作家陣からの重なる攻勢に、芥川氏は困り果てた様子。不十分な印税収入にもかかわらず、文壇をなだめるため借金をしてまで三越の商品券を買い、『読本』の収録作家全員に送るようです。精神を病んでしまった芥川氏には目も当てられません。
https://dl.ndl.go.jp/pid/982991
作家陣からの重なる攻勢に、芥川氏は困り果てた様子。不十分な印税収入にもかかわらず、文壇をなだめるため借金をしてまで三越の商品券を買い、『読本』の収録作家全員に送るようです。精神を病んでしまった芥川氏には目も当てられません。
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1921年から中等国語教材は現代文中心に移行し、高等学校の入試問題でも現代文が出題されました。すでに芥川氏の『蜘蛛の糸』や漱石の『夢十夜』などは教科書や副読本に収録されており、こうしたところからも近代文学を集めた『読本』の持つ意味は大きいと見られます。
1921年から中等国語教材は現代文中心に移行し、高等学校の入試問題でも現代文が出題されました。すでに芥川氏の『蜘蛛の糸』や漱石の『夢十夜』などは教科書や副読本に収録されており、こうしたところからも近代文学を集めた『読本』の持つ意味は大きいと見られます。
こうした手続き上の問題だけではなく、文壇には“人気作家・芥川龍之介”が作品を選ぶことに対する強い抵抗もあるようです。芥川氏が中学生向けに選んだ作品こそが、“正しい近代文学”として権威付けされることへの不安でもあり、文壇の重鎮らは眉をひそめています。
こうした手続き上の問題だけではなく、文壇には“人気作家・芥川龍之介”が作品を選ぶことに対する強い抵抗もあるようです。芥川氏が中学生向けに選んだ作品こそが、“正しい近代文学”として権威付けされることへの不安でもあり、文壇の重鎮らは眉をひそめています。
さらに文壇からの批判も。特に、徳田秋声氏(53)の怒りは激しいものがあります。徳田氏は『読本』第5集に『感傷的の事』が収録されていますが、教科書目的ならばともかく、検定を受けないまま人の作品を無断転用して儲けたとして、露骨なまでに芥川氏を攻撃しました。
さらに文壇からの批判も。特に、徳田秋声氏(53)の怒りは激しいものがあります。徳田氏は『読本』第5集に『感傷的の事』が収録されていますが、教科書目的ならばともかく、検定を受けないまま人の作品を無断転用して儲けたとして、露骨なまでに芥川氏を攻撃しました。
しかしながら、検定を受けないということは売れ行きが格段に落ちることをも意味します。芥川氏にとって作品の選定、編集の作業は思っていたよりも苦労が多く、本職の作家業を脇に追いやってでも編集作業に没頭しましたが、印税が芥川氏の懐をうるおすとは思えません。
しかしながら、検定を受けないということは売れ行きが格段に落ちることをも意味します。芥川氏にとって作品の選定、編集の作業は思っていたよりも苦労が多く、本職の作家業を脇に追いやってでも編集作業に没頭しましたが、印税が芥川氏の懐をうるおすとは思えません。
そのため、芥川氏は文部省検定をあっさりと断念。『読本』中に有島の『小さき者へ』、武者小路氏の『仏陀と孫悟空』『人類愛について』『彼が三十の時』を収めました。これにより、検定済み副読本にはできませんでしたが、かえって収録作品に深みが出たとも言えます。
そのため、芥川氏は文部省検定をあっさりと断念。『読本』中に有島の『小さき者へ』、武者小路氏の『仏陀と孫悟空』『人類愛について』『彼が三十の時』を収めました。これにより、検定済み副読本にはできませんでしたが、かえって収録作品に深みが出たとも言えます。
ただ、文部省による検定を受けるには有島武郎(たけお)と武者小路実篤氏(40)の作品を除外する必要がありました。個人主義や社会主義の思想が作品ににじみ出ていることが背景にあるためと思われますが、芥川氏にとって両氏の作品を除くことは考えられませんでした。
ただ、文部省による検定を受けるには有島武郎(たけお)と武者小路実篤氏(40)の作品を除外する必要がありました。個人主義や社会主義の思想が作品ににじみ出ていることが背景にあるためと思われますが、芥川氏にとって両氏の作品を除くことは考えられませんでした。
例えば、第1集には自身の『トロッコ』のほか比較的読みやすい作品を集める一方、第5集では志賀直哉氏の私小説『城の崎にて』に始まり、夏目漱石の評論『スウィフトと厭世文学』で終える配列になっています。ここからは、芥川氏の意図と同時に深い見識も垣間見えます。
例えば、第1集には自身の『トロッコ』のほか比較的読みやすい作品を集める一方、第5集では志賀直哉氏の私小説『城の崎にて』に始まり、夏目漱石の評論『スウィフトと厭世文学』で終える配列になっています。ここからは、芥川氏の意図と同時に深い見識も垣間見えます。
人気作家・芥川龍之介氏(33)が編集を務めただけあり、取り上げた作家、作品は多岐にわたります。当初は中学生用の副読本として出版されることを予定していたため、第1集から順に、中学1年生向けから5年生向けに並べるなど、その順番にも気配りが感じられます。
人気作家・芥川龍之介氏(33)が編集を務めただけあり、取り上げた作家、作品は多岐にわたります。当初は中学生用の副読本として出版されることを予定していたため、第1集から順に、中学1年生向けから5年生向けに並べるなど、その順番にも気配りが感じられます。
本日、興文社から『近代日本文芸読本』全5集が発行されました。各巻310ページ前後で、低下は1冊1円70銭。明治から大正の120人以上の作家から、おもな小説、随筆、戯曲、評論、日記、翻訳、詩歌など148編の作品を網羅的に取り上げた、いわば近代文学全集の決定版です。
本日、興文社から『近代日本文芸読本』全5集が発行されました。各巻310ページ前後で、低下は1冊1円70銭。明治から大正の120人以上の作家から、おもな小説、随筆、戯曲、評論、日記、翻訳、詩歌など148編の作品を網羅的に取り上げた、いわば近代文学全集の決定版です。