#ノート小説部3日執筆
[#ノート小説部3日執筆 『蛇の僧は山を行く』]

_「山路を登りながらこう考えた!」
「とかくに人の世は住みにくい!」
あら、ずいぶんと端折(はしょ)られましたね。しかして、随分と昔に読んだお本を覚えてらっしゃるのは好(よ)い事です。

なにぶん、山の中というのは静かなものでございます。木々の騒(ざわ)めき、獣の声、風など吹けば、いと風情のあるものでございます。
しかして、人里の喧噪好きからしてみれば、なんとつまらぬと思われるのも無理は無いでしょう。
お蛇様のような、祭りと飯が何より好きな方であれば、尚の事。 […]
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August 14, 2025 at 9:36 AM
[#ノート小説部3日執筆 『怖い話のその後は』]

――どうしたの?キミがこんな時間まで起きてるなんて、珍しい。
おいで。あったかいココアを淹れてあげるからね。……いらない?そうかい。でも、水分補給はしておこうか。

眠れないのかい?
お話をしたら、眠くなるかもしれないね。学校のこととか、話してくれるかい?

……学校で読み聞かせ会があったのかい。それが、怖い話だったと。……ベッドの下に、ナイフを持った男が潜んでいて、お友達がそれを見つけて、逃げることができた。と、そういう話だったんだね。
自分のベッドの下が怖くなって、眠れなくなっちゃったんだね。 […]
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August 10, 2025 at 10:15 AM
[#ノート小説部3日執筆 『インタビュー記録:██/██/██_████より』]

続きからメディアリールを再生します……
1:12:08

_……それでね、昔、推しがインタビューで答えていたものがあってさ。
『Q.なぜ貴方が描く星空はなぜ美しいのか?
A.遠く、わずかにしか見えないから、きれいな部分が見えるだけ。美しいと思うのなら、美しい部分が見えるだけ。』
って。

すこし不思議な、哲学的な作品を作っている人だったんだ。その人が新しい作品を出すたびに、SNSのタイムライン上は考察の言葉で溢れ反るほどだった。 […]
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August 7, 2025 at 1:21 PM
[#ノート小説部3日執筆 「あなたを生き物に例えると?」]

『Q.18 あなたを他の生き物に例えると?』
……なんだこの問題。こんなの訊いて何になる。
まあいい。ほどよくマイナーな動物を書いて、説明を望まれたら適当な理由をでっち上げればいい。
だが、とりあえず客観的視点は必要だ。一度、妹にでも訊いてみるか。
「えー?うーん……シーラカンスとか?」
どうしてそんな。というかウチの家柄は『舞い歌う雲雀』のはずだが。鳥ならまだしも、まさか魚が出てくるとは。

「だってお兄ちゃん、化石みたいなんだもん。懐古主義っていうの?頭固いし」
化石というなら、せめて恐竜とかじゃないのか? […]
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August 3, 2025 at 9:46 AM
[#ノート小説部3日執筆 「世間話をしよう。アトランティスの遺跡と、ついでに、ぼくのことを」]

_前略。ここはアトランティス遺跡。
かつては栄光あった王国。今は水底に沈む遺骸。
そんな遺跡は、現代で水の上へと引き揚げられ、跡地すべてが博物館となっている。

「まったく、夢のない話だよ。これだからニンゲンってヤツは」
パイプに火をつけながら、ダイアリングアリゲーターの合成半獣は零した。
少女と言うにはやや憚られる年齢だが、好奇心のみで行動する様は少女と言って過言ではない。
※ダイアリングアリゲーター 大型のワニによく似た生物。恐竜を再生する実験の過程で、遺伝子合成によって生み出された。 […]
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July 31, 2025 at 9:55 AM
[#ノート小説部3日執筆 『……ね、ね、あの黒服。いつも帽子かぶってない?』]

前略。
今日はラウンジの監視業に来ている。いわゆる“黒服”ってやつだね。
ギャング(うち)にみかじめ料を払ってもらっている手前、問題を起こしたくはない。何も言わずに、入り口付近で佇んでおくだけで、十分な抑止力になる。お客様からお話を振られたら、適度な会釈で返すくらいだ。

……今日は客が少ないらしい。キャストのお姉さまや店主も、少しヒマそうにしている。
こういうときは、お姉さまたちの雑談を聞くくらいしかやることがない。
「ね、ね、桜尾(さくらお)坊ちゃんが帽子脱いでるとこ、見たくない?」 […]
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July 27, 2025 at 8:06 AM
[#ノート小説部3日執筆 『ペット……ではない。たぶん。』]

