる。なにか、何か言わないと。 「…一番好きなものがない」 　なのに、出てきた言葉は何の色気もない言葉。気の利いたことが言えたら良いのに肝心なところで勇気が出ない。けれど、よくできた兄は気にした風もなく笑った。 「フレンチトーストか？あれは食べる直前に焼いてやる。『焼きたてが最高』なんだろ」 「兄さん、大好き！」 『妹』の顔で彼の腕の中に飛び込んだ。彼が『理想的な兄』であるように私もまた条件反射のように『可愛い妹』をやってしまう。頭上からは苦笑が降ってきて、私の背中に手が回る。 「お前はどこまでも食い意地だな」 「食は幸福と健康な人生の基本だよ！」 「まったく…。でも、あのゲームはお前の負けだぞ」 　なんだっけ、と首を傾げるものの、すぐに気がついてはっとする。昨夜電話で話した「好き」という言葉を使わずに好きと言うゲームのことだ。それはまともに表情に出たらしく、マヒル兄さんが得意げに笑う。 「取り消すのは許さないからな。お前の方から『好き』って言った」 　至近で笑まれ、その声は触れた体からも直接響いて心臓が止まりそうになる。私は唇を噛んだ。 「いいよ、わかったよ。私の負け」 　だってもういつからか思い出せないくらい前から、ずっとずっと負け続けている。この人にも、そしてこの家族という完璧な調和にも。私は顔を伏せ、目の前の体に額を押し付ける。この世の誰が『兄』のために渾身のネイルを塗るものか。 　だから、と私は思う。 　少しだけ抗いたいと。 　私は彼に回した腕にほんの少しだけ力を込めた。いつものハグならもうとっくに身体を離していいだけの時間が過ぎた。だから、あとほんのちょっとだけこの腕の中で待つ。「好き」という言葉を使わずに好きと言いたい。 （これが私の、『好き』） 　 　＊＊＊ 　 　ゲームのルールを確認しておけばよかった、とマヒルは思う。 　使えるのは好き以外の『言葉』に限られるのか、行動も『好き』の表現として使えるのか。ルールに確信が持てないから、彼女の行動をどう理解して良いのか判断ができない。 　腕の中には、甘えん坊の『可愛い妹」がいる。 　いつもだったら、ハグを解いているくらいの秒数を、とっくに過ぎた。 　その行動に、家族としての好意以上の意図はあるのか。 『マヒル兄さん大好き』 　そう言って笑顔で飛びついてきた彼女は、それでも自分を兄と呼んだ。彼女が『兄』を求めるなら、何をしてでも叶えてやる。優して頼りになる、無条件の護り手でありつづける。 （それが俺の『好き』だ） 　でも、と思う。 　あとほんの少しだけ待って、それでも彼女がこの腕の中から抜け出さなかったその時には。 　ゲームのルールを最大限に拡大解釈して、自分の中の獰猛な獣が彼女を喰らい尽くしてしまうかもしれない。 　 「好き」という言葉を使わずに好きだと伝える。 　お互いの次を待つふたりを横目に、秒針は音を立てて時を刻んだ。
January 15, 2025 at 9:00 AM
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続き〜最後まで(2/2)
「では、行ってこい。私は待っている」 「だめだめ、あなたも引くの！一年の運勢を知っていたら、気持ちの準備もできるじゃない」 「気持ちなど準備して一体どうするというんだ。危機管理ならもっと具体的かつ計画的に…」 「もう！そう言う問題じゃないんだったら」 　彼女は有無を言わさずレイを引っ張ってゆく。気がついたら、御籤番号を引くための竹筒を渡されていた。 「私は二八三番。レイは？」 「こちらは、一四番だ」 　巫女たちがそれぞれの番号の棚から御神籤を取り出してくれる。上部には運勢が書かれ、その下には縁起物の詩歌、そして「家移り」「旅行」など、項目ごとのお告げが書かれている。 （――大吉、か…） 　元よりこういう類（たぐい）のものは信じていない。縁起物だから、大吉が多く出るようになっているのだというのが通説でもある。だから、詳細を読むこともせずその紙を折りたたもうとした――時だった。彼女が長い髪を揺らして振り返る。 「っ、…レイ」 　その様子は、先ほどまでの明るさとはまるで違っている。楽しそうに読んでいたはずの紙を握りしめて、まるで今にも泣き出しそうな顔をしている。 「一体どうした？もしかして、悪い運勢でも出たのか？気にしなくていい。統計上、こういうものは――」 「ち、違うの。そうじゃないの。…見て」 　彼女は手にした紙片を指差す。震える指の先を見ると『待ち人』の欄だった。レイはそこに記された一言を読み上げた。 「――『飛ぶ鳥が帰る。信じて待て』」 「レイ、これ…」 「帰る――か…こういう書き方は少し珍しい気がするな。普通だと『来る』とか『来ず』ではないか？ 『待ち人来たる』と言うしな」 「だよね。…なのに、『帰る』なんてお告げ、あるんだ。それに、飛ぶ鳥って…」 　空を飛ぶ職業の人って思っていいのかな――そう呟く声は微かに震えていた。そこには、隠しきれない期待と、失望に終わってしまうのではないかという恐怖感とが透けて見える。レイが自分の手の中にある紙片を確認すると、『待ち人』の欄には『そのうち来る』とあった。今もどこかの災害復興現場で医療支援にあたっているだろう両親のことがふと頭を過（よぎ）ったが、いずれにせよ書き方としてはよくあるタイプだ。 「飛んでいってしまった鳥、戻ってくると思う？」 「今更疑うのか？ここの御神籤はよく当たると言っていたのは誰だ？」 