「ただいまぁ〜!みーこ、おるかぇー?」
電気のスイッチを入れながら、奥の暗い部屋に呼びかける。
するとそいつが、音もせずぬるりとやってくる。
部屋の影に馴染むような黒い肌、それ以上に黒くつややかな髪。金色の瞳だけが、その場所に浮かんでいる。
「ん、おかえり」
私が“みーこ”と呼ぶその黒猫は、それだけ言って、また部屋の暗闇に戻っていった。
「やー、相変わらずクールじゃの……」
そういうものだ。

ネコの合成半獣は、元の生き物よろしく気まぐれだ。やりたいことだけやって、他の時間は寝るか遊ぶかしかない。 […]
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July 24, 2025 at 1:33 PM
[#ノート小説部3日執筆 『なにする?なにやる?夏休み!』]

よーし、お前ら!夏休みなにする〜?せっかくなら夢のあることやりたいよなー!
「新馬戦」「コミケ」
お前らー!?おおよそ学生とは思えない回答をするなー!

「新馬戦は夢あるだろ!これから来るかもしれない子が走るんだぞ?」
そりゃそうだけど。というかオメーは未成年だろうが!見に行くな!
「馬券買わなきゃセーフだから!見るだけ、入場料だけだから!」
ぐぬぬぬ……。将来性があると言えるか……。ほどほどにな……。
「今度は推しの孫が走るからさぁ。リコリスブレンの孫、プラムダンデリオンをよろしくな!」 […]
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July 20, 2025 at 12:29 PM
[#ノート小説部3日執筆 『こんにちは。幽霊です!』]

はじめまして、こんにちは。私は幽霊です!
……ちょっと!逃げないでくださいよ〜!
たしかに、いきなり『幽霊』なんて言われて、驚かない方がおかしいですけど。でも、いろいろワケがあるんです。

“哲学的ゾンビ”って、知ってますか?
行動や反応は普通の人と同じだけど、意識が存在しない、そんな存在のことです。
私は、それにかつてあった意識、というわけです。元の身体から分離しちゃって、戻れないんです。 […]
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July 17, 2025 at 12:04 PM
[#ノート小説部3日執筆 『ぶらり高速道路の旅(?)』]

前略。
久しぶりに、先輩(おにいちゃん)を乗せての外勤だ。先輩が迷子になった時の最終手段にされる以外は、トラックに乗せる事は滅多にない。
複数人(ヒトではないが)で行動する事が多い先輩たちだから、トラックの助手席は狭すぎて全員乗らないのだ。

「やっぱアイちゃんの運転っていーよな。街の運ちゃんは荒くてさぁ」
この方……というか先輩たちは皆、私を“アイちゃん”と呼ぶ。本名由来のあだ名は慣れているが、30代のオジサンをちゃん付け呼称するのはどうなのだろうか。
……まあいいか。かわいいし。 […]
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July 13, 2025 at 2:58 PM
[#ノート小説部3日執筆 『近くて遠い水面の歌は』]

合成半獣を有する研究室の場合、特殊な施設を用意する必要がある。
例えを上げるなら、飛空系なら高い天井、水生系ならプールといった具合だ。
「――別に、毎日水を浴びていろというわけではない。お前が使いたいのなら使えばいいと、それだけだ」
研究部長から説明を受けた海棘蛇(かいきょくじゃ)の合成半獣、研究コード:ルルイェは、ただぼんやりと水面を眺めた。

奥行きが軽く10mはあるほどの、やや大きなプールには、なみなみと水が張られている。
仕切りもなく自室から続いているその水場からは、独特の塩素臭が漂ってきている。 […]
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July 10, 2025 at 2:54 PM
[#ノート小説部3日執筆 『ポイント・ネモより、愛を込めて』]

_遠い海。静かな水面。
ここはポイント・ネモ。……を模した心象空間。

誰一人いない空間で、空間の主、留里洋平は、深い水底で目を開けた。
「……あぁ、そういうこともあるよな」
軽い諦めの言葉を吐きながら、洋平はゆっくりと身体を起こした。青い長髪が、海の中に広がって、波に溶けていくような感覚さえある。

本来、心象空間に入ることはごく稀だ。 […]
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July 6, 2025 at 2:01 PM
[#ノート小説部3日執筆 『前略。クソ暑い日より』]

前略。クソ暑い。
「あちぃ、しにそう」
「既に死んでるのに?」
亡霊が二人、ボロアパートの部屋にいる。エアコンなどないので、外気がそのまま部屋の気温になる。

「俺が死んだとき(20年前)より暑ぃよ。なんだよこれ」
片方は、死因が熱中症である。商社営業の外回りで、水分補給を怠った結果がこれである。
死んだときと同じく、ワイシャツに分厚いスーツの姿だ。

「今年は例年以上だってさ。毎年更新してる気がするけど」
もう片方は、死因が溺死である。友人との海水浴で溺れて、一人だけ遠く流された結果がこれである。 […]
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July 3, 2025 at 1:45 PM
[#ノート小説部3日執筆 『ようこそ。パッセンジャーピジョン株式会社へ』]

_おはようございます。これより、説明会を始めます。まず、お手元の資料5ページをご覧ください。

パッセンジャーピジョン株式会社は、合成半獣のみなさまに快適で安全な旅を送っていただくお手伝いをしています。
合成半獣の滞在が認可された土地を選び、その中から安全性の確保された宿を見つけ、その地点までのルートを提案するのが、我々の仕事です。

資料11ページをご覧ください。
この国において、合成半獣は保護対象ではありません。一般的な人間や飼育認可動物のような、最低限守られる権利が無いからです。 […]
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June 29, 2025 at 6:22 AM
[#ノート小説部3日執筆 『散歩道は計画的に』]

蛇は草の根を分けて行く生き物である。
たとえどんなに入り組んだ藪であっても、蛇が歩き続ければ、やがてそれは道になっていく。

「――つーわけで、散歩いくぞぉ。桜尾、おめーもついて来い」
ヤマカガシの合成半獣、九谷 燈羅(とうら)は、同僚を連れて散歩に行くことにした。完全に気まぐれである。
ほぼライブ感で生きている燈羅にとって、誰かと一緒に行く散歩ほど楽しいものはない。

「……えぇ?」 […]
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June 26, 2025 at 3:00 PM
[#ノート小説部3日執筆 『おまえらー、ここは一方通行だぞー』]

「……おまえらー、ここは通行止めー」
気だるげな道路整備が続く。深夜だから人は少ないが、だからこそ来る者の治安はカスだ。

「おまえらー、ここは通ってだめー」
通る者に合わせて口調を変える。というより、前に言ったことを忘れているだけだ。内容が同じなら、ニュアンスでなんとかなる。
「おまえらー、回れ右しろー」
虚空に向かって言ったりもする。俺には妖怪は見えない。気配も分からない。ただ、妖力計が反応したりするから、そこいらにいるのだろう。この世界にはそういうのがわんさかいる。

「はーい、いってらっしゃーい」 […]
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June 22, 2025 at 10:28 AM
[#ノート小説部3日執筆 『お野菜を摂ったので私は健康です』]

……人間だれしも、野菜を摂らないといけないのに、野菜の値段が高いときってありますよね。
私は今です。

なので、買いました。野菜ジュースです。
そのまま飲んでも美味しいですが、今回は一手間加えます。

お酒で割りましょう。ジンの原材料はハーブ、つまりお野菜です。健康ですね。
もうちょっと入れましょう。シャルトリューズです。原材料はハーブ、つまりお野菜です。健康ですね。
美味しいです。五臓六腑に沁みます。健康ですね。

ついでにビールも開けましょう。原材料は麦、つまりお野菜です。とても健康ですね。 […]
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June 19, 2025 at 12:43 PM
[#ノート小説部3日執筆 『ちょっとDancing〜!』]

「え〜っ!?今年は男子も踊るのかァ!?」
前略。そろそろ体育祭の時期だ。

昨今の男女平等を鑑みてなのか、体育祭の演目も変わりつつある。今年は男子と女子とで、違うダンスをするらしい。
どちらもダンスであることには変わらないが、女子は毎年行っているので、統率感がある。しかし男子はというと……。

「振り付けなんて覚えられやしねーよ……」
「これ恥ずぃよな……マジでやんなきゃダメ?」
「おみずおいしい」
そもそもやる気がない。仕方がないことではあるが。

「ホラ、覚えるために動け〜。最初からやるぞ〜」 […]
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June 15, 2025 at 12:31 PM
[#ノート小説部3日執筆 『まったく、ニンゲンって難しいね。』]

「さむーい!」
はいはい、温度上げとくから。まったく、ニンゲンって難しいね。
ずっと座ってりゃ、血の巡りが悪くなって、寒くなるのは自明なのにね。
画面に向かってお話して、時々ガチャガチャやる程度なら、立ちながら作業してみればいいのにね。