「そう、だよね…書いてある通り、信じて待ってみようかな」 　痛みにうずくまるよりも希望を選び、自分の足でしっかり立とうとするのはいかにも彼女らしい。だからこそ、願わずにいられないのだ。彼女の祈りが、そしてこのお告げが成就して欲しいと。 「叶うといいな」 「うん」 　 　話し合いの結果、御神籤は境内の枝に結んで奉納することになった。少しでも神鳥達の加護が多くあるようにと願って。できるだけ天に近いところに結んでほしい、と彼女にせがまれて、レイは目一杯に手を伸ばし、さらにはその長身で背伸びまでして、人が届く一番高い枝に彼女のおみくじを結んでやる。 「ありがとう。じゃあ次はレイの番だね！」 　彼女がそう言って、預かっていた二枚目の――レイの分の御神籤を手渡してくれる。その時、本当に偶然に、『待ち人』の隣の文字が目に入った。 　 『恋愛　恋敵多し。油断大敵、殊（こと）に旧友に注意』 　 「………」 　レイは眉間を押さえ、暫し黙考する。いくらなんでも出来すぎではないだろうか。 　 　――飛ぶ鳥が帰る。信じて待て。 　――恋敵多し。油断大敵、殊に旧友に注意。 　 　この二つが並ぶと、もはや『彼』のことしか思い浮かばない。動きを止めてしまったレイに、隣の彼女が目を瞬き不思議そうにする。 「どうしたの、レイ。大丈夫？」 「なんでもない。ただ、この神社が霊験あらたかだというのは本当かもしれないと思ってな。きっと、お前の願いを叶えてくれる――そんな気がしたんだ」 「ホント？現実主義者のレイ先生にそう言われるとなんだか強気になっちゃうな」 　彼女の顔がパッと輝いた。レイは、苦笑しながら緩く首を振る。 「まったく、現金なことだ。では、私は気を引き締めるとしよう。何せライバルは多くて、特に旧友に要注意らしいから」 「何のこと？」 「こちらの話だ。行こう、境内を出てすぐの甘味処で絶品のぜんざいが食べられるらしいぞ」 「年明けからあなたのスイーツ好きは絶好調みたいだね」 「ほう、それはお前は食べないということか？」 「もちろん食べるよ！謹んでいただきます！」 「では決まりだ」 　レイは彼女の手を取ると、手のひらを合わせて指を絡めた。いつもと違う繋ぎ方に彼女は一瞬首を傾げたが、結局気にしないことにしたらしい。 （…不発か） 　レイは繋いだ手をポケットに収めると、今度は親指で彼女の手の甲を撫でた。意味ありげに、ゆっくりと。途端に、びくりと彼女の肩が跳ねる。 「…っ」 「どうした？」 「な、なんでもないよ」 「そうか、では行くぞ」 　マヒルが猛抗議する空耳が聞こえてきそうな気もするが、知ったことではない。本当に彼が戻ってくるのなら、スタートダッシュは肝心だ。それでなくても、深空ハンターとしてのパートナーでもある『ご近所さん』や『副業の雇い主』である人気画家から、果てはよくわからないどこぞの『果物屋』まで、警戒すべき相手は多いのだから。 　他愛ないことを賑やかに話しながら、二人は参道を歩いてゆく。一際高い木の枝に結ばれた二枚の御神籤が、初春の寒風に揺れながらその後ろ姿を見送っていた。 　 　神鳥達が本当に願いを運び、記されたお告げは成就するのか――その答えを彼らが知るのは、もう少しだけ先の未来のことになる。 　 　 　 　 （おしまい）
January 5, 2025 at 8:20 AM
sayukiss1016.bsky.social
絶対届いてるよ🫶🫶🫶
これからも二次創作で推しを幸せにしようね❣️
そして…今日の告知ピアノ思念見た⁉️😭
思わず脳内ですばるちゃん呼んだよ💕
December 16, 2024 at 6:59 AM
sayukiss1016.bsky.social
わかるーっ
油断してると突然来るし、当たった時のﾀﾞﾒｰｼﾞ半端ない😭私たち何もﾐﾃﾅｲﾐﾃﾅｲ…頭打ちつけてハイターで記憶を真っ白にしてしまおう🥹
December 3, 2024 at 11:31 AM
sayukiss1016.bsky.social
シオンちゃんもか〜😭私も🌟の何か見ちゃったよ…最推しでのバレはキツいよね。いま一生懸命記憶を漂白してるとこ。忘れたい〜🥹
December 3, 2024 at 8:52 AM
sayukiss1016.bsky.social
😱😱😱
今回そんなに厳しいの…⁉️
早速本天井すり抜けて泣きながら撤退してきたとこだよ…晩御飯食べて気合い入れたらもう一度挑む所存💪🏻
December 2, 2024 at 9:19 AM
sayukiss1016.bsky.social
すばるちゃん頼もしい〜❣️本編がアレな時にも推したちを幸せにできるのが二次創作の良いところだよね🥰

そしてこの画像は初めてみた！何かの企画だったのかな？見せてくれてありがとう🫶
December 2, 2024 at 8:52 AM
sayukiss1016.bsky.social
みなとさんのセイヤS顔もカッコ良い〜(〃ω〃)
安らかに眠れそうですw🪦😇
December 1, 2024 at 12:25 PM
sayukiss1016.bsky.social
葬られようとしてるのにときめいてしまいました…(〃ω〃)
December 1, 2024 at 4:27 AM
sayukiss1016.bsky.social
素敵素敵💓月明かりに照らされてるのかな？かっこいいよー🥰
Shionちゃん小説も絵も描けるなんて多才すぎる❣️
November 9, 2024 at 2:24 AM