「あつーい!」
はいはい、温度下げとくから。まったく、ニンゲンって難しいね。
外が暑いのは分かってるけど、それならずっと点けときゃいいのにね。
お金がかかってイヤなのなら、他の電気を消せばいいのに。『防犯』って言ってテレビなんて点けてないでさ。

「なんかじめじめする〜」 […]
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June 12, 2025 at 5:01 AM
[#ノート小説部3日執筆 『潮風、呼び声、サメの声』]

「漣里(れんり)せんせー、こんばんは!」
一人の子供が埠頭の向こうに手を振った。
「……はい、こんばんは」
その男性は静かに、子供に手を振り返した。船の少女でもないのに、悠々と水面に立ち、陸地を見つめている。

この追江(おいえ)港には、不思議な能力を持った者が多数存在している。彼、塩飽(しわく) 漣里もその一人だ。
『海を渡る』能力を持った彼は、その文字通り、海を歩いてやってくる。

「せんせー!おねがいごとがあるの!」
子供は埠頭の端まで行って、その男に呼びかけた。
「はい、どういったお願い事ですか?」 […]
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June 8, 2025 at 10:29 AM
[#ノート小説部3日執筆 『カツ丼だろ!?そこまで言うなら作ってやらぁ!』]

おいしいカツ丼のつくりかた
①カツを揚げます。
②卵とじにします。
③白米の上に盛りつけます。
できあがり

_「……ナメとんのか?」
あまりにも簡素すぎるレシピメモを見ながら、悪態をつく。その行間が上手くできないから、わざわざ親父のメモを探したってのに。

我が家でメシを作っていたのは、親父だった。母ちゃんは早くにいなくなっちまったから、仕方ないことでもある。 […]
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June 5, 2025 at 12:58 PM
[#ノート小説部3日執筆 『うるせー!カスの嘘ってのはなぁ……』]

「ヘイおねーちゃん、今の小学生がギリギリ信じそうなカスの嘘教えて」
まったく、しょうがない妹だ。いいか?カスの嘘ってのはそういうのじゃなく――
「そういうのいいから」
はい。

とは言ったが……そうだな。『わたパチのパチパチ成分を集めると爆弾が作れる』とか?
「おねーちゃん。わたパチはもう販売終了したよ」
なんだと。あんなに美味くて楽しいのに。

となると……。『麦茶に砂糖を入れると紅茶の味になるが、牛乳を入れるとコーヒー味になる』ってのはどうだ。
「ガチ事実じゃん。嘘じゃないのでパス」
マジかよ。今度やってみるか。 […]
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June 1, 2025 at 5:55 AM
[#ノート小説部3日執筆 『きょうは あじさいが さきました』]

██/█/██
きょうは いえのあじさいに かたつむりが いました。
はれてたので からだけに なってました。
うごいてる のが みたいので 雨が ふってほしいです。
__そろそろ梅雨になって、たくさん雨が降ると思います。かたつむりを見るの、楽しみですね!__

██/█/██
きょうは いえのあじさいが さいてました。青いろの お花でした。
でも かたつむりが いなくなってました。
かなしいです。
__かたつむりがいなくなっちゃったのは残念です。また来てくれるといいですね。__

██/█/██
きょうは […]
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May 29, 2025 at 2:33 AM
[#ノート小説部3日執筆 『プレリュードの一幕、もしくは、偶然と必然の境界を鈍らせる言行について』]

_幕が降りて、一つのお話が終わって、だんだんと現実に戻っていく。身体から熱気が引いて、もう『おかえり』の時間になる。
それが嫌で、一度だけ、閉館まで残ってたことがあったんだ。トイレの一番奥に潜んで、そのまま時間を待って。ずーっと待ってさ。

そしたら電気が全部消えて、非常灯だけが見えて。
なんていうか、ちょっと不気味だけど、楽しそうだったんだ。だって、暗い部屋って、夜って、ちょっとワクワクするじゃん? […]
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May 25, 2025 at 9:26 AM
[#ノート小説部3日執筆 『インターネット・ボイジャーズ』]

_ボイジャーは宇宙を行く。
そこには、生まれ故郷のような空気は無い。あるのは、ほんの僅か遠くに見える、星の住人たちの残響だけ。
そこには、強く輝(て)るような一差しの光は無い。ただ燦然とした星たちの輝きが、四方八方に見えるだけ。

ボイジャーはかつて、青い場所で生まれた、小さな存在だった。
そこの住人たちと同じように、ただなんとなしに生きていた。時々やってくる情報を貪っては、2ケタ、3ケタ程度の文字で会話をする。その程度だった。

ある日、青い場所が突然黒くなる事があった。 […]
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May 22, 2025 at 3:28 